第2話 残念美人
「——————そういえば、自己紹介がまだだったね! 私は姫柊花音。これからよろしくね!」
カフェ店内のイメージに合わせた落ち着いたBGMを掻き壊すかのように、花音が馬鹿デカい声で自己紹介をする。
てかさっきから思ってたことだが、そんなに大きな声出さなくても聞こえてるから。
「……はぁ」
「君の名前は?」
「俺? 俺は……」
「知ってる。久山雅春君、だよね?」
「知ってるなら、わざわざ聞くなよ」
「あちゃー。こりゃ一本取られたな~」
花音はペチッと可愛らしく額を叩く。
こいつ、全然人の話聞かないな……。しかも意味わからんこと言ってるし。
俺のことを何で知っているかは、まあ一々確認するまでもないだろう。
「久山君ってあれでしょ? 嘘告白の人だよね?」
「……お前も、やっぱり人の心無いんだな」
「お前も?」
「美しい薔薇にはトゲがあるってことだよ。外面は良い顔して、内面は人のことを傷つけることしか脳のないカスってことだよ」
「うっわ~。辛辣~」
そんなことを言いながらも、花音はケタケタと笑ってる。笑い要素はなかったと思うんだけど?
「だからお前のデリカシーの無さにも納得だわ」
「ふぅ~ん? そんなに美人が憎いんだ。てか、やっぱり私って美人なんだ! 私最高! 私最強!!!」
胸の前で腕を組んで踏ん反り返っている花音の前に、先ほど注文したオレンジジュースが運ばれてくる。
オレンジジュースはオレンジジュースでも、グラス縁に輪切りオレンジが付いてる高級感あるオレンジジュースだ。
ちなみに、俺はアイスコーヒーを注文した。
「でもさ、でもさ~。美人は美人でもその子と私じゃ全く違うと思うんだよね~」
「なに、美人レベル的な話? 俺からしたら何も変わらないんだけど」
「いやいや、そういう話じゃなくてね。私、これがノーマルだから」
「つまり、今のお前が素ってこと?」
「ダッツライト!」
指をピストルの形にして俺を指さす。
てか、発音が酷すぎてびっくりしたわ。
「……信じられないな。仮に今のお前が素なんだとしたら、かなり残念な子だぞ?」
「ふふふ、そう。私は残念な子なんだよ!」
「うわっ、容認してるタイプの残念な子ってマジでいるんだ。普通ならこうなりたいとか本人の本望とかあるのに……」
「……ちょいちょい私を馬鹿にしてくるのはなんなの?」
「別に、俺はただ客観的事実を口にしたまでだ」
「キャ、キャッカンテキジジツ? ああ、なるほどね! そうね……」
そういうとこなんだよな……。とは口にしなかった。
本当かどうか分からないけど、花音曰くこれが通常運転らしい。
どうしようもない花音の生態に呆れながらアイスコーヒーをストローで啜ると、花音も同じようにオレンジジュースをストローで啜った。
「てか、俺をカフェに連れてきた理由は? 早く帰って寝たいんだけど」
「お! だったら私の膝枕で寝る?」
「はっ倒すぞ」
「いや~ん。久山君ってば、だいた~ん」
話にならなくて席を立とうとしたら、花音が静止を促してきた。
「まあまあ落ち着けって。冗談だってば~」
「落ち着かないといけないのはお前の方だと思うんだが?」
「それより、私が久山君をカフェに連れてきた理由だっけ? それはね——————」
そう言って、花音は俺に手を差し出す。
「——————私と、友達になろ?」
その言葉を聞いて、俺の背筋に悪寒が走った。
いわゆる、危険信号ってやつだ。俺の本能が警笛を鳴らし続けている。
「……なんで?」
「え? なんでって?」
「なんで俺なんかと友達になりたいんだ? 俺じゃなくても別にいいだろ。それとも俺じゃなきゃいけない理由が他にあるのか?」
自分が最低な事を言っているのは、誰かに指摘されなくても分かっている。
だが、こうでもしないと自分のことを守ることができないのだ。
もう二度と、あんな恥さらしは受けたく——————
「——————あるよ」
宝石のような透き通る碧眼が俺を見つめている。
その真剣な眼差しに耐え切れず、俺は思わず目を逸らしてしまう。
「久山君じゃなきゃいけない理由、あるよ。だって私たち、似た者同士だから」
「似た者同士って。一体どのあたりが似た者同士なんだよ……」
「言葉の裏を取ろうとするところだよ。まあ、要は人を簡単に信じられないところかな」
「お前、何言って……」
「ごめん、席外すね」
そう言い残して、花音は荷物を持って店の外に出て行ってしまった。
これ、ここの代金は俺が払っておけってこと?
「やっぱり、美人ってゴミカスやんけ……」
一人取り残された俺は、飲み物代を精算して店を後にした。
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