詩 習字の時間が苦手
私は次の授業、憂鬱だった。
何故かというと、習字だからである。
一応、机の上には一式、揃えたのだが、下手くそなので嫌だった。
あとはどうしようかなと思い、立ち上がって彼に会いに行く。
「どうした?」
彼が気づいて声をかけてくれる。
彼も準備が整っており、何となく楽しそうだった。
彼は机の上で指を動かしながら、時計を見ている。
「習字の時間、苦手で…」
「え? そうか? 俺は好きだぞ」
うきうきした声は、遠足を待つ子どものようだった。
羨ましいと思い、彼の机に手を置く。
「私、下手くそなのよ。筆が上手く動かないというか」
「いいんだよ。お前らしく書けば。先生だって、一生懸命、やれば認めてくれるだろうし」
彼が金平糖みたいに、甘くとろける声で言ってくれる。
それから白い筆を手に取り、文鎮の置かれた紙の上を滑らせる。
「こうやって、とめ、はねをしっかりして…」
彼の教えを無駄にしないために、真剣な表情で聞く。
「こうすれば、上手くいくはずだ。分かった?」
「分かったには分かったけど…。筆が思うように動いてくれるか」
「大丈夫。やれば何とかなる」
彼の机に置いた手を、ぽんと叩かれ、その感触を確かめるように撫でる。
「私も習字の塾に行こうかな」
「簡単に言うな。お前にはお前にしかできないことがあるだろう?」
「それはそうだけど」
少しむっとして頬を膨らませると、彼がじっと見つめてくる。
互いに譲らなかったが、私のほうが先にそらす。
「ごめん。確かに、簡単に言い過ぎたかも」
「いいんだよ。…あ、そうか!! 俺が教えるっていうのもありだな」
「え? あなたが…? あ、先生が来た!!」
「早く席に行け」
背中を押され、私は自分の席に戻り、そのまま起立する。
あとで彼に習おうかどうしようか、真面目に考えながら、礼をする。
とりあえず、彼に教わった点を注意しないと。
そう思い、席に座るのだった。




