第22話 班決め
翌朝、教室に入ると花音はすでに自分の席に着いていた。
何か作業をしているとかではなく、頬杖をつきながらジッと窓の外を眺めている。
声をかけるべきか、正直俺は迷っていた。
だってそうだろ?
昨日あんなことあったのに、今まで通りに接するなんてできるわけがない。
花音は少なからず、俺に何かを隠している。
それは、昨日の美彩とのやり取りの中で明らかだった。
俺に対して、依存? 寄生?
花音が偽りの仮面を被ってまで隠している本性は、俺が深く関わっていることは間違いない。
俺が飛び出して行った花音の後を追いかけなかったのは、きっと無意識的に彼女を拒絶したからだ。
嘘を吐いてまで作り上げる偽物の関係性なんて、俺には必要ないのだから。
それなら、どうして俺は今迷っている……?
花音を拒んだのであれば、挨拶をするかしないかを迷う道理は存在しないはず……。
やめだ、やめだ、考えるだけ時間の無駄だ。
迷うぐらいなら、やらない方が自分の身のためだ。
そして俺は、花音に挨拶をすることなく自分の席に着く。
もちろん、花音からの挨拶はない。
そう、これこそが俺のいつもの日常……のはずだった。
「……ん?」
なんか、桜花が俺の横を通り過ぎたと同時に机に紙切れを落としてきたんだが?
文字が書かれていたので、俺はゆっくりと紙切れに目を落とした。
『今日のお昼、体育館裏で一緒にご飯食べよー 二人だけの秘密ね?』
おいおい。俺だからいいけど、他の男子だったら絶対変に期待しちゃうぞ、これは。
ともあれ、俺としても桜花から花音の噂について聞きたいことがあるから拒否する理由はどこにもない。
てか、返事はどうすればいいん?
俺から話しかけろってか?
無理無理、陰キャにはハードル高すぎ。
まあ、なんでもいっか。
何かあれば向こうから話しかけてくるだろ。
それから点呼を終えて、LHRの時間がやってきた。
本日の内容は、来週に控える合宿講習での行動班決めと肝試しのペア決めである。
ぼっちの俺には、まさに地獄の時間とも言えよう。
しかも、行動班決めの方法は自由決め。
俺を殺しにかかってんのか?
しかも、五人で一班らしい。
うん、こりゃ殺しにかかってるね。
本来であれば花音を真っ先に誘うところなんだが、状況が状況なので誘いづらい。
さて、どうしたものか……。
「久山、姫柊さん。同じ班にならないか?」
爽やかな雰囲気を漂わせながら榊が話しかけてきた。
正直、俺から誘う勇気もなければ、度胸もなかったので非常にありがたい申し出だ。
だが、榊と行動班を組むことで生じる問題が二つある。
一つ目は、榊がクラスの人気者ということだ。
クラスの人気者がクラスの陰キャと同じ班を組むということは、それなりのリスクが必ず発生する。
例えば、校舎裏に呼び出されて集団リンチにあったりとか、陰口を叩かれたりとか——————全部ひっくるめて今後イジメに発展する可能性が高い。
そのリスクを承知の上で榊と班を組むか……まあ今の花音には桜花がいるし、俺だけの評価で言えばとっくにマイナスだから別に関係ないか。
そして二つ目の問題は、クラスの陽キャと班を共にしなければいけない可能性だ。
想像してみろ、陰キャが陽キャのテンションに付き合わなければならないんだぞ?
はっきり言って、クソだるい。
でも、そのクソだるいことを我慢すれば、これ以上班決めで悩む必要はなくなる。
さて、榊と班を組むか、組まないか……。
「…………まあ、俺はいいぞ」
「班決めでそこまで悩まれると、さすがに悲しいんだけど……」
「いや、お前と組むリスクを考えてだな……」
「姫柊さんはどうかな?」
聞いてねぇし。
まあ、ぼっちな俺を誘ってくれたんだし、わざわざ口に出して文句は言わないけどね。
さすが俺、できた人間だな〜。
「私は別にいいよ。マサくんがいいなら」
なんか、含みのある言い方をするな?
そのせいで、何かを悟った榊が「姫柊さんと何かあった?」と言いたげな視線を送ってくる。
これはまずいな。あとで根掘り葉掘り聞かれるやつだ。
めんどくさくなることだけは避けたいので、俺は何事もなかったような平然とした態度で応じた。
「俺は別に構わないぞ。そもそもお前は周りのことを気にするようなタイプじゃないだろ。急に気遣い始めるじゃん。いきなりどうした?」
「いや、久山こそいきなりどうした? 普段の久山なら「別に、いいんじゃねぇの?」って言うところだろ。やっぱり、お前ら何か——————」
榊がそう言いかけたところで、笑顔満点の桜花がロケットのように飛んできた。
勢い余って俺とぶつかりそうになっていたので、もう少し落ち着いて行動しようか?
「ねね! アタシも班に入れてよ!」
「別に、いいんじゃねぇの?」
「そうそうそれそれ! なんだやればできるじゃんか!」
やればできるじゃんって、一体何が?
別にやろうと思えば、いつでもできますけど。
榊の言ってる意味が何一つ理解できないが、これで四人揃った。
あと一人……という問題は存外早く片付いた。
茶髪ロングヘアの陽キャ——————我部香凜が話しかけてきたのである。
「サカケン〜。ウチも班に入れてよ〜。ウチ入れて五人だから問題ないっしょ!」
このフランクで話し掛ける感じ。
俺は絶対仲良くなれないだろうな〜。
でも、我部の入班で五人揃うのだからこの際別にいっか。
さっきも言った通り、関わらないようにすればいいだけの話だからな。
それに、花音の噂の件で目星を付けてた二人と一緒の班になれるのは俺にとって僥倖だ。
榊だって、断る理由はどこにもないはず。
「ごめん。我部さんをこの班に入れるわけにはいかない」
「「んっ!?」」
榊が変なことを口にするから、思わず声が出ちゃったよ。
何なら、桜花と目が合っちゃったよ。
花音も、声は出してないけど榊の方を見てジッと固まっちゃったよ。
入班を断られた我部も、予想外の返答にビックリして目も口も開いちゃったよ。
どうすんの、この「ちゃったよ状況」。
そんな中、断った当人はというと「どうして断ったか分からないのか」と言いたげな様子だ。
うん、榊よ。全然分からないぞ?
そして榊は、ため息を吐いた後に言葉を綴った。
「我部さん。どうして僕だけを見てお願いをするんだ? あくまで班として行動するんだから、お願いするなら久山たちの方も見てお願いするべきじゃないのか?」
「あー、そうだよね。サカケンの言ってること正しいわ。マジでごめん」
そう言って深々と頭を下げる我部。
てか、そんな意識高いこと思ってるの、多分お前だけだから早く班に入れてやれよ。
この気まずい雰囲気に耐えきれなくなったのか、桜花が場を和ませようと必死にフォローする。
「ア、アタシたちは全然大丈夫だから! 気にしなくていいからね! ね! ひめのん、ひさるん!」
「まあ、断る理由ないからね。私も全然いいよ」
「俺も同じく」
「ゔぅ、みんな、ありがどゔ」
ちょっとだけ涙声になっている我部を、桜花があたふたした様子で慰める。
その様子を、俺と花音と榊はじとっとした目で見つめていた。
多分、俺たちの思っていることは一緒だ。
うわー、嘘泣きくせぇーと。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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