第13話 ナンジャソレ
四限目を乗り越えて迎えた昼休み。
教科書やノート、筆記用具を片付けていると、そこへ二人のクラスメイトがやってきた。
一人は、金髪のミディアムヘアを靡かせる残念美少女。
片や、数多の女子を口説き落としてきたかのような雰囲気を漂わせる爽やか陽キャ。
そんな二人が出会った日には、凄まじいバトルが繰り広げ……られなかった。
てか、なんで二人はそんな申し訳なさそうな顔してんの?
俺、久しぶりの授業で目が疲れてるのかな……。
「「あ」」
二人の目が合った。
今度こそ、凄まじいバトルが繰り広げ……られない?
なぜか二人は、遠慮がちに言葉を口にする。
「あ、榊くん。お先どうぞ……」
「あ、いや、僕は後ででもいいから。姫柊さんからどうぞ……」
「いや、私のはいつでもいい内容だから。榊くんの方からどうぞ……」
「いやいや、僕のは正直どうでもいい内容だから。姫柊さんから先どうぞ……」
「いやいやいや、私のなんて聞く価値もないくらいどうでもいい内容だから。だから榊くんからどうぞ……」
「いやいやいやいや、僕のなんて人類が鼻で笑っちゃうくらいしょうもない内容だから。だから姫柊さんお先にどうぞ……」
人類が鼻で笑っちゃうくらいしょうもない内容……? 何それ、めっちゃ聞きたいんだけど。
って、いかんいかん。危うく本筋を見失うところだった。
それより、二人はどうしてこんなに腰が引け気味なんだろうか。
ホームルーム前は、「どっちが久山の友達に相応しいか勝負だ!」とか言って、あんなにバチバチと火花を散らしてたのに今ではそれが皆無だ。
はっきり言って、気持ち悪いんだが。
「てか、それいつまで続けるわけ? 二人とも、俺に用事があるんじゃないの?」
「「……」」
なんか、二人がモジモジし始めたんだけど……。気持ちわるッ!
さすがの俺でも、この反応は想定外すぎた。
居心地が悪くなって席を立とうとしたら、急に一人から腕を掴まれた。
最初に行動を移したのは——————花音選手。
「ぁっ、ぇっと……」
反射的に行動してしまったのだろう。かなり狼狽えている。
俺の腕を掴む花音の手は、目視では分からない程度だが微小に震えていた。
全く、本当にしょうがない奴だな……。
俺は弁当箱を持って席を立つ。
「榊。悪いが、お前の興味深い話は後ででもいいか? 先に花音の話聞くわ」
「興味深い話って……。まあ、僕が言いだしたことなんだけど——————って、久山! 今お前!」
めんどくさいことになりそうだったので、俺は花音を連れて昼食に出掛けた。
◆◆◆
さ〜って、どうやって話を切り出そうかな〜。
人目のつかない校舎裏のベンチで、私はマサくんと一緒に昼食を食べていた。
勿論、マサくんから話しかけてくることはないので終始無言状態。
普段であれば、「人気の無いところに連れてきて、私に何する気!?」と言って場の雰囲気を和ませるのだが、そんな冗談を言える状況ではないのは確かだった。
私がマサくんに聞きたいことはただ一つ。
それは、私の精一杯の謝罪に対する返答についてだ。
午前中、私の精一杯の謝罪にマサくんは一言「ああ」としか答えなかった。
私はその真意が知りたくて、気が気じゃないのである。
現に食事も喉を通らない。
もし、この関係を断ち切られたら私は……。
うぅ、余計に聞きづらくてどうすんの私!
頭を抱えながらうずくまっている私が容易に想像できて笑えちゃうね。
「……全然食べてないけど、どうした?」
「うへぇ!?」
ビックリした! マサくんから話しかけてくるとは思わなかったから変な声出ちゃったよ!
でも、これは神が与えてくれた絶好のチャンス……いや、私はもう神を信じてない。
私は私の力でこの状況を乗り切ってやる!
そして私は、目をカッと見開いて勢いよく尋ねてみた。
「マサくん! そ、その! け、今朝の事、なんだけど……」
意志が薄弱すきてワロタ。
だってしょうがないじゃん。緊張するものは緊張するし!
でも、今朝といえば謝罪イベントしかなかったはずだし、これでマサくんにも伝わったはず……。
「ん? 今朝?」
あ、ダメだこりゃ。全然伝わってないわ。
おお、神よ。まだ私に試練を与えるというのですか……。まあ、背信したから仕方ないか。
頭を抱えてうずくまっていると、マサくんが何かを思い出したかのように言葉を口にする。
「ああ、勝負の話? まあ、引き分けでいいんじゃね?」
「ちっっっっっっっっっがぁう!」
突然発狂して立ち上がった私に、思わず目を丸くしているマサくん。
でも、その視線の先は私のお弁当に向けられていて……って、私よりそっちの方に驚くんかい!
そうだね! 地面に落ちちゃったから食べれないね!
私はお弁当を無視して、マサくんの肩をガシッとホールドした。
「マサくん! 私、午前中謝ったと思うんだけど、ちゃんと返事をもらってないと思うんだ!」
「え? いや、ああって言ったじゃん」
「え? いやいや、ああは返事じゃないでしょ? もっとこう……何かあるでしょ」
「ああって、ああわかったの略語でしょ?」
ナンジャソレ……。
ナンジャソレーーーーーー!!!!!!
てか、わかったは返事の返しとしておかしくない!?
まあ、とりあえずは仲直りしてたって事でいいよね?
とりあえず一安心。
私は再度ベンチに腰掛ける。
「もう! ちゃんと言ってくれないと分からないよ〜」
「いや、俺は伝えた気でいたけど……」
「ノンノン。問題なのは聞き手がどう感じるかでしょ? それはマサくんが身に染みて分かってると思うけど」
「うぅ」
痛いとこを突かれて、マサくんが少しだけ萎縮した気がする。
でも、やっぱりお互いのことを知らなさすぎるから、こういうすれ違いが起こると思うんだ。
仕方ない、ここは親睦の儀式として一緒にカフェに行ってあげますか!
やれやれといった調子で、私はマサくんの肩に手を掛けた。
「マサくん、私たちの仲をもっと深めるために、今日の放課後はいつものカフェでお互いのことを語り合おうじゃないか」
「あ、ごめん。今日の放課後用事あるわ。行くならまた今度な」
ナンジャソレ⭐︎
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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