あなたを愛してたから、蛇の呪いを受け入れたのに・・・
桃色の髪が、夏の風にふわりと揺れた。
魔法学院の中庭。きらびやかな制服に身を包んだ令嬢たちの中でも、アリアナ・リースの姿は一際目を引いていた。
空色の瞳に、繊細なまつげ。雪のように白い肌に、笑みを浮かべるだけで春の訪れを思わせる――そんな少女だった。
けれど彼女の生まれは、ごく小さな辺境の男爵家。
王都に来るまで、本や草花以外に夢中になれるものなどなかった。
「そんなに気を張らなくていい。ここでは、君も僕も、ただの学院生なんだから」
微笑みながら声をかけてきたのは、第一王子レオノール。
その姿はまさに絵画から抜け出したような完璧さだった。
銀の髪、蒼い瞳。華やかでありながら、どこか影を含んだ微笑み。
初めて声をかけられたとき、アリアナの心は音を立てて落ちた。
「王子……さま、いえ、レオ様……」
「うん、そう。君だけには、名前で呼んでほしいんだ」
その言葉だけで、胸の奥が温かくなる。
いつしかふたりは、秘密の時間を重ねていくようになった。
旧図書室、音楽室、誰も来ない塔の踊り場。
授業の合間にすれ違っては、ささやかな言葉と、甘いくちづけを交わす。
アリアナは気づかなかった。
それが、あまりに危うく、儚い恋だったことに。
***
「ほんとうに、ここは……落ち着きますね」
「君といると、どこでも楽園になる」
そんな歯の浮くような言葉に、アリアナは頬を染めて目を伏せる。
レオノールの指先がそっと髪をかき上げ、首筋に触れた。
昨夜、彼の唇が這った場所。
「……レオ様。わたし、もう……」
「怖がらなくていい。君は、もう俺のものだ」
ドレスの袖が滑り落ち、肩が露わになる。
その柔らかな白肌に、彼はそっと唇を落とした。
愛されていると思った。
王子様に、こんなにも求められているのだと――そう信じていた。
でも。
その扉の向こうで、誰かが見ていたことを、アリアナはまだ知らない。
その視線が、冷たく、憎しみに満ちていたことも。
公爵令嬢セレナ。
かつて王子の婚約者だった彼女が、アリアナを睨みつけながら唇を噛みしめていた。
「田舎娘が、王子の“遊び相手”にでもなったつもり?」
彼女の指先は震えていた。
侮辱されたのは婚約ではない。
愛する王子を身も心も奪われた。セレナは静かに牙を剥き始めた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
朝のホームルームが終わると、アリアナの机の上に、小さな白い箱が置かれていた。
(……なに、これ?)
可憐なリボンで結ばれたそれは、一見すると誰かからの贈り物のようだった。
けれど蓋を開けた瞬間、かすかに羽音が響いた。
「……っ!」
中に入っていたのは、香り高い紅茶葉――の中に、うごめく黒い影。
それは生きたまま詰め込まれた魔虫だった。
椅子を蹴るようにしてアリアナは後ずさった。
クスクスと笑う声が、教室の隅から聞こえる。
「まあ、驚きすぎよアリアナさん。紅茶の中身を確認しないなんて、お里が知れるわ」
聞き慣れた、透き通るような声。
振り向けば、そこには完璧に整った美貌と気品を備えた令嬢――公爵令嬢セレナ・エルメイアが立っていた。
白百合のような姿で、毒を吐くその姿に、誰も逆らう者はいない。
彼女は第一王子レオノールの、正式な婚約者。
アリアナも、それを知らなかったわけではない。
「……どうして、こんなこと……?」
思わず漏れた声に、セレナはにこりと微笑む。
「いけませんわ、アリアナさん。人の婚約者に“懐いて”ばかりいては。虫も寄ってくるのよ。ねえ?」
教室の空気が、張りつめる。
誰も彼女に異を唱えない。アリアナを哀れむような目が突き刺さる。
(わかってる……セレナ様は、王子の婚約者。わたしは……ただの、影)
けれど、それでも。
「やめてください」
震える声で告げたアリアナに、セレナはわざとらしく首をかしげた。
「まあ。ご忠告を差し上げただけなのに。……紅茶は、正規のルートで買うものですわよ? お里が知れる前に」
笑いながら踵を返す。取り巻きたちも、楽しげにそれに続く。
アリアナは、箱を見つめて立ち尽くしていた。
茶葉の隙間からのぞく魔虫の黒い身体。小さな羽音が、今も耳の奥に残っている。
そんな彼女の背後から、やさしい声が落ちた。
「……君がこんな顔をするなんて、珍しいな。どうした?」
振り向くと、そこには第一王子レオノールがいた。
銀髪が陽光にきらめき、いつものように微笑んでいる。
「……何かあったのかい、アリアナ」
「……いえ、何でもありません」
「そうか。でも、君のことは僕が守る。……忘れないで」
彼は箱に目をやると、無言でその箱の中身を足先で踏み潰した。
紅茶と虫が潰れ、床に汚れが広がる。
それでも彼は、笑顔を崩さず言った。
「誰が君に何を言っても、僕だけは、君の味方だから」
その言葉に、アリアナの胸が熱くなる。
(わたしは、ただの愛人かもしれない。でも――それでも)
彼の腕にすがって歩き出す。
セレナの視線が突き刺さるのに気づきながらも、振り返らずに。
アリアナはただ、王子のやさしさを信じたかった。
信じることで、救われたかったのだ。
……そのやさしさの裏に、どれほど冷たいものが潜んでいるのかも知らずに。
ーーーーーーーーーーーーー
その日、空が異様な赤に染まったのは、授業が終わる直前だった。
学院の屋上庭園で、何かが爆ぜるような音がして、魔力の激流が空気を震わせた。
生徒たちがざわめく中、アリアナの胸がひときわ強く脈打った。
「レオ様……?」
悪い予感がした。
彼がいつも散歩の時間に訪れている庭園。
なぜか、その場に彼の気配を感じたのだ。
アリアナが駆けつけたとき、そこには信じられない光景が広がっていた。
王子レオノールの身体が、膝をついて揺らいでいる。
その左腕――肘から下――が、まるで異形に変貌していた。
膨れ上がった皮膚。鱗。
人の形を失ったそれは、蛇の頭部と胴体に変わっていた。
「う……あ……!」
王子は呻き、苦しそうにうなだれている。
腕の蛇は勝手に蠢き、空中を威嚇するように舌を伸ばしていた。
「レオ様っ!」
駆け寄ろうとしたそのとき――
「下がれ!」
怒号と共に、王の直属の騎士がアリアナの前に立ちふさがった。
「近づくな。その者は、呪われている」
「……どういうこと、ですか」
震える声で問うたアリアナに、騎士は言葉を選ぶように口を開いた。
「隣国からの“贈り物”――王子殿下に渡された魔具には、強力な呪詛が仕込まれていた。
それが、腕に発現した。魔術師たちによれば、この呪いは“神蛇の契印”。
このままでは、王子殿下は意識を失い、肉体が完全に……蛇に浸食されると」
「そんな……そんなことって……!」
騒ぎを聞きつけたセレナが、駆け寄ってくる。
「レオ様!? レオ様、目を覚ましてっ!」
けれど王子の意識は朦朧とし、蛇の腕がうごめくたびに周囲の魔力が不安定になる。
制御不能――それが、彼の現状だった。
* * *
その夜、アリアナは王宮の奥深く、密やかに呼び出された。
謁見の間ではなく、密談用の小部屋。
そこにいたのは、王その人だった。
「……そなたが、あの呪いを肩代わりすれば、我が子は助かる可能性がある」
静かに告げられた言葉に、アリアナは目を見開く。
「なぜ、わたしに……?」
「“神蛇の契印”は、感情の執着を食らい、発現する。
王子の最も深い“情”を受けた者が、その一部を引き取ることができる」
「つまり……わたしに、レオ様の……呪いを……?」
王は頷く。
「左腕の蛇を、そなたが引き受けよ。そうすれば、呪いは分散し、王子は助かるだろう」
「……それで、わたしは?」
沈黙のあと、王は言った。
「正式な婚約者の座を与える。セレナ嬢には、黙ってもらう」
アリアナは唇を噛んだ。
胸の奥が、灼けるように痛む。
(……あの人を、救えるのなら)
たとえ醜い腕を抱えることになっても。
たとえ、誰にも知られずにその痛みを背負うことになっても。
「……わたしが、やります。
レオ様を……助けられるなら、わたしの身体なんてどうなってもかまいません」
王の目が細くなる。
「よかろう。“契印の儀”は、今夜、満月の下で行われる」
アリアナは、そっと自分の左腕に触れた。
それが、どれほど重い代償になるのか――
このとき、彼女はまだ知らなかった。
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真夜中。月は満ち、空には雲一つない。
アリアナは王宮の中庭にひとり立っていた。
白い儀式衣を纏い、左腕を剥き出しにして。
「これより“契印の儀”を執り行う」
老魔術師の声が響き、陣の紋様が青白く光る。
王子レオノールは横たわっていた。
昏睡状態のまま、蛇の腕がうごめき続けている。
アリアナが目を閉じると、儀式が始まった。
「心を開け。魂を結べ。“情”を分かち合え……!」
青い光が閃いた。
アリアナの左腕に、焼きつけるような熱が走る。
皮膚が裂け、骨がきしみ、何か異なる“存在”が腕に入り込む感覚。
「……あ、ああ……ッ!」
彼女の悲鳴が夜を裂いた。
そして、次の瞬間――
アリアナの左腕には、王子に宿っていた蛇の形をした“異形”が、巻きついていた。
目を覚ましたレオノールが、すぐ傍にいた彼女を見て、こう言った。
「……気持ち悪い」
アリアナは、時間が止まったようにその言葉を受け止めた。
「……レオ、様?」
「なんだそれ、お前の腕……何……? うわ……近寄るな」
彼は、忌々しそうにアリアナを見て、顔を背けた。
「どうして、こんな……。わたし、あなたのために……」
「誰が頼んだ。俺はそんなこと、一言も……」
その目には、かつてのやさしさの欠片もなかった。
「お前の左腕なんか、見るだけで吐き気がする。もう近づかないでくれ」
アリアナは、崩れ落ちた。
愛の証明として捧げた左腕は、汚物のように扱われた。
命を賭けて助けたはずの相手は、冷たく背を向けていく。
「……うそ。わたしは……あなたの……っ」
涙がこぼれても、腕の蛇は冷たいままうごめいていた。
* * *
数日後。
王子の体調は回復し、再び学院に姿を現した。
隣には、変わらず美しく笑うセレナ・エルメイア。
――正式な婚約者のまま。
アリアナの名は、口にされることもない。
「呪いを引き受けた女」の存在は、王宮内で封じられた。
アリアナは、学院を卒業して間もなく王都を離れた。
噂は冷たく、彼女の存在を“悪趣味な遊び相手”として片付けた。
そして彼女は、故郷の辺境にある男爵領へと引きこもる。
蛇の腕を手袋で隠し、誰とも関わらず。
あの日のことを、何度も何度も悔やみながら――
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辺境の地、リース領。
王都から馬車で三日。冷たい風が吹きすさぶ山間の小さな領地に、アリアナは戻ってきた。
学院を卒業して以来、一歩も外には出ていない。
村人たちは、彼女を遠巻きに見ては、口を噤んだ。
「魔女様が帰ってきた」
「蛇に取り憑かれた娘だって……」
そんな囁きが聞こえるたび、アリアナは手袋の下の左腕をぎゅっと握りしめた。
蛇の呪いは今も生きている。
蠢き、囁き、肌の下で何かを這うような感覚。
(わたしは、あの人に捨てられた。
愛していたのに、救ったのに――
どうして、こんな……)
屋敷の部屋に閉じこもる毎日。
カーテンを閉め切ったまま、手鏡の中で自分を見つめ続ける。
美しかった髪も、瞳も、今はただ虚ろだった。
けれどある日――
屋敷の使用人が、血相を変えて駆け込んできた。
「お嬢様っ、村の子どもが……! 森で、魔獣に襲われました!」
「……っ!」
身体が、先に動いていた。
アリアナは馬にまたがり、森へと向かう。
左腕に包帯を巻き、その上から手袋をはめて。
魔獣の気配はすぐに感じ取れた。
木々の奥、かすかな呻き声と、うごめく黒い影。
その瞬間、アリアナの左腕――蛇の部分が、熱を帯びた。
(……え?)
蛇が、意思を持つように鎌首をもたげ、魔獣に向かって舌を伸ばす。
すると、魔獣が苦しむように咆哮し、その場に崩れ落ちた。
毒。
その蛇には――**魔獣すら怯える“毒”**が宿っていた。
「…………これが、わたしの……」
気づけば、腕の蛇は静かにアリアナの意志に従っていた。
まるで、主人を守る忠実な番犬のように。
* * *
その日を境に、アリアナは屋敷の外に出るようになった。
魔獣に怯える村人のために、森の巡回を始める。
怪我人には、自ら調合した薬を配り、病に倒れた者には蛇の力で毒素を抜く。
最初は恐れていた村人たちも、次第に彼女に礼を言うようになった。
「ありがとう、アリアナ様」
「蛇様のお力を、ありがたく頂戴いたします……!」
アリアナの周囲に、花が手向けられるようになった。
いつしか、彼女はこう呼ばれるようになる。
――“聖蛇姫”(せいじゃひめ)
人々は知らない。
彼女が、かつて王子のために呪いを引き受け、
王都から捨てられた“影の令嬢”であることを。
* * *
その夜。
アリアナは静かに月を見上げながら、左腕の蛇に語りかける。
「あなたは、私にとっては呪いなんかじゃなかったのね……。
わたしのことを、見捨てなかった……」
蛇は、かすかにとぐろを巻いて、眠るように彼女の腕に寄り添った。
もう一度、ここから始めよう。
誰かのためじゃなく、自分のために。
――そう、アリアナは決意した。
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ある日、リース領の屋敷に、一通の密書が届いた。
――王都より緊急の要請。
第一王子レオノール殿下、再び呪いの発作を起こし、
魔術師・聖職者を総動員しても症状が止まらず。
原因は、契印の残滓。
唯一の救済手段は、“契約者”である貴女のみ。
アリアナは、冷たい瞳でその手紙を読み終えた。
「……また、あの人が……?」
左腕の蛇が、くるりと巻きついてくる。まるで、過去の痛みを思い出させるように。
* * *
王都。王宮の医療塔。
豪奢な天蓋付きの寝台で、王子レオノールは荒い息をついていた。
彼の左肩から先――かつて蛇に変貌したその腕は、今は黒い炭のような物体になっていた。
だが、呪いは死んでいなかった。
皮膚の下に蠢くような魔力の塊。
目を覚ませば、幻覚と激痛に襲われ、理性すら奪われる。
「アリアナを……呼べ……アリアナ、しか……」
「レオ様……わたくしが、ここにいますのに……!」
婚約者セレナの涙も、彼には届かない。
かつて“愛人”として陰で愛された女が、
いまや唯一の救いである――皮肉すぎる現実だった。
* * *
そして、王宮謁見の間。
アリアナは、静かにその場に立っていた。
簡素な黒のドレス。腕には手袋。表情は、微塵も揺れない。
王が深く頭を下げた。
「そなたに、頼みたい。あの子を……どうか、もう一度、救ってはくれぬか」
「……救えば、今度は何をくださるのですか?」
「……望みがあるなら、何でも。爵位でも、土地でも……」
「そう。前回は“婚約”でしたね。でも、結局何もいただけませんでした」
アリアナの言葉は、静かで、冷たい。
「彼は、わたしの腕を見て“気持ち悪い”と仰いました。
わたしの心を踏みにじって、“近づくな”と」
沈黙が満ちる中、寝台からかすかに声が響く。
「……アリアナ……助けて……頼む、俺を……!」
その声に、アリアナは目を伏せた。
左腕の蛇が、ふわりと動く。
まるで、判断をゆだねているように。
「……いいえ、レオ様。
あなたは、わたしに“近づくな”とおっしゃった。
ならば――」
ぱしん、と。
アリアナは手袋を外し、蛇の腕を露わにした。
「二度と、わたしにすがらないでください」
その言葉と共に、蛇が鋭く鎌首をもたげた。
誰もがその気配に息を呑む。
けれど、アリアナはそのまま、背を向けた。
「わたしの愛は、もう終わりました」
その背中が、王宮を後にする。
涙も、怒りもない。
あるのはただ、誇り高き拒絶と、静かなざまぁの宣告。
こうして、“かつて捨てた女”は
“見下した王子”に――永遠の拒絶を告げた。
ーーーーーーーーーーーーー
第一王子レオノールは、
左腕を切り落とすことでしか、呪いを断ち切れなかった。
切断されたのは、肘の上から。
肉体の激痛と共に、残ったのは“力を失った”という現実。
魔術も剣術も使えない身体。
そして王族としての“完全なる敗北”。
王位継承権は剥奪され、王宮の離れ――
誰も訪れぬ静かな館に、彼は幽閉されることとなった。
彼を訪ねる者はいない。
かつて抱いた令嬢たちは、誰ひとり面影を残さなかった。
愛を捨てた男の末路に、誰も涙を流す者などいなかった。
* * *
一方、公爵令嬢セレナ・エルメイア。
王子との破談ののち、家の威信を守るために――
隣国の五十歳の王のもとへ、“側妃”として輿入れした。
十人目の妃。名ばかりの后位。
一生を王宮の奥で、他の妃たちと肩を並べながら生きる運命。
かつて「公爵令嬢」で「第一王子の婚約者」として誇りを掲げたその姿は、
もう王国には残っていなかった。
* * *
リース領。
アリアナは今も、その静かな地で暮らしている。
弟――ルーカスが男爵家の当主となり、
彼女は補佐として領地の運営と守護に尽くしていた。
左腕には今も蛇の契印が残る。
けれどそれは、もはや“呪い”ではなかった。
魔獣や病魔から領地を守る力。
村人たちを救う、祝福の証。
人々は今も、彼女をこう呼ぶ。
――“聖蛇姫”。
春には子どもたちが、彼女の元に花を持ってやってくる。
秋には老人たちが、薬草と果実を供える。
アリアナは微笑んで、それを受け取る。
過去のことを話すことは、ほとんどない。
けれど左腕を見つめるとき、少しだけ、優しく目を細める。
(あのとき、すべてを捧げて、傷ついて、泣いて、悔いて……
でも、今のわたしがいるのは、あの腕があるから)
手袋を外し、陽の下に腕を差し出す。
蛇は静かにとぐろを巻き、彼女の掌にそっと寄り添った。
(……もう、あなたは呪いじゃない。わたしの一部――)
かつて愛を乞い、裏切られ、絶望した令嬢は、
今、ただ誇り高く、大地を見つめて生きている。
彼女の背には、誰よりも強くて優しい――
一匹の蛇が、寄り添っていた。
─完─