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第六章

 私とダンテはそれからも頻繁にメールのやり取りをした。そしてクリスマスにはプレゼント交換をし、新年にはカードを送り合った。

 年末年始は室蘭に帰ってゆっくり過ごした。

 そこでおばちゃん達親戚にダンテと知り合った事、日本に来るらしいという事を告げた。

 皆少し驚いていたが、私が自分の為に活動範囲を広げた事を喜んでくれた。

「絵美ちゃん、これ、おじいちゃんの地図帳」

「あ……」

 それは、私の勤めているお台場と住んでいる足立区に赤い丸が書かれたおじいちゃんとの思い出の一冊。

 前に住んでいた札幌の住所にも丸が付けてあるのを見て、愛おしさに溢れた。

「貰っても……良い?」

「勿論よ。そのつもりで探しておいたの」

「ありがとう」

 私は地図でロスアンゼルスを探し、赤丸を付けた。ダンテが住む町を刻んでおきたかった。そして地図帳をカバンに詰め、タオルで折れたり曲がったりしないように保護した。

「じゃ、また来るね」

 おじいちゃんのお墓参りもした。おばちゃんの旦那さんに車を出してもらって雪の中皆でお参りした。

 去る時は名残惜しかったけれど、地図を持っていれば繋がっている気がした。

 私は正月休みの最終日、奥多摩を訪れた。桃の缶詰を訪ねたのだ。

 ダンテの事を聞こうか、それとも仕事の事でも聞こうかと迷っていたけれど何となく新年の始まりにMiraiさんに会いたかったのだ。

「こんにちは」

「いらっしゃいませ」

 三度目ともなると慣れた受け答えに微笑んで「あけましておめでとうございます」と言うと、意外にも「おめでとうございます。今年もよろしくお願いします」と、普通の応えを返してもらった。

 Miraiさんはと言うと、また私が来るのが分かっていましたよといった雰囲気で私を待ち構えていた。

「おじい様、よくお話になる方ですねぇ」

「えっ」

「おじい様、絵美さんに憑いておられますよ」

「はい?」

 思わず聞き返した言葉。

「絵美さんの事を大変強く守護されています」

「おじいちゃんが?」

「はい」

 涙がじわっと沸き上がった。

「あ、あの……どんな様子ですか?」

「貴女より少し背が高くて細身、眼鏡をかけていらっしゃってスーツを着ておいでですね。あら、猫が好きなんですね。抱いていらっしゃいます」

「なにか言っていますか?」

「ふふ、とにかく貴女を自慢されていますね。真面目に働く良い子なんだ、小さい頃から真面目だったって」

「おじいちゃん……死んでまで私についていてくれてるんだ……」

「貴女はこれからおじい様に守護されて生きていく事になりますよ」

「でもこれって占いなんですか?やっぱりMiraiさんの言う事って占いっていうか予言みたいに聞こえたり今日のは霊視って感じだし……」

「占いですよ。当たるも八卦当たらぬも八卦、と言う物では無く必ず当たる占いですが。因みに今日のは占いではなく仰る通り霊視ですね。私は霊感も有りますから。ですから今日のご来店は占い数にカウントされません」

「え、良いんですか?」

「新年のご挨拶とでも受け取っておいてください。今あなたに必要なのは今日お伝えした、貴方の隣にはいつもおじい様が居る事実のみです」

「ありがとうございます!」

 私はダンテの事を聞く事は諦めた。占いの回数の事を気にしたのではなく、おじいちゃんの姿や特徴を見事言い当てられた事と、おじいちゃんが守護してくれるという言葉が私の背中を押してくれた。

 きっと、ダンテは私の運命の人だ。

 だからと言って告白する勇気はまだ無かったけれど、じっくり時間をかけて関係を構築すれば良い、そう思えた。

「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

 その決まり文句が会社中に溢れる今年の初出勤日。なっちゃんに室蘭のお土産を渡した。

「あけおめー」

「あけおめ!これ室蘭のお土産。プリンだよ」

「へー!美味しそう!私は東京が地元だからお土産っていうか……実家の余り物。ごめんね~」

「ううん!凄い、千疋屋じゃない」

「そ。千疋屋のフルーツゼリ―近所の人に貰ったからおすそ分け」

「嬉しいよ、まだまだ東京開拓出来てないから」

「貰わないと千疋屋のフルーツなんて食べないけどね」

「だよね」

 そんな新年の会話に花を咲かせていると係長が出社してきた。なっちゃんとは目配せをして会話を切り上げ、デスクに戻ると係長にそれぞれ新年の挨拶をした。係長はぶっきらぼうに応えてすぐに仕事の割り振りを始めた。

「佐藤君こっちの資料と明日の会議資料よろしく。田中君は営業二課に行って資料取って来てコピー、それから昨年末の最終会議の議事録校正よろしく」

「はい」

 二人して声を揃えて返事をすると係長はゆったりとコーヒーを飲み始めた。

 なっちゃんとはメッセージでもやり取りしていたので、何となく年末年始の様子は伝えていたけれど、ダンテと付き合いたいと思い始めている事は伝えていなかった。

 えっちゃんに必ず当たる占い館の話はしない異にした。信じて貰えるかどうかも分からないし、前々から言ってはいけない気がしていたから。

「えっちゃんは良いなぁ北海道に帰れて。私地元だから帰省っていうものしたことなくて、憧れる」

「田舎だよ?雪凄いし」

「確かに雪下ろしとか大変そうだけど……やっぱり雪景色憧れるよ」

「東京に来てから室蘭に帰ると確かに懐かしいっていうか帰って来たなぁって心から思えるけど、住んでいる方は大変だよ」

 と、言いつつ心の中では大切な雪に包まれた実家を思い浮かべた。

「あー久しぶりの仕事疲れるー」

「本当だね。年末年始今年長かったから」

「去年の年末の会議議事録なんてもう忘れちゃったわよ」

「なっちゃん仕事できるから任せられるんだよ」

「そうかなぁ係長の当てつけだと思うけど」

 私達はランチを終えると急いでデスクに戻った。早く仕事を終わらせなければ新年早々残業する羽目になりそうだったからだ。

「終わった!」

 なっちゃんが大声で仕事の終わりを告げたのは終業時間の三十分後だった。

「私も!」

 丁度私も仕事を終えた。

「一杯引っかけてから帰らない?」

「良いね!」

 なっちゃんの嬉しい誘いに私は賛同した。

 私達はお台場で軽く飲める場所を見つけてお酒を飲んだ。

 翌日も仕事だから、本当に一杯だけ飲んで解散した。

「おじいちゃん、ただいま」

 作ったおじいちゃんコーナーにお線香を焚いて挨拶をした。 

 パソコンを開くとダンテからメールが届いていた。

『今日から仕事だと言っていたね。そろそろ疲れて帰った所かな?さて、京都の日本語学校への入学願書を送りました。これで手続きが済めば晴れて四月から僕は京都に住む事になります』

 四月の京都。きっと桜が綺麗に咲くだろう。私も一緒に見られたら幸せだろうに。そう思った。

『ダンテ、今日は無事仕事始めを終えました。入学願書を出したのですね。貴方が日本に来るのを楽しみにしています』

 ちょっと積極的かな?と、思ったが私は躊躇うことなく送信ボタンを押した。

 今までの私ならあり得ない行動だ。こんなにも純粋に一人の人を想い、待ち焦がれ、やり取りをするのは初めての事。

 私はMiraiさんを信じきっていたし、彼女の言葉が無かったらダンテに出会う事は無かったかもしれない。

 そして待望の四月。

「ダンテ!」

「絵美!」

 私達は四月の金曜日の夜、羽田で再会した。

「待ってたよ」

「ありがとう、メールで言った通り一週間後通学開始だよ」

「うん、その前にディズニーランドでしょ?」

「そう!日本のディズニーランド行きたいですね!」

「あはは、ダンテ日本語上手!」

 日本語でディズニーランドに行きたいと言ったダンテが可愛らしくて私は満面の笑みで応えた。

「少し、日本語、勉強、した」

「うん、凄い!もう日本人だよ」

 you are Japanese

 と、言うとダンテは嬉しそうに言った。

「花見、行こうよ!土日は休みだから京都に行ってお花見しよう!」

「花見、素敵です!行きたい!」

「うん、行こう!」

 私は休暇を使ってダンテに付いて行き、京都に行く前にディズニーランドへ向かった。

 流石の土日、観光客やディズニーランドファン、修学旅行生や外国人で人が溢れかえっていた。

「人多いね」

「ディズニーランドは皆が夢を見る場所だからね」

「夢の国ね。で、ダンテ何に乗る?」

「スプラッシュマウンテン!」

「いきなり絶叫か。良いよ、行こう」

 ジェットコースターを最初に選択したダンテ。少し意外だった。

 スプラッシュマウンテンの行列は長蛇で、一時間半待ちと記載されていた。私はその時間を見て仰天したが、ダンテはニコニコとして列に並んでいた。

 一歩一歩ゆっくりと歩を進めながら京都の話や私の仕事の話をしていると、ふとダンテが私の頬にキスをした。

 何の脈絡も無く、いきなりキスをされてドキッとしたが、自分に「ただの友情」と言い聞かせた。しかし、ダンテは十五分の一度のペースでキスをしてきた。

 もう、これはお国柄では済まされない。ダンテはきっと私を好いてくれている。そう思ったが、なかなか自分から告白を切り出す事はできなかった。

 勿論ダンテからも愛の告白めいた事は言われず、私はモヤモヤしたままディズニーランドで過ごす一日を終わろうとしていた。

 夜、夕食を済ませると花火が上がり始めた。

私が、ダンテに「花火!」と言うとダンテも喜んで花火が見える場所まで出て行った。

「絵美……」

「ん?あ、キレイだね」

「うん、とても美しい。まるで君の様に」

「えっ」

「愛しているよ、絵美」

「あっ……わ、私も!」

 急な愛の告白に私も返答した。

「こんなおじさんだけど迷惑ではないかい?」

「そんな事無いよ!私もその……愛してます」

「嬉しい!幸せだよ絵美!」

「びっくりしたけど……私も嬉しい」

「とっくに僕の気持ちに気付いていると思っていたけれど?」

「だってダンテはアメリカ人だから……その、友情関係でもキスしたりハグしたりするのかと思って、そんな感情あるとは思わなかったから」

「アメリカ人だって好きな人じゃないとキスはしないよ」

「そっか……」

 頬が紅潮していくのを感じた。やっと、私達は恋人になれたのだ。

「今日疲れたでしょう?近くのホテル取ろう」

 勇気を振り絞って言うと、ダンテはにっこり笑った。

「そうだね、でもお金が勿体無いから絵美の家にお邪魔しても良いかな?」

「えっうち汚いよ」

 確か片付けをしたとは思うが、ダンテを泊めるほど綺麗とは言い難い部屋であると思い、断ろうとしたがダンテの意思は固かった。

「絵美の住んでいる所を知りたいんだ」

「う、うん。じゃぁ……」

 私は渋々ダンテを泊める事にした。

「オジャマシマス」

「はい、どうぞ」

 私達は夜遅くに足立区に辿り着いた。

「何か飲む?」

「自動販売機にコーラはあるかな?」

「あると思うよ」

「じゃぁ買ってくる!」

 そう言ってダンテは荷物を私の部屋に置くとルンルンと小銭を握りしめコーラを買いに行った。

「おじいちゃん……告白したばかりなのにいきなりお泊りだって」

 私はおじいちゃんに向かって呟いた。

「絵美!コーラ有ったよ!」

「良かったね。じゃぁ……適当に寛いで。私ビール飲むから」

「絵美はお酒が好きだね!」

「おじいちゃん……この写真の人なんだけど、おじいちゃんが酒豪で私も多分遺伝で……」

「おぉ、グランパ!」

 ダンテはそう言うとおじいちゃんの遺影に向かって手を合わせてくれた。

「ありがとう」

「絵美はグランパに似てるね!」

「そうかな?」

「とても似ている!」

 私はビールを片手に照れていた。これからどうなってしまうのか、そういう思いもあった。

 ダンテはそんな私の気も知らず、といった感じで完全に寛いでいた。恋人になるって言う事はこう言う事なのだろうか?

「日本語ばかりでテレビ、分からない」

「じゃぁ映画でも見る?字幕版の」

「そうしよう」

 私はパソコンを開いてDVDを再生した。古いイギリスの恋愛物の映画だった。

「これは有名だね。僕も何度か見たよ」

「日本の映画は見た事ある?」

「座頭市、用心棒、忠臣蔵大好きだよ」

「時代劇が好きなんだ」

 やはり外国人だから侍物が好きなのだろうか?

 映画を静かに見ながらお酒を飲んでいるといびきが聞こえてきた。

「寝てる……」

 恋人になったばかり、初めての恋人の家。なのにダンテは恋人らしい事をするでもなく眠り始めた。

「疲れたのかな」

 私はそのまま映画の音声を小さくしてお酒を飲んだ。暫くすると私も疲れが出たのか眠ってしまっていた。

 翌朝、目が覚めるとダンテの腕枕の中で私は眠っていた。いつの間にこんな体勢になったのか見当もつかなかったけれど、私は幸せを感じた。

 そっと頭を起こすと、ダンテが眠たそうな目を開いた。

「おはよう、絵美」

「おはよう」

「うん……」

「あ……まだ寝るんだ」

 ニコッと笑った後またいびきをかき始めたダンテ。自由人だ。

 私はシャワーを浴びるとコーヒーを淹れ始めた。

「絵美、ごめんまた寝てしまったよ」

「良いよ疲れてるんだろうし。でも今日は京都に行かなきゃ。来週から学校だし荷物の整理もあるでしょう?」

「そうだね。今日中に京都に行かないと」

「朝ごはん、トーストとコーヒーで良い?」

「僕コーヒーは飲めないんだ。昨日のコーラがまだ残っているからそれを飲むよ。トーストはお願い」

「分かった。ダンテコーヒー飲まないんだ」

「苦いじゃない」

「そうだけど……アメリカの人ってコーヒー飲みながら新聞読んでるイメージ」

「僕の家はココアか紅茶だよ」

「そうなんだ。あ、紅茶あるから淹れるよ」

「ありがとう」

 トーストと紅茶を出すと、ダンテはたっぷりバターを塗ってトーストを食べ始めた。

「絵美の部屋は小さくて可愛いね」

「狭いって言いたいんでしょ~」

「あはは、そんな事無いよ。日本の一般的な家だろう?きっと僕が住む家も同じ位だよ」「私荷物多いから余計狭く感じるかも」

「本が好きなんだね」

「うん、読書は好き。あ、そろそろ出ないと新幹線一本逃しちゃう」

「急ごう!」

 お皿をサッと洗ってカバンを準備した。東京駅へ向かうと日曜日という事もあって人でごった返していた。

 朝一番の新幹線に乗り込んで京都へ向かうと春の風を感じた。そこら中に桜が咲いていて、どこでもお花見が出来そうだった。

「ダンテの家はここね」

「そう、荷物は明日来る事になっているよ」

「今日お布団どうするの?」

「畳だから平気だよ!暖かくなっているしね。あ……でも絵美は」

「私なら大丈夫。最終の新幹線で東京に帰るから。明日から仕事だしね」

「そっか、じゃあこれからは土日、毎週絵美に会いに行くよ」

「えっ毎週?」

「ダメ?」

「も、勿論良いよ」

「絵美も時々京都へおいで。一緒に観光しよう」

「うん、約束ね。さ、荷物早く片付けてお花見行こう!」

 京都北区にある平野神社。桜の名所として知られる場所がダンテの家からは徒歩圏内だ。

「素晴らしい!」

「綺麗だね」

 満開の桜の中、手を繋いでゆっくり歩く。初めて繋いだ手は温かくて大きかった。安心感が得られる手だ。爪には絵具が付いている所があった。画家という職業柄だろう。

「今度桜の絵を描いて」

「それは良いアイディアだ、この桜、写真撮っておこう」

「一緒に写真撮りたいな」

「勿論、ほら」

 肩をさり気なく抱かれ、二人で桜をバックにツーショットを撮った。

 ダンテは何枚も桜の写真を撮っていた。きっと彼が描く桜は美しいだろう。

 あっという間に夜がやってきて、私達は駅で暫しの別れを惜しんだ。

「絵美、必ず逢いに行くよ」

「うん、待ってる」

 人の多い駅なのに、ダンテは気にする事無く私にキスをした。私は恥ずかしいという思いより嬉しいと言う思いの方が大きかった。

 改札口に入るとダンテは私が見えなくなるまで手を振っていた。

 一人で新幹線に乗ると急に寂しさが込み上げた。

 まだ恋人になったばかりだと言うのに、何故だろう?

 私はダンテに教えて貰ったSNSでメッセージを送った。

『愛していると言ってくれて私はとても幸せな気分になりました。貴方も同じなら嬉しいです。明日からの仕事、頑張ります。ダンテも学校頑張ってね』

『今日は花見に連れて行ってくれてありがとう。良い絵が描けそうだよ。今度絵美を描きたいと思うんだ。モデルになってくれると嬉しいんだけど。桜の中に佇む君を描きたい。愛しているよ』

『そんな素敵な絵、是非みたいです。私がモデルで良いのかな?』

『勿論、君がモデルでないと意味が無いんだ』

『分かった。今度京都に行った時に描いてみて』

 私は随分堂々と行動できるようになったと思う。内向的な私は自分が嫌いだった。いつも占いに頼っていて、地味で、毎日を占いに翻弄されていた。それが、こんなに素敵な男性を恋人に持てて幸せだ。

 翌週末、ダンテは約束通り東京に来た。この時、私は仕事の事で悩んでいた。


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