第5話 花音ちゃん大ピンチ!
「ただいまー」
マサくんとお茶を楽しんだ後、私は寄り道することなく真っ直ぐ家に帰った。
明日も学校があるからというのも一つの理由だけど、単純に疲れたから家に帰ってきたというのが一番の理由だ。
一日の疲労度合いを円グラフに表すと、マサくんと話すのが一割、残りの九割が気疲れといったところかな?
いやー、慣れないことするのはやっぱり精神的に疲れますなー。
「おかえり、今日も学校は楽しかったかい?」
私の帰宅に優しい笑顔で迎えてくれたのは、今年から新社会人となった兄の姫柊世一だ。
世一にぃを一言で表すと、『頭の回転早すぎお化け』。学力はそこそこなんだけど、なんせズバ抜けて自頭が良い。
その自頭の良さで、私は中学生の時に両手では数えきれないほど沢山助けてもらってきた。
その節もあり、私の中で世一にぃは両親よりも逆らえない王様的存在となっていた。
つまり、私は世一にぃの従順な下僕。
「うん、おかげさまで楽しかったよー」
「そっか、ちゃんと学校に馴染めるか心配だったんだよ。まぁ、まだ入学して二日目だしこんなこと言われても困るか」
ハハハと乾いた笑みを浮かべる世一にぃ。
ちなみに、家に帰る度に「学校は楽しかったかい?」と聞かれている。
本当、世一にぃには色々と心配かけさせてばかりだな……。私ももう少ししっかりしないと。
「私なら大丈夫だよ。世一にぃは会社どんな感じ?」
「んー、まだよく分かんないかな。入社してまだ一週間ぐらいしか経ってないからね。一昨日からだったかな? OJT研修を終えて独り立ちしたよ」
「よく分からないとは一体……」
世一にぃの要領の良さは昔から知ってるので、これしきの事では大して驚かない。
「相変わらずのハイスペックを活かしてるなー」としか思わなかった。
「まぁ、同僚にも恵まれているしね。楽しく社会人生活を送ってるよ」
「そっか、それはよかったね。……とりあえず、そろそろ家に上がってもいいかな? 着替えてから話の続きしたい」
「あ、ごめんごめん。確かに玄関で立ち話することではないよな。ゆっくり着替えておいで、花音の好きなオレンジジュース入れて待ってるから」
「ほーい」
そして私は、革靴を脱いで自室へと向かう。
やっぱり、家は変な気を遣わなくていいから気楽でいいなー。
「あとでゆっくり聞かせてよ。——————花音と友達の話」
世一にぃの何気ない一言に、反射的に動きを止めてしまった。
「と、友達の話?」
「そうそう、だって今日も帰りが遅かったのは友達と放課後に遊んできたからだろ? 今度俺にも紹介してよ。花音の友達がどんな子かも気になるしね」
「……オーケーオーケー。分かったぜ、マイブラザー。私の親友の話を後でゆっくり聞かせてやるぜ」
「花音……? お前、そんなキャラだったっけ?」
しまった! このキャラ設定は学校の人といる時だけだった!
うっかりこの口調が出てしまったのは『友達』という単語が出た瞬間、マサくんのことを思い浮かべてしまったからだ。
初めて見る妹の姿に、世一にぃの目が点になっている。
とりあえず、何事もなかったかのように振舞わなければ!
コホンと一回咳払いをして強引に話を戻す。
「と、友達ね。大丈夫、機会があればきちんと世一にぃにも紹介するから」
「友達の予定もあるだろうから、それは仕方ないよね……。とりあえず、明日俺予定空いてるから連絡して聞いてみてくれないかな?」
「明日!?」
唐突な提案に、思わず声を荒げてしまった。
てか、世一にぃに言われて今更ながら気が付いたんだけど、私マサくんの連絡先知らないじゃん……。
それは果たして友達と言えるだろうか……。いや、普通にありえなくね!?
このままでは兄に疑われてしまう。こうなったら……仕方がない!
「えっと、私の友達ね、スマホ持ってないんだ。だから今すぐに連絡取れないんだよね……」
「今のご時世、しかも高校生でスマホ持ってないとかあるのか?」
「えっと、彼の実家が結構貧しいらしくてね。スマホ買うお金がないみたい……」
「カレ?」
世一にぃの右眉がピクリと動いた。
ん? 何か変なこと言ったかな…………。あっ。
気が付いた時には、すでに手遅れだった。
険しい表情の世一にぃが、私の両肩をガシッとホールドする。
「花音。まさかだと思うが、入学して二日目で男遊びしてるんじゃないだろうなぁ?」
「い、いえ……。そのようなことは、決して……」
「じゃあ、明日必ずその彼を家に連れてくるように。男遊びじゃないなら当然できるよな? もし、連れて来なかったらどうなるか……分かるな?」
「か、かしこまりました……。明日、必ず連れて参ります……」
正直、マサくんが私の家に来てくれる未来が全く見えない。
うん、こりゃ明日は嵐の予感がするぞー。(笑)
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