第20話 俺の妹がヤバすぎるんだが?
「——————なあ、ちょっといいか?」
花音が逃げ出すように帰った後、俺は美彩の対面に座り直してから話かける。
まあ、聞きたいことは色々あるが、ひとまずこれだけは言わなければならない。
「お前、言い方ってもんがあるだろ。仮にも今日初対面の相手だぞ。何もあそこまで言わなくても……」
「相変わらずお兄ちゃんは優しいなー。そんなんだから簡単にハニートラップに引っ掛かっちゃうんだぞー」
言いながら美彩は、冷蔵庫に入ってる缶コーラを取りに行く。
長話になると思ったから飲み物を取りに行ったのだろう。
さすが血の繋がった妹だ。話が早くて助かる。
そして戻ってきた美彩は、缶を勢いよく開けるとグビグビと喉を鳴らしながらコーラを流し込んだ。
「ぷはぁー! いやー、一仕事終えた後のコーラは格別にうめぇなぁ!」
「おっさんかよ。一応女子なんだから、もっと上品に飲めよ」
「お兄ちゃん、女の子ってお兄ちゃんの思ってるほど清らかな生き物じゃないんだぜ? 実際、今時の女の子ってこんな感じだし」
「そうなのか?」
「知らんけど」
「知らんのかい」
「まあ、あとは野外でもオナラの一つや二つはしてるかな〜」
「それはマジで知りたくなかったわ」
こんなん聞いちゃったら、女の人を見る度に「あの人も、野外でオナラしてるのかー」って考えちゃうでしょうが。
本当、これが自分の妹だと思うと残念でならない……。
「はぁ……」
「どしたどした。深い溜息なんか吐いちゃって」
「自分の胸に当てて聞いてごらんなさい?」
「胸に手を当ててって、心臓の音しか聞こえない……はっ! まさかお兄ちゃん、ウチのペチャパイを馬鹿にしてる……!? くそう! ペチャパイが悪いって言うのかよ! ペチャパイが一体何をしたって言うんだよ!!!」
「はいはい、そうっすね。てか中三にもなって、そんなペチャパイ連呼してて恥ずかしくないの?」
「え、うん。全然? だって相手お兄ちゃんだし」
お兄ちゃんはすっごく恥ずかしいです。
仮にも女子校に通ってて、仮にも中三で、仮にも生徒会長の妹が、まさかこんな下品な女の子に成長しているなんて、本当残念すぎて恥ずかしすぎる。
まあ、外では淑女の仮面を被っているみたいだけど、俺にとってスタンダードがこれだからあまり関係ない。
「とりあえず、この残念な妹はこのままにしておくとして……」
「え、酷くない?」
「お前、アイツにあんな言い方したんだよ。それに依存とか、寄生とか、一体何が言いたかったんだ?」
「あ、無視なんだ」
おう、無視するぜ。
だから、俺の問いにきちんと応えてもらおうか。
真剣な顔をする俺を見て、美彩は呆れたように笑いながら言葉を綴った。
「まあー。お兄ちゃんは優しいからなー。その優しさにつけ込む相手のことを一々気に掛けてらんないって」
「つまり、お前の言ってた依存や寄生っていうのは優しさにつけ込むことを指すのか?」
「そういうこと。要はお兄ちゃんが樹液で姫柊さんが樹液求めてやってきた虫だったってわけ」
「だからお前、言い方……。だけど、美彩の言う依存や寄生じゃなかった可能性も捨てきれないだろ。アイツもこんな俺とも友達になってくれようとしてたのかもしれないじゃん」
「優しいのはお兄ちゃんの魅力だけど、これだけは忠告したげる」
そして美彩は、缶の口金を上下にカチカチと弾きながら言葉を放った。
「優しさっていうのはね、相手の自己欲求を満たす道具でしかないんだよ。この人なら裏切らない。この人なら大丈夫。この人なら分かってくれる。この人なら私のお願いを聞いてくれる。優しさっていうのは、どうしても相手の自己欲求を満たす最適なツールなっちゃうんだよね。だからお兄ちゃんは中学卒業式の日に嵌められた。違う?」
「それは……」
美彩の意見に反論の余地がなかった。
嘘告白を例として考えてみれば、クラスのマドンナが俺に嘘告白してきたのは、この人なら大丈夫と予め相手を選定していたからだろう。
誰だって、反感を買って面倒になりそうな人を選んだりしないはずだ。
だから優しい俺は利用された。彼女の自己欲求を満たすために——————
なるほど、俺が優しいかどうかは置いといて、美彩の意見には正当性がある。
しかし、俺には美彩の発言の中で一つだけ分からないことがあった。
「美彩の言うことには正当性があるから否定はしない。だけど、そもそもアイツが俺の優しさにつけ込んで自己欲求を満たそうとしているという前提条件になってるのはどうしてなんだ? 何か理由を知って……」
言いかけた時、その先の発言を妨げるように美彩の人差し指が俺の唇に触れた。
「——————ここから先は、私の口から言うことじゃないからね」
「……まあ、それもそうか」
「うん。でも、一々聞かなくても今日逃げ出した時点で応えはすでに開示されちゃってるけどねー。それに、お兄ちゃんも何か違和感を感じた部分があったんじゃないの?」
「俺が? なんで?」
「なんでって、そりゃそうでしょ。本当に友達だと思ってるんだったら、こんなところで駄弁ってないで今ごろ姫柊さんを追いかけてなきゃおかしくない?」
「……」
目の前でコーラを飲み干した美彩に、返す言葉が見つからなかった。
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