第23話 肝試しのペア決め
他の人もようやく行動班が決まり、次は肝試しのペア決めの時間となった。
ようやく、というのもクラス人気の高い榊と桜花が俺たちと行動班を組んでしまったことにより、二人のどちらかと組むつもりだったクラスメイトの班決めに時間がかかってしまったのである。
LHRのあとで、後から刺されないか不安だ……。
ちなみに、肝試しのペア決めの方法はくじ引きらしい。
担任の先生が、教卓の下からくじ引き用のボックスを取り出す。
てか、行動班の方もくじ引きで決めればよかったのでは?
「それじゃあ、まずは男子から出席番号順に引きに来てくれー」
先生の指示の後に、クラスの女子が黄色い声を上げる。
まあ、肝試しってホラー要素よりも恋愛要素が色濃い行事だからな。
気になるあの人と、綺麗な夜空の下で二人きり……そんなシチュエーションに胸を躍らせる生徒は多いだろう。
だが、俺は違う。
そんな夢見がちな少年少女たちと一緒にされては困る。
そもそも、ペア決めの方法がくじ引きである以上、気になるあの人とペアになれる確率はかなり低い。
俺のクラスは三〇人一クラスだから、確率は三〇分の一。
ほら、一気に現実味がなくなっただろ?
しかもこういうのって、大体はどうでも良い人、あるいは一緒になりたくない人と一緒になるのが定番なのである。
そうなると、確率は三〇分の二九。
誰でも考えられるこの確率を目の前に、夢見がちになれる少年少女たちの心理がよく分からん。
「——————じゃあ次、久山」
あれこれ考えている間に、俺の番が回ってきたみたいだ。
俺は箱の中に手を突っ込み、一番上にあったくじをパッと適当に引いた。
特定の誰かと一緒に肝試ししたいとか、そういう特別な感情はないからな。
「よし、それじゃあ次——————」
俺がくじを引いたのを確認して、先生が次の生徒を呼ぶ。
ちなみに、俺の番号は三〇。
……ふっ、底辺の俺らしい番号じゃん。(笑)
「久山、何番だった?」
ニコニコしながら、榊が近づいてきた。
「一緒になることないんだから、別にお前に言う必要ないだろ。それに、先生が最後に確認するだろうから言うだけ無意味だろ」
「それはそうなんだけどさー。そういうことじゃないんだよ」
「じゃあ、どういうことだよ」
「男って、どうでもいいことやくだらないことを共有したがる生き物なんだよ。だから別に理由なんてないんだ」
「それはお前らみたいな陽キャだけだろ。別に俺はそうじゃない」
「んで、何番だったんだよ。ちなみに僕は一〇番だったよ」
「人の話聞けや」
俺の反抗虚しくも、手元に置いてたくじを榊に取られてしまった。
そして榊は、俺の番号を確認するや否や、非常に申し訳なさそうに俺の顔を見つめてくる。
やめろ。その顔、マジでやめろ。
考えていることが手に取るように分かるので、思わずぶん殴りたくなる衝動に駆られてしまう。
「……なんか、悪かったな」
言いながら、そっと俺の机にくじを戻した。
「自己満足に人の気持ちを踏みにじった挙句、謝って済む世界だというなら、俺は悪役にだってなってやるよ」
「だから、ごめんって……」
「ふんっ」
頬杖をつきながら、俺は窓の外を眺め始める。
それと同時に、男子全員のくじ引きが終わったらしく、先生の指示の下で女子のくじ引きが新たに始まった。
特に興味もないので、俺は窓の外を眺め続ける。
「さて、久山のペアは一体誰になるのかなー」
「……」
「おーい、聞いてるかー?」
「……」
「もしかしたら、このペア決めが久山のこれからを左右するかもしれないよな。今後の展開に要注目だな」
「……お前、いつまでここにいんだよ」
「こうでも言わないと、返事してくれないだろ?」
「じゃあ、返事したから自分の席に帰ってくれ」
「そういえば、久山って気になる人とかっているのか?」
「はぁ? 急になんだよ——————」
そう言った直後、ガタンッと後ろにいた花音が勢いよく席を立った。
急になんだよ……って、そうか、くじ引きを引く順番が回ってきたから席を立ったのか。
てか、そんな豪快に席を立つ必要なくね?
「やっぱり、久山のペアは姫柊さんしか考えられないよな。二人は運命の赤い糸で繋がってそうだし……」
「お前、キモいこと言ってる自覚ある?」
「久山は分かってないな。そもそも運命とはな——————」
榊がなんか力説し始めたけど、俺はガン無視してクラス内を見渡した。
榊だけでなく、男女共にテンションが高い。
やはり、俺には分からない。
なぜ、僅かな可能性に期待する?
勝手に期待して、勝手に裏切られ、そして傷つけられる。
期待なんて言葉は、ただの妄言だ。
人を傷つけるために生まれ、人を陥れるために生まれた言葉に過ぎない。
それでも彼ら彼女らは、期待を胸の奥底に宿す。
なぜそんな愚行を冒すのか、俺には分からない——————
……おや?
ふと二人の怪しいやり取りが目に入った。
桜花と我部が何か話してる……あっ、くじを交換したぞ。
いわゆる、裏取引ってやつか。
多分、桜花の持っていたくじの番号が榊と同じ番号だったんだな。
確かに、気になる相手の番号さえ分かっていれば、あとはその番号を持っている人とくじを交換するだけで期待値は必然的に一〇〇%となる。
でも、桜花がこのイカサマ行為に加担するとは意外だった。
いや、桜花が困ってる我部に手を差し伸べた、と言ったところか……。
てか、恋ってやべぇな。
恋は盲目とはよく言うけど、何でもありすぎて、そのうち殺人事件とか起きるぞ……。
「——————っていうことさ。分かったかい?」
「あぁ、やべぇな……」
「あ、お前聞いてなかったな?」
「あぁ、聞いてねぇよ……」
「そこまではっきり言われると、さすがに傷つくんだが……」
そして最後の女子生徒がくじを引き終えると、先生は席を立っている生徒たちへ席に戻るように指示を出す。
席に着いたのを確認してから、先生が番号順に呼び上げていく。
自分の番号が呼ばれたら挙手して、ペアを確認していくスタイルだ。
「——————次、一〇番は挙手」
そして案の定、榊と我部が同時に挙手した。
女性陣からは「羨ましい〜」って声がちらほら上がっていたけど、俺は真実を知っている。
ソイツ、イカサマしてましたよ〜。
「——————次、一六番は挙手」
後ろでガタッと物音が聞こえたので振り返ると、花音が手を挙げていた。
「何か用?」と言いたげな視線を送ってきたので、俺は直ちに姿勢を直る。
いや、昨日の一件が尾を引いてるとはいえ、態度がかなり酷いんじゃありませんか???
ちなみに、花音のお相手は名前も知らない男子生徒。
「——————最後に、三〇番は挙手」
ようやく、俺の番がやってきた。
先に謝っておこう。
ごめんね、俺のペアになる人。
君の高校生活初の青春イベントはここで潰えることとなりました。
さて、生贄に捧げられたのはどこの女子生徒かな。
そのご尊顔をしっかり拝見させていただくとしよう。
そう思って、俺と同じようにクラス内で手を挙げている女子生徒に目を向け——————思わず固まってしまった。
その女子生徒は——————裏取引の被害者だったのである。
「三〇番は久山と桜花だな。ちなみに、この番号が当日の肝試しの順番になるから各々しっかり覚えておけよー」
ペア相手公開前のテンションとは裏腹に、気だるそうに返事をする生徒一同。
なんか、何もしてないのに申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
桜花さん、なんかごめん……。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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