第1話 イタイ子との出会い
初めまして!
拙作ではございますが、よろしくお願いいたします!
"美しい薔薇にはトゲがある"
この言葉を考えた人は、心底天才だと俺は思う。
中学三年の卒業式の日、桜の木の下で俺——————久山雅春は人生で初めて女子から告白をされた。
しかも相手は、クラスのマドンナで学校中の男子共を虜にした女子生徒。
そもそもの話、ごく平凡な顔立ちの俺に告白してくるあたりで察しろよと当時の俺を責め立ててやりたいが、疑うよりも先に嬉しさが勝って、まさかそれが嘘告白だと夢にも思わなかった。
緊張のあまり声が上手く出せず、上ずった声音になりながらも相手の告白に返事をしているところをマドンナの友人にバッチリ録画されており、しかもそれを面白半分にSNSにアップされたのだ。
もちろん彼女たちの行動を非難する声も上がっていたが、その頃には全てがもう手遅れ。
インターネットの大海に動画が公開されれば、完全に根源を絶ち切るのはハッキリ言って難しいだろう。
だからこそ、高校入学初日から俺のことを知らない人は数少なかった。
「あの人、嘘告白の人でしょ」
「それ知ってる! どうして嘘告白だって気が付かなかったのかな……」
「まあ、あんなに可愛い子に告白されたら……ねぇ?」
「でも、アイツそこまでイケメンって訳でもなくね? 普通疑うと思うけどな」
「それな、ハニートラップにかかったアイツも悪いよな」
新しい門出だというのに、登校初日から気分は最悪だ。
でも良かったね、新しく友達ができて。そもそも前の学校からの繋がりかもしれないけど。
それから時はゆっくりと流れていき、ようやく下校の時刻になった時には俺の気力は0に等しかった。
寝みぃ、さっさと帰りてぇ……。
下校の予鈴と共に、俺は颯爽と家に帰ろうとしたのだが、それを阻むかのように生活指導の先生に呼び止められた。
呼び止められた理由は何となく察した。
「ここで話す内容でもないしな。とりあえず場所を変えようか」
そして俺は、生活指導室に案内された。
「まあ、とりあえず座りなさい」
「失礼します」
「気楽にしていい。堅苦しい話はあまり好きじゃないんだ」
生活指導がそんなこと言っていいのか? と心の中でツッコんでおく。
「中学卒業式の日のことは聞いている。大丈夫、困ったことがあればいつでも相談してくれ」
「ありがとうございます」
「実はな、先生も嘘告白で騙されたことがあってだな……。お前の気持ちは凄く分かる」
「はぁ……」
正直そんなことをいきなりカミングアウトされても反応に困るんだが。
それから生活指導とかれこれ二時間くらい話していただろうか。俺はようやく生活指導から解放された。
生活指導室前の廊下に差し込む西日が眩い。もう夕方じゃん。
「早く帰って寝よう……」
重い足取りを一歩ずつ進めていると、とある教室の前で俺の足は反射的に止まった。女子の声?
「ふふふ、やっぱり。やっぱりここか! 時刻、座標、共にここで間違いない!」
えぇ、すっごいイタイ……。
女子生徒が何やら愉快なことを言っている。クラスプレートを確認してみると……待って、俺のクラスじゃん。
周りをあんまり見ていなかったからよく分からなかったけど、まさかクラスにこんな愉快なヤツがいたとは思わなかった。
まあ、だからといって女子とお近づきになろうなんて決して思わないが。
俺は何も聞いていなかったかのように教室の前をスッと通り過ぎていく。
「あっ! いたぁ!!!」
意味不明な内容を含んだ馬鹿デカい声が後ろから聞こえてきたが、俺は振り返らず歩みを続けた。
「待て待て待て! そこの少年、止まりなさい!!!」
「……」
「こら! そこのお兄さん、ただちに止まりなさい!!!」
「……」
「止まれと言っておるだろうがぁ!!!」
威勢の良い声と同時に俺は頭を思いっきり引っぱたかれた。
「いってぇ! いきなり何すんだ!」
思わず振り返ると、すぐそこには先ほどのイタイ発言をしたとは思えないほどの美少女が不貞腐れたように頬を膨らませていた。
透き通る金髪のミディアムヘアに、アーモンドのような大きな瞳に宿る碧色の宝玉。
斜陽に照らされた彼女は、まるで別次元から来たと言われても何もおかしくないほどに美しかった。
てか、こんなヤツクラスに居たっけ? これだけ特徴的な見た目なら流石に知っててもおかしくないけど……。
「おやおや? 私に惚れちゃったのかな?」
「……フッ」
「おい、なんで今鼻で笑った?」
これほどまでに極端な美人であれば、俺の反応は必然的にこうなる。
「いやいや失礼したね。君の腕力に思わず惚れちゃったよ。凄い怪力だね」
「いや~。褒めても何も出てこないよ? 手以外はね」
「別に褒めてないから手を上げるな」
「それじゃあ、私は馬鹿にされただけじゃん! 馬鹿にされ損じゃん!」
この子は一体何を言ってるんだ? とりあえず、面倒なことに巻き込まれる前にさっさと帰ろう。
そして俺は、彼女に背を向けるように踵を返した。
「はいはい、それじゃあまた明日な」
「ちょい待てい! まだ話は終わってないぞ!」
「……」
「は~い。プッチンきました~」
廊下を駆ける音がしたと思ったら、俺を追い越した彼女が腕を掴んで思い切り引っ張ってきた。
「何! 何なの!?」
「無視をした罰として、これから私と一緒にカフェに行っていただきま~す」
「は? 誰も行くとは……」
「それじゃあ、レッツラゴー!」
俺の話を無視して、彼女は強引に俺をカフェへと連れて行こうとする。
これが彼女——————姫柊花音との最初の出会いだった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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