ハナの手紙from世界のどこか
凍氷町の名物、「氷晶パンケーキ」を求めてやってきた新規客を相手に、レストランの夫婦は、『正反対の夫婦物語』を聞かせていた。
妻は強大な力を、土地の豊穣や発展のために行使したと。一方剣の腕はへっぽこながら、【シェイプシフト】で柔軟に妻を支え続ける夫のことも語られる。
新規客は「女将さんの作り話でしょ?」と笑うが、それを巨漢の常連客が否定する。
「その手紙、彼らからなのでしょう?」
女将が大切に胸にあてている手紙を、常連客が指す。
「そーなのよぉ! つい嬉しくって、お客さんに話しちゃったわ」
「……彼らは元気にしているのですね」
懐かしむように言う常連客に、女将はハッと思い出したように手を叩いた。
「この間、久しぶりにうちのパンケーキを食べに来てくれたの」
「……それは、聞かなかったことにしておきます」
「あら、なぜ?」
「お知り合いじゃなかったの?」、と以前3人でパンケーキを食べていたことを指摘する女将の問いに、大男は「さぁ、どうでしょうね」と微笑んだ。
パンケーキを楽しんだ大男は、レストランの外に出ると同時に、白銀の鎧を纏った。その鋭くも優しい視線は、凍った港の先を見つめている。
「新しい人生を、お互い楽しみましょうね……あなた」
氷の港のずっと先。他国の田舎町にて。
最強の妻は兵器の力を労働力に変え、村の畑を手伝っていた。一時滞在のつもりが、村特産野菜の甘さに感動し、しばらくそこから動けずにいたのだ。
畑仕事を終えた後。泉を訪れた妻が水浴びをしていると。
「まったく、村のじーさんばーさんどもは! 俺は家畜じゃねぇっての!」
牛や馬に化けて疲れ果て、休憩にやって来た夫と妻が鉢合った。
「あっ、悪い」
「グライル、妻の裸に照れる」
「おま! あとで覚えとけよな……」
いつもの軽口を言い合いつつも、ハナはさり気なく身体を手で隠した。
「服着るから、後ろ……向いてて」
「……おう」
泉から上がった妻は、仰向けになって疲れをとっている夫の横に転がった。猫のように擦りつく妻を、夫は引き離そうとする。
「おい、また汚れるぞ」
「いい……それよりハナ、まだグライルから聞いてない」
「あ? 何のことだよ」
以前凍氷町で、夫がついた嘘。
『お前が、好き……だから』
それを今の今まで覚えていた妻は、夫を真剣な眼差しとともに見上げた。
「しょーじきに、ハナへの気持ちを話すことをゆるす」
「……上からだな」
少し緊張する夫。それでも彼の表情に、以前のような恥じらいや後ろめたさがないことを、妻は感じ取った。
「たまにしか言わねぇから、ちゃんと聞いとけよ」
起き上がった夫は、妻の手を力強く引いた。
「ハナ、俺はお前が――」
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!
最強ヒロイン×冴えない二等兵の異世界逃亡劇。旅の果てに辿り着いた「新婚旅行」の結末を、楽しんでいただけたら幸いです。
本作は、「過去の結婚生活で失敗した男が、その後悔を生かして新しい世界で幸せを掴む物語を書きたい!」という漠然とした思いつきが発端でした。
最初はラブコメ仕立てにしようとしていたのですが、いつの間にかコメディとシリアスのシーソーに……。
ですが「夫婦」×「後悔と再生」を軸にした物語を作るには、良いテイストになったのかなぁと。
こうして物語はひとつの区切りを迎えましたが、グライルとハナの旅はまだまだ続いていくはずです。
彼らの行く先に想いを馳せながら、少しでもこの物語を楽しんでいただけたなら嬉しいです。
最後に、改めて読んでくださった皆様へ。
「読んだよ!」の一言でも、感想をいただけたら励みになります!
応援やコメントが、次の物語を書く原動力になりますので、ぜひよろしくお願いします。
それでは、また別の作品でお会いしましょう。
ありがとうございました!