50 エピローグ
エドムンドとナディアが結婚して三年が経過した。エドムンドは、今でも騎士団長として活躍を続けている。
「エドムンド、まさか今日全ての討伐を終わらせる気か?」
パトリックは呆れたようにエドムンドに声をかけた。
「当たり前だろ。俺とパトリックがいるんだ。最速で終わらせるに決まってるだろ」
「相変わらずだな。お前は」
全てを無くして平民となり、一騎士からリスタートをしたパトリックは三カ月に一度の昇進試験を受け続け、先月ついに副団長に返り咲いた。
そして、先日パトリックは約束通りミリアに結婚指輪を買った。
三年前、パトリック以外は何もいらないと全てを投げ出してくれたミリアに消えない愛の証を贈りたかったからだ。慣れない平民の生活も、エドムンドやナディアの助けを受け、領民たちと接しながら少しずつ覚えていった。
今はあの人見知りだったミリアは存在しない。バンデラス伯爵領の子どもたちに勉強を教えたり、刺繍を売ったりしていきいきと働いている。
『パトリック、私嬉しいの。この家ならいつでもあなたと一緒にいられるでしょう? それにここでは自分が「何もできない」って思うことがないの。全てを使用人にしてもらっていた貴族の時よりとっても幸せよ』
苦労をかけているのに、そう言って微笑むミリアはとても美しかった。パトリックは副団長に戻ったという報告と共に、ミリアにもう一度告白をした。
『ミリア、愛しているよ。いつも僕を支えてくれてありがとう。あの時は渡せなかったけど、指輪を受け取ってくれるかい?』
『ありがとうございます。う……嬉しいです』
ミリアは泣いて喜び、その話を聞いたナディアはそれ以上に号泣していた。
「愛するナディアと可愛い娘が屋敷で待ってるからな」
結婚して二年が経過した頃、エドムンドにはナディアに似たエリーという娘が生まれていた。王宮では、エドムンドが娘を溺愛しているというのは有名な話になっている。
「……まあ、それは同感だな」
ちなみにパトリックにもミリアとの間にヴィクターという息子がいるので、エドムンドの気持ちは痛いほどわかった。
「さっさと帰ろうぜ。さあ、行くぞ」
「ああ」
三年ぶりにエドムンドとパトリックのバディが復活したことで、カレベリア王国の騎士団はさらに強くなった。
かつて傍若無人な振る舞いをしていたエドムンドだったが、ナディアとの正式な結婚を機に良い方に様々な変化があった。
無駄な仕事を無くし、部下たちも定期的に休日を取れる体制を整えた。そして命を懸けるような無理な任務をすることもなくなり、若い騎士への教育にも時間をかけることにした。
本当はエドムンドがナディアとの時間を取りたいがためにそうしただけだが、その結果……以前より騎士になりたい者は増え、優秀な若者が育ってきている。
かつてエドムンドが騎士団長の器ではないと揶揄されていたのが嘘のように、彼は『理想の上司』になっていた。
王宮内の重役たちもエドムンドを悪く言う者は居なくなり、今や本物の『英雄』になっている。
♢♢♢
「帰ったぞ」
「エドムンド、お帰りなさい」
エドムンドが討伐予定を二日も繰り上げて屋敷に戻ると、笑顔のナディアがエリーを抱えて出迎えてくれた。エドムンドはナディアを抱きしめ、軽いキスを交わした。
結婚してからナディアは敬語が薄れてきたが、エドムンドはそのことを嬉しく思っていた。
「ああ、帰った。いい子にしてたか?」
「もちろん!」
元気の良い返事に、エドムンドは声を出して笑った。何年経ってもナディアは変わっていない。
「本当かよ?」
「ええ! わたしはバンデラス領であった連続強盗事件を解決したんですよ」
ナディアはエドムンドと結婚した後、バンデラス領を守る警備隊に入っていた。ドラゴンのトラウマが無くなったナディアを、エドムンドは自分の騎士団に入るように勧めたがナディアはそれを固辞した。
ナディアが一番大事にしたいのは、エドムンドとの生活だったからだ。そして騎士になるかつての夢を叶えながら、常にバンデラス領にいられる警備隊に入ることに決めたのだった。
「今ではナディアはこの領地の英雄だからな」
「いえいえ、エドムンドほどでは」
領主の妻が警備隊に入るなんて前代未聞だが、元々エドムンドが破天荒なこともあり領民たちは割とすぐに受け入れてくれた。そして、ナディアはその強さから領地内で起こった揉め事をたくさん解決しており、今では『ナディア様がいればバンデラス領は安泰』だなんて言われている。
「あまり危険なことはするなよ」
「はい。でも今回は頑張ったので、エドムンドからご褒美が欲しいわ!」
ナディアはキラキラと目を輝かせて、エドムンドを見上げた。
「ぱーぱー」
その時、ずっと大人しくしていた娘のエリーが、ナディアの腕の中でエドムンドに向かって必死に手を伸ばしていた。
「エリー、ただいま。今日も可愛いな」
エドムンドは眉を下げ、エリーの小さな手を握りながらおでこにキスをした。するとエリーは嬉しそうにきゃっきゃと笑い声をあげた。
「エリー、大好きなお父様が帰ってきてくれて嬉しいね」
母の顔をしたナディアは、優しくエリーをあやしていた。エドムンドはその光景がとても幸せだと思った。ずっと孤独だった自分に、こんなに温かい家族ができるなんて思ってもいなかったからだ。
「……モルガン、しばらくエリーを頼む」
「承知いたしました」
にっこりと微笑んだモルガンは、危なげなくナディアからエリーを抱き上げた。エリーも心地良い揺れなのか、モルガンの腕の中でにこにこと笑っている。
「さすが……! モルガンはなんでも完璧ね」
モルガンの子守りに感心しているナディアを見て、エドムンドはニッと口角を上げた。
「まずはナディアにご褒美をあげないとな」
「え?」
「ご褒美が欲しいって自分が言ったんだろ?」
エドムンドは、ナディアをそっと抱き上げた。ナディアはひゃっと驚きの声をあげた。
「あ、あの。エリーと遊ばなくていいの?」
「あとで愛でる。まずはナディアからだ」
甘い声でそう囁くと、ナディアは頬を真っ赤に染めた。もう子どもまでいるというのに、ナディアはまだこうして照れることがある。
「エリーは確かに可愛いが、ナディアはとびきり可愛いからな」
「……っ!」
「お前ら、しばらく寝室に近付くなよ」
使用人たちに堂々と宣言をし、ご機嫌なエドムンドはナディアを抱えたまま寝室に消えていった。
「エドムンド様、幸せそうですね」
使用人たちは皆嬉しそうに、二人の後ろ姿を見送った。
ナディアは相変わらず、刺繍をやらせれば糸が絡まるし、歌を歌わせれば音が外れる。結局料理だってシチューしかまともに作れず、貴族らしいことは何もできない。ナディアは世間的に言えば、伯爵夫人として相応しくないだろう。
だが、エドムンドを幸せにできるのはこの世でナディアにしかできないことだった。
「俺のヒロインはナディアだけだ」
エドムンドがご褒美という名の愛を与えすぎた結果、ナディアはすやすやと眠っている。エドムンドはナディアに優しいキスをして、自分も幸せな気持ちで眠りについた。
END
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