慮外の滞在者
これは、とある人から聞いた物語。
その語り部と内容に関する、記録の一篇。
あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。
灯台下暗し、という言葉は知っているよね?
灯台は遠くまで照らすものの、足下は暗いまま。案外、身近なものほど見落としが多いということのたとえだ。
僕たちも、ついつい先のことへ意識を向けてしまいがちだから、けっこう近くにあるものに気づかなかったりする。そのようなときに、指摘してくれる周りの人がいてくれるのはありがたいことだね。
もっとも、その意味が分からないとどうにも困るかもしれないけれど……。
最近、友達と話していたらふと漏れてきた話でさ。ちょっと、つぶらやくん好みの話かと思うんだけど、聞いてみない?
「最近、猫でも飼い始めたのかい?」
友達は通学途中に、クラスメートからそう聞かれたのが始まりだった。
友達の家は一軒家。場所を知っているなら容易に判別がつくだろうけれど、ペットなどついぞ飼ったことがない。もちろん、今でもだ。
どうしてそのように思ったのかと尋ねると、屋根のてっぺんに黒猫が一匹、丸くなっているのを見かけたというんだ。
時間帯は夕方。この寒い時期だと、友達を含めた家族のうち気づいたものが雨戸を閉め始めるのだが、そのために友達の母親が窓を開けたところ、屋根の上にいた猫が身を起こす。
そのまま屋根の斜面を駆け下りると、母親が雨戸で外と室内を仕切るまでのわずかな間で、家の中へ滑り込んでいったのだとか。母親もそれを気にした素振りを見せないので、てっきり飼い猫だったのかと思ったらしい。
おかしなことだ。
目撃した時間帯は友達もすでに家へ帰っていたし、雨戸が閉められる部屋のすぐ近くにある自室にいた頃合い。外から猫が入ってきたとなれば、すぐに気づきそうなものだ。
よしんば、猫がうまく隠れたとしても、見かけた日が正しければ数日が経過している。その間、わずかな気配も見せないなどあり得るだろうか?
念のため、母親自身にも話を振ったものの、さっぱり気づかなかったのは確からしい。二人して家探しをしてみたものの、やはり猫は見つからなかったそうだ。
もし入ってきたとしても、すぐに出て行ってしまった可能性もある。あとはそもそもクラスメートがウソをついているかもだが、なにかメリットがあるのだろうか?
その後も、このクラスメート以外の人たちも「ペットを飼い始めたのか?」というむねの質問をしてくるようになる。
そのたび違うと答えるわけだけど、どうにもその飼っていると思った動物というのが人によって異なり、猫といえば犬という人もいるし、大イグアナみたいだとか話す人もいる始末。
いずれも屋根の上でうずくまっていることと、ふとした拍子にそこを駆け下りて、窓から家の中へ入っていくということが共通していたんだ。
もし、話を聞いた全員が示し合わせて友達に話しているのであれば、たいしたものだと思うけれども陰謀論の領域だろう。実際、母親も似たような指摘を受けたことがあった、と告げてくる始末。
どのようにしたものか……と悩んでいたところ、長期出張に出ていた父親の帰宅日がやってきた。
この際、おみやげがあったらしい。
具体的な商品名を出すとまずいかもしれないからな。いろいろな味があるまんじゅうタイプ……とでもいっておこうか。
友達と母親はおみやげを受け取りつつも、ここしばらくの間でうわさされることを話す。
すると、父親は目を丸くしながらも、「ならば、今回のおみやげが効果があるかもしれないな」とも漏らしたらしい。
ちょっと珍しめなお菓子であるそのおみやげは、地元だと宇宙から降ってきた石をモチーフにしたということと、これに惹かれてお化けや宇宙人が奪い合いをした、というたぐいのいわくがあるらしい。
そんなバカな、と普段だったら一蹴していたところだけれども、他のみんなだけが気づいている我が家のおかしな状態を聞き続けていたら、ちょっとは興味も出てきてしまう。
ものは試しと、おみやげのうちの3分の1をティッシュに乗せて、玄関脇へ置いてみたらしい。
このようにしておくと、夜のうちに家にいるお化けのたぐいたちが、お菓子を奪っていってしまうのだとか。取っていった彼らは感激するのか、そのまま遠くへ去っていってしまうとされ厄払いの一種とみなされることもあると。
本当は狐狸などが夜中にくすねていくと考えられるものだが、その日の晩。友達はトイレへ起きた際に、玄関のすぐ外からかすかに物音がしていたらしい。
足音を忍ばせて寄っていったところ、例のおみやげを置いたあたりだけが、闇に染まった夜の中でぼんやりと青白く光っていたらしい。そこに映し出される影は、目撃者たちが話していた猫や犬やイグアナらしくものの影が集まっていたとか。
翌朝になると、おみやげはティッシュを残して完全に消え去っていたものの、例の屋根に現れて窓へ入っていく生き物たちについては、尋ねられることはなくなったのだとか。
彼らがどこからきて、どうして家の中へ入ったのか。ずっととどまっていたら、何が思っていたのか。いまだ分からずにいる。
それでもまたいつかウワサされたときのために、友達は旅行の機会があると、くだんのおみやげを定期的に購入しているのだとか。




