第25話 姫柊家緊急家族会議
「——————ただいま」
玄関扉を開けると、一組のビジネスシューズが目に入った。
相変わらず、ご帰宅が早い事で。
てか、高校生より帰宅が早いのは社会人として良い事なのかな?
当たり前だが、社会人を経験した事がないからその辺りの機微がよく分からない。
……いや、違うか。
多分、私のせいだ。
私のことになると、世一にぃは何もかもを切り捨てる。
それが家族だろうと、友人だろうと、常識だろうと、趣味だろうと、仕事だろうと——————そして恋人だろうと。
私のせいで、世一にぃはどれほどの大切を切り捨ててきただろうか。
両手両足だけでは、絶対に数え切れない。
だから私は、これ以上世一にぃの人生を滅茶苦茶にするわけにはいかない。
そう、滅茶苦茶にするわけにはいかない……。
私も今年で高校生になったんだから、自分のことは自分でなんとかしないと。
このまま世一にぃにおんぶにだっこ状態を続けていたら、きっと私は人としてダメになる。
「……よし。とりあえず、今後どうするか考えるか」
私はリビングにいるであろう世一にぃに、顔を合わせることなく自室へと向かう。
そして扉をゆっくり開け、私は目を見開いたまま固まった。
なんで、世一にぃが私の部屋に……?
「花音、おかえり」
「いやいや、え? 普通に挨拶してるけど、年頃の妹の部屋に勝手に入るのって世間的にアウトじゃない?」
「何を言ってるんだ。世間のルールが我が家のルールってことじゃないだろう?」
「いや、それはそうなんだけどさ……」
「不服だと言うのなら、世間のルールを我が家でも適応するかい? まず初めに、この部屋の一ヶ月のレンタル料金を家賃から逆算して……」
「分かった、私が間違ってた。とりあえず、着替えたいから部屋から出てもらえるかな?」
そう促すが、世一にぃはこの場から動こうとしない。
というか、この場から絶対に離れないという信念すら感じられる。
多分、勘づかれてるっぽい。
「どうせ、俺を追い出して引き籠るつもりだったんだろ? やり口が安直だ」
「うっ……」
やっぱり、バレてた。
こういう時、自頭の良い人間は嫌いだ。
「なんで一人で悩みを抱え込もうとするんだ? 別に誰かを頼ることは悪いことじゃない。誰かに頼ることで、考えの幅がもっと広がる。今の花音に大事なのは、考えの幅を広げるための経験値稼ぎだ。経験値稼ぎとして、俺の意見を聞いておくのは得策だと思うぞ」
「……分かってる、分かってるよ。でも、違う。違うんだよ……」
そういうことじゃないんだよ。
確かに、世一にぃの話は整合性が取れている。
未熟な私ですら、それが正しいってことは分かってる。
でも、でもさ……。
私の経験値稼ぎのために、世一にぃが人生を棒に振るのは間違ってるよ。
だから私は、誰も傷つけず、誰にも迷惑をかけず、誰も犠牲にはさせない。
成功と失敗という経験値を糧に、私は私の考えの幅を広げていく。
そのために、私には立ち上がるための両足があるのだから……。
「……世一にぃ、ごめん。今回は私の力で何とかしたい。正直、世一にぃの言ったことは間違ってないと思う。でも、私のために世一にぃが犠牲になるのは違うと思うから」
「……やっぱり、花音は雅春君と似ているな」
そう言う世一にぃは、どこか悲しそうだった。
そして世一にぃは、重い腰をゆっくりと上げながら言葉を綴る。
「まあ、花音がそう決めたのなら俺はその意思を尊重するよ。最後に一つ、昨日の夜に俺が花音に与えた課題はちゃんとやってきたかい?」
「うん、やってきたけど。何も効果なかったよ」
昨日の夜に開かれた、姫柊家緊急家族会議で与えられた世一にぃからの三つの課題。
一つ目は、マサくんから距離を置くこと。
二つ目は、気まずくても学校にはきちんと通うこと。
最後に三つ目は——————素の自分で居続けること。
正直、世一にぃがこの課題をわざわざ出した意図が未だに分からない。
私が趣旨を分かっていないのを悟ったかのよに、世一にぃは私の髪を流れに沿って優しく撫でながら言葉を紡いだ。
「結果をすぐに求めちゃいけないよ。大事なのは時間と行動だ。そうでなければ、本物じゃない。だから、花音にとってはしばらくの間は試練になるかもしれないね」
「それってどういう……」
「ヒントはここまで。あとは自分で考えてみなさい。今回は自分の力で何とかしたいんだろ?」
「うっ……。それを言われると弱い……」
「まぁ、三つの課題も遂行するかしないかは花音の判断に委ねるよ」
それだけ言い残して、世一にぃはリビングへと戻っていった。
少し遅れて、私は制服から私服に着替え始める。
着替えながら、考えた。
マサくんは何を考えて、何を思って、そして私はマサくんに何をしてあげたいのか。
きっと私自身、マサくんのことで考えが浅はかすぎたんだ。
だから美彩さんに依存とか寄生とか言われたあの時、何も言い返せなかった。
自己中心的な考えな上、マサくんに一方的に寄りかかってたら、そりゃ寄生って言われても仕方ないよね。
だから明日、きちんとマサくんと話をしてみよう。
その上で、私の秘密もきちんと打ち明ける。
そうすれば、私たちの偽りの関係も、きっと本物の関係になれるはずだから。
だが次の日、それは起こった。
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