第3話 選択授業
翌朝、登校して自分の席に突っ伏していると背中をツンツンされた。
いや、ツンツンされたような気がする。多分気のせいだ、そうに違いない。
「とうっ!」
威勢の良い声を共に右脇を思い切り突かれた。
「うひゃっ!?」
突然奇声を上げたせいで、注目が一気に俺に集中する。
嘘告白の件で変に目立っているのに、これ以上の悪目立ちはしたくないんだけど。
原因は右隣にいる金髪美少女のせいだ。てか、本当にクラスメイトだったんだ……。
「こら、マサくん! なんで昨日は私を置いて帰っちゃったのさ~」
「いやいや、お前が先に帰ったんじゃん。この食い逃げ女」
「いやいやいや! 女の子が荷物を持って席を立ったら化粧直し以外にないでしょ! 言いがかりはやめて欲しいなー」
「そんな世界線を俺は知らない」
「残念だけど、これが現実なんだよなー」
「さいですか」
それだけ言い残して、俺は再び机に突っ伏す。
「こらこらこら、私を無視して眠りにつこうなんて失礼じゃありませんかね?」
「……」
「公衆の面前で抱きついちゃうぞ?」
「マジでやめろ。てか早く席つけよ」
「ほいほ~い」
はぁ、ようやくうるさいのがいなくなった。
そう思った矢先、後ろからツンツンされる。
確か、彼女の名前は姫柊花音。そして俺の名前は久山雅春。
嫌な予感がするので、俺は決して後ろを振り返らないことにした。
すると今度は、俺の背中に何やら文字を書き始めた。考えたくもないのに、神経が無意識に背中に集中する。
こ、っ、ち、み、な、い、と、さ、す、よ、♡
思わず俺はその場で飛び跳ねた。
クスクスと後ろから笑い声が聞こえてくるので振り返ると、そこにはイタズラな表情を浮かべた花音の姿が。
その手には、しっかりとシャーペンが備えられている。
「お前、一体何がしたいんだよ……」
「ん~? 私はマサ君と友達になりたいだけだよ?」
「……」
「どした、急に真剣な顔して。正直キモいぞ」
「思っても口に出すな。それより、さっきから気になってたんだけど、なんでマサくん呼び?」
「やっぱり友達なら名前呼びかなーって!」
「マサくんって名前呼びじゃなくて愛称呼びだけどな」
「あ、ほんとだー! じゃあ友達じゃなくて親友だね!」
「マジ意味が分からん」
本当に変なヤツ……。
てか、そもそも友達になったわけじゃないんだけどな。
それから間も無くして、始業の予鈴が元気に鳴り響く。
本日の予定はというと、各科目の教科書購入と選択授業の申請手続きで一日の予定は終了だ。
入学してからの数日は、比較的楽な予定になっているので早く帰れそうだ。
「ねね! 今日学校終わったら遊びに行こうよ!」
前言撤回、どうやら楽には帰してくれないらしい。
運命、俺はお前を恨むぞ。
「おーい、聞いてるのかー」
シャーペンで背中をツンツン突いてくる。
まあしばらく無視してたら、そのうち飽きてやめるだろう。
しかし、花音も強情な奴で一歩も引こうとしない。むしろ、エスカレートして突くスピードが段々と早くなっていく。
お前はキツツキか。
「よーし、みんな席に着いているなー。出席取るぞー」
予鈴から少し遅れて教室に入ってきた先生が点呼を取り始める。
それから滞りなく点呼も終わり、先生が順に教科書購入のプリントと選択授業の申請手続きのプリントを配り始める。
しかも、席の前の人から後ろの席の人へと配っていくシステム。
最悪かよ。だって俺の後ろの席のヤツって……。
考えている間に自分の手元にプリントが回ってきて、俺はヤツに背中を向けたまま後ろにプリントを回す。
「……」
はいはい、そういうことね。さっきまで無視され続けたから、私も無視しますわ〜っていうスタンスね。
ずっと体勢も疲れるので、俺はさっさとヤツの机の上にプリントを置いて事を終えることにした。
そして、俺が後ろを振り返ろうとしたその時、頬に何か突き刺さる。
「……おい」
「ぷぷっ、お兄さん意外と可愛いところあるではありませんか〜」
目の前には右手を唇に添え、したり顔を浮かべる花音の姿があった。
コイツ、本当に何がしたいのかマジで分からん。
「なに、無視されたことへの仕返しのつもり?」
「ふっ、君の瞳にはそんな風に映るんだね」
「うん、だからそう聞いてるんだが?」
「それはそうと、選択授業何にするー?」
「お前と話をしてると急に話が飛躍するから疲れるわ……」
会話のキャッチボールをする気はないのだろうか。
まあ、俺が言えたギリではないが……。
「やっぱり、こういう選択授業って友達と受けるのが一番良いよね〜」
「授業受けるだけなんだから、友達なんて必要ないだろ」
すると花音は、人差し指を立てて横に振る。
「チッチッチ、分かってないな〜。分からない問題があった時、君はどうするのさ」
「授業終わった後に先生に聞きに行く」
「……そういう手もあることは認めようじゃないか。だが、友達と先生に聞くのでは心理的ハードルに差が……」
「そもそも、最初から誰かに頼ろうとするのはどうなん? 誰かに頼るのって、一人じゃどうしようもない時の最終手段じゃないの?」
「……はっ! なるほど、そういうことか!」
何がそういうことなのか全く分からないが、俺は姿勢を前向きに直る。
選択授業は……音楽、美術、書道の三つか。
正直、音楽と美術は苦手だ。
歌も上手くないし楽譜も読めない。絵も下手くそだ。
だから俺は、消去法で書道を選択した。
「選択授業の申請手続きのプリント書けたかー? 書けたら後ろから前へ送ってくれー」
先生の合図と共に、生徒一同が一斉に動き出す。
ちょんちょんと後ろから肩を叩かれた。
「はい、どうぞ」
花音からプリントを受け取り、自分のを重ねて前の人に送る。
そして再び、ちょんちょんと後ろから肩を叩かれた。
「選択授業でもよろしくねっ!」
「いや、一緒の授業か分かんねぇだろ」
「え? 書道じゃないの?」
「は!? 俺のやつ盗み見したのか!?」
思わず声を荒げてしまい、クラスの視線が俺に集中する。
先生から軽く注意され、俺は再度花音に問いただす。
「なんで?」
「なんでって、マサくんが言ったんじゃん。誰かに頼るのって、一人じゃどうしようもない時の最終手段だって。だったら必然的に書道にならない? ほら、書道って特別な専門知識とか技術とか要らなさそうだし」
なんだろう。なぜかこの時、花音に自分と同じ何かを感じてしまった。
「私は、照れ屋なマサくんが遠回しに教えてくれたのかと思ったけど?」
「アホか、ボケ」
うん、多分気のせいだわ。
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