第8話 花音の戦い Fainal round
聞くところによると、わざわざ俺に会いに来たこのお兄さんは姫柊世一さん。花音のお兄さんらしい。
純白の白スーツで迎えに来た世一さんは、さながら白馬の王子のようで——————まぁ、片膝をついて手を差し伸べられた時はさすがに引いたけど。
「いやー、急に連れ出すような真似をして悪かったね」
言いながらも、ケタケタと笑っている。
本当に申し訳ないと思っているのだろうか。
こういうところ、花音に似てるかも。
ちなみに現在、姫柊宅にお邪魔しております。
何気にクラスの女子の家に来るのは今回が初だ。
それなのにどうしてだろう、全然ドキドキしない。
「いえ、午後の予定正直めんどくさいと思っていたので大丈夫です」
「今日の午後の予定は部活動紹介だったかな。確かに、黙って何時間も聞いてるのは生き地獄だよな。しかも興味のないことなら尚更ね」
世一さんが、俺の前にホットコーヒーをそっと置く。
カップの下皿には、ご丁寧にミルクとシュガーも添えてある。
そして世一さんは、自分のホットコーヒーを持って俺の向かいにゆっくりと腰を掛けた。
何だろう、俺にとっての生き地獄が始まる予感がする……。
「そう身構えないでくれ。俺はただ雅春君と少し話がしたかっただけだ」
「話、と言いますと?」
世一さんは、コーヒ―を一口啜ってから俺の後に続く。
「君が本当に花音の友達なのか知りたくてね。昨日花音に聞いてもあやふやな回答しか得られなかったから、こうして俺自ら調査を行うことしたというわけさ」
「……な、なるほど」
今朝の花音の様子がおかしかったのは、多分この兄のせいだ。
花音的には、俺と口裏を合わせたかったのだろう。
てか、今時妹の近辺調査をする兄って、普通にやばくないか……。
もしかしたら俺、やばい一家に目を付けられたのかも。
「花音の学校鞄に盗聴器も仕掛けさせてもらったんだけどね、俺的にはどうしても君たちが友達同士とは思えないんだよね」
そう言って再び、世一は優雅にコーヒーを啜る。
やばいよ、やばいよ、やばいよ! この人マジでやばいよ!!!
え? これ俺がおかしいの? なんでこの人は至極当然な表情で語ってんの!?
いくら妹とはいえ、普通に犯罪だから!
この時ばかり、花音を可哀そうだと思ってしまった。
「それで、返事を聞かせてもらえないかな。雅春君、君は本当に花音の友達なのかい?」
俺を見つめる世一の鋭い眼光に、思わずたじろいでしまう。
ごめん花音、俺は正直に話をすることにするわ……。
「花音さんには短い付き合いとはいえ、かなり良くしていただいているのは事実です。ですが、彼女を友達と呼べる存在かどうかと言われると……」
「NO……か。……ふふ、花音。お兄ちゃんに嘘を吐くとは悪い子だなぁ? 帰ってきたらたっぷりお仕置きしてあげるよ……」
一見するとただ笑っているだけに見えるのだが、多分内心では激おこだ。
よし、俺は何も聞かなかった。まだ時間があるとは言え、花音が帰ってくる前にさっさとおいとましないとな。
「そ、それでは俺はこの辺りで失礼します……」
「ちょいちょいちょい、俺からの話はまだ一割しか終わってないぞ? 話はまだ九割も残ってるんだ、もう少しゆっくりしていってくれ」
「は、はい。ありがとうございます」
残り九割って、マジかよ……。
俺的には今の話で十割十分なんだけど。
この話の内容で一割って考えると、残りの九割って……。
この先のことを考えるだけでもゾッとする。
「雅春君は花音と友達になりたくないのかい? 身内のひいき目だが、かなり純粋で誠実な子だと思うんだがね」
純粋? 誠実? え、どちら様ですか? ……って言えるわけもなく。
「いや、花音さんが魅力的なのは重々承知しております。ですが……」
「裏切られるのが、まだ怖いかい?」
「!? どうしてそれを……っ!」
「今朝、花音が君のことをフルネームで呼んでいただろう? そこから君の近辺調査をさせてもらったんだよ」
盗聴って、マジで怖い……。
花音がフルネームで呼んでいたかは記憶に残っていないが、世一さんがそういうのならきっと呼んでいたのだろう。
「確かに、あの嘘告白は人としての道徳を欠く行為だと言えるだろう。許されざる行為と言ってもいい。だが——————」
そして世一さんは、俺の目を真っ直ぐ見つめながら言葉を綴る。
「——————『汚い嘘』もあるが、『綺麗な嘘』も世の中には沢山ある。だから、もう少し世の中に目を向けても良いと僕は思うけどね」
「……まあ、そうですね」
正直、なんで俺の気持ちも知らない人に『嘘』について説かれなければいけないんだって感じ。
そもそもの話、嘘は嘘でしょ。
『汚い嘘』だろうが『綺麗な嘘』だろうが、結局は相手を騙していることに変わりないのだから俺からすれば同罪だ。
人と人は本心で語り合うべき、それが人のあるべき真の姿だろう。
嘘を綺麗なものもあるで片付けられる人は、きっと嘘で酷い仕打ちであったことがないに違いない。
だから世一さんは、そんな綺麗事を平然とした面持ちで語れるのである。
多分、俺と世一さんは一生相容れることはないだろうな。
「正直、これに関しては実際に体験しないと伝わらないケースが多い。今の話を聞いてもまだ納得できないと思うが、そのうちその意味を分かる時が必ずくるはずだ」
「こんな俺にも来ますかね」
「もちろん必ずくるさ。なんせ世の中の大半は嘘で構成されていると言っても過言ではないからね」
「ハハハ!」と甲高く笑う世一さん。
世の中の大半は嘘で構成されているって話、俺からしたら決して容認できない事実なんですけどね。全然笑えませんけどね。
コーヒーカップをゆっくり口に運ぶと同時、突然誰かが玄関で暴れている音が聞こえてきた。
それから間もなくリビングの引き戸がバンッと乱暴に開けられ、俺はそこに現れた金髪の少女と偶然にも目が合う。
特徴的とも言えるアーモンドのような大きな碧眼から、徐々に色が失われていくのが分かった。
「おかえり、花音♡ ちょっとお兄ちゃんとお話しよっか♡」
「……ゲームオーバー……」
花音がその場で膝から崩れ落ちた。
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