第21話 友達になった理由
私は、逃げた。
また、逃げた。
またあの時と同じように、己の弱さから目を逸らし、さらには狭矮な現実からも背を向けたんだ。
立ち向かおうとする姿勢を見せず、本当に何もせず、ただ、その場から逃げ出した。
その事実が、私の心に重く、そして深くのしかかる。
何かが変わったといえば、年を取って少し老けたぐらいだ。
それでも、容姿は中学生の時と何も変わらない。
要はこの数年、容姿も変わっていなければ中身も変わっていないのだ。
私はあの時から——————何も成長していない。
私は、卑怯なヤツだ。
いや、卑怯というか、人としてクズだ。
そんな私を、美彩さんは見抜いていたのだろう。
だから美彩さんは、依存や寄生というマイナスイメージのワードをチョイスしたんだと思う。
私がマサくんに友達になろうと言った理由——————社会から隔離されないための偽善活動に過ぎなかった。
ただ、『嘘告白の一件で悪目立ちしているマサくんに優しくする良い子な私』という分かりやすいポーズを取りたかっただけなのだ。
そうすることで、あの時みたいに社会から隔離されることはないから……。
そう、私は他人の辛い過去を利用して自分だけ助かればいいとか思っちゃうようなクズな女なんだよね。
こんな女、みんなから嫌われても仕方ないよね……。
「もう、やだぁ……」
自室の枕に顔を埋めながらボソッと呟いた。
世一にぃが家にいるから、声量には気をつけないといけない。
もし私が、またあの時と同じ轍を踏みそうになってると分かれば、世一にぃは未然に防ぐためにすぐに行動を始めるはずだ。
もう、これ以上の心配はかけさせたくない。
かけさせたくないと分かっているのに、上手く自分をコントロールできない。
そんなこともできない自分に腹が立つ。
「明日から、他人になっちゃうのかな……」
何も応えず、何も弁明もせず、ただ逃げ出したという事実が残ってしまった以上、美彩さんの発言を肯定した事に他ならない。
私の意図を知られてしまった以上、元の関係にはきっと戻れないだろう。
マサくんは、自分が悪意に利用されることは絶対に許さないと思うから。
「まぁ、自業、自得……だよね……あれ?」
一粒の涙がホロリと頬を伝う。
あれ、なんで私、泣いてるの?
自業自得なんだから、お前が泣くのはどう考えてもおかしいだろ。
なのに、なんで、なんで涙が止まらないの。
双眸から滝のように流れる涙を枕で拭う。
拭う、拭う、拭う、それでも涙は止まらない。
なんで! なんで止まってくれないの!!!
思い通りにいかなくて、今すっごく発狂したい気分。
だけどできない、世一にぃがいるから。
だから私は、頑張って声を押し殺すの。
涙が止まらない原因——————それはマサくんのことを考えるからだ。
原因が分かっているなら、後は対処するだけ。
要はマサくんのことを考えないようにすればいいだけだ。
頭の中を空っぽにして、心も無にする。
そうすれば必然と涙は止まるはず…………あ、全然ダメだこりゃ。
出会って数日とはいえ、楽しかった思い出が濃すぎて全然消えないや。
頼むから、今だけは世一にぃ来ないで……。
しかし、神は非情なのを私は知っている。
「——————花音、入るぞ」
ノックもせず、世一にぃが私の部屋に入ってくる。
この兄はよく分かっている。
奇襲をかければ、相手の対処に遅れが生じることを。
おかげさまで、私に対処する間もなく枕を涙で濡らす現場を世一にぃに目撃されてしまった。
「……一体何があったんだ?」
そして私の意思とは関係なく、姫柊家緊急家族会議が開会されたのでした。
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