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シュテルンベルクの花嫁  作者: 北村 清
番外編

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博物館(1)

2章の病人食(3)と真珠宮妃と珊瑚姫の間の話になります

ある日の事です。


フェルミナ様のストールにゼラニウムの花の刺繍を刺しておられたティナーリア様が

「フリーデリーケ・フォン・シュテルンベルクはエマとリナのご先祖なのですってね。」

と言われました。


「ええと、正確には私達はフリーデリーケの兄の子孫ですけど、まあ確かに、はい。同じ一族の方です。」

と私は答えました。

「すごいわね。」

「ティナーリア様はフリーデリーケの事をご存知なのですか?」

「ええ、母からも祖母からも彼女の事は聞かされていたわ。彼女のような名手になれるとよいわね。って。私が育った村の女の子なら皆、母親から彼女の話を聞かされていたのではないかしら。」


なるほど。

私には祖母がいなかったし、母は教えてくれませんでした。だから、私はヒンガリーラントに来るまで彼女の事を知らなかったのですね。


フリーデリーケ・フォン・シュテルンベルクは、刺繍とパッチワークの名人だった人です。彼女の作品の中にはヒンガリーラントの国宝に指定されている物もあるほどです。シュテルンベルク家の屋敷に住むようになって、何点か彼女の作品を直に見ましたが、どれも非常に芸術的な素晴らしいタペストリーでした。


「子供心に彼女には憧れたわ。外国の女性と聞いていたけれど、ヒンガリーラントの方だったのね。どんな作品を作られたのか見てみたいな。」

「お母様。フリーデリーケって誰ですか?」

とフェルミナ様が質問されました。ティナーリア様が刺繍をする手を止めて、フリーデリーケの説明をされます。

「すごい人なのね。フェルミナもタペストリーを見てみたい。」

「見に行きますか?」

と、母がフェルミナ様に尋ねました。


「彼女の作品なら、国立博物館に展示されています。博物館に見に行ってみますか?」

「お母様!」

と姉が固い声を出しました。


「外を出歩くなんて危険です!フェルミナ様の身に何かがあったら。そもそもフェルミナ様は病み上がりなのよ。外出するなんて私は反対です!」

「護衛もいるし問題ないでしょう。それに博物館はとても安全な場所ですよ。ヒンガリーラントの国宝の数々を収蔵している場所ですから、警備は王宮並みです。騎士団も常に周辺を巡回していて不審者は一切近づけません。病み上がりと言っても、もう熱も下がっているのだし博物館はそんなに体力を使うところではないわ。」

「でも・・・。」

「ブラウンツヴァイクラントにいた頃は、王宮からフェルミナ様もティナーリア様も一歩も出る事はできなかったでしょう。なので、今は外の世界を知る又とない機会ですよ。いろいろな人がいて、いろいろな物がこの世の中にあるという事を知る事は、フェルミナ様のこれからの人生を豊かにすると私は思います。フェルミナ様、いかがですか?博物館には『ぬいぐるみ動物園』と言って、全世界の珍しい動物や鳥や魚のぬいぐるみが展示してあるのです。見てみたいと思われませんか?」

「見たい!」

とフェルミナ様は言われました。


「私も行ってみたいわ。」

とティナーリア様も言われます。

実のところ私もです。

たくさんの宝物や綺麗な物や可愛い物が博物館には飾られているのでしょう。どんな物があるのだろう?そう思うと胸が弾みました。


多数決では姉は完敗です。

結局、姉が折れる事になりました。


「明日は休館日ですので、明後日行きましょう。」

と母が言い、私達は二日後博物館へ行く事になりました。



そして二日後です。


私達は午後から別邸を出発する為に支度をしていました。気品溢れるフェルミナ様が平民のふりをしても逆に目立つだけなので、普通にお嬢様らしい装いをしてもらいます。ティナーリア様も同様ですが、母は一つだけティナーリア様に変装をしてもらう事にしました。『前髪付きのカチューシャ』をはめてもらったのです。


「年をとって、前髪が薄くなった女性がつける装身具なのです。ティナーリア様の髪色と同じ物を用意致しましたので、これをつければブラウンツヴァイクラント人だという事は周囲にはわかりませんわ。」


同じ物を私も姉もつけました。ブラウンツヴァイクラントの女性は前髪を長く伸ばす習慣があるのです。なので、前髪が短いとブラウンツヴァイクラント人には見えません。顔の印象もだいぶ変わって見えます。


「お母様、似合ってる。すごく可愛い。エマもリナも可愛い。」

フェルミナ様のお墨付きをいただきました。


「フェルミナは何もしなくていいの?」

とフェルミナ様が尋ねられます。


「フェルミナ様はお名前の呼び方を変えましょう。王女様だとバレないように。そうですね。『ルミ様』とお呼びするのはいかがでしょうか?」

と母が言うと、フェルミナ様は嬉しそうにうなずかれました。


「ティナーリア様は、そうですね。ティナーリア様の御母上の名前は何という名前だったのですか?」

「母はアマーリアという名前だったの。」

「では『アミィ様』とお呼びさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

「ええ、かまわないわ。」

「そうだ、お母様!」

フェルミナ様が会話に割って入って来られました。


「お母様の事『お姉様』って呼んだら、親子だってわからなくなるんじゃないかな。お母様ってシルヴィアーナお姉様やラウミドアお姉様と同じくらいの年なのでしょう?だからおかしくないと思うの。」

「まあ、名案ですわ。そう致しましょう。」

と母が言います。

確かに『水晶姫シルヴィアーナ様』はティナーリア様の一歳年上、『瑪瑙姫ラウミドア様』はティナーリア様の一歳年下だったそうです。

何せ、フェルミナ様はティナーリア様が16歳の時に生まれた御子様ですからね。


博物館へ行くメンバーは、フェルミナ様、ティナーリア様、母に姉に私。護衛騎士のアデムとエイダン、そしてシュテルンベルク騎士団のセラフィナです。

昼食を終えた後、私達は馬車に乗って博物館へと向かいました。




博物館は王都の文教地区にあります。元々は王家の離宮の一つだったという建物はものすごく広い豪華な御屋敷のような外観です。左右対称に二つの建物があり、右側の建物が博物館、左側の建物が美術館なのだそうです。私達は左側の建物に入って行きました。


入館料はたった銅貨10枚です。入館料が安いだけあって人がとても多いです。フェルミナ様が迷子になったら大惨事です。というか、大人でも下手をしたら迷子になりそうです。


受付でお金を払うと受付の女性がフェルミナ様に、紐を編んで作ったブレスレットを勧められました。迷子防止用のブレスレットなのだそうです。仮にフェルミナ様が迷子になり、迷子用の部屋に連れて行かれた後大人が迎えに来ても、お揃いのブレスレットをした大人にしか子供を渡さないのだそうです。誘拐や人身売買を防止する為です。ブレスレットの貸し出しは無料との事でしたので、安全の為貸してもらう事にしました。

フェルミナ様の希望で青と緑の紐を編んだブレスレットを貸してもらいました。ブレスレットの貸し出し名簿に名前を書かねばならず、名前を聞かれたフェルミナ様は


「ルミはね、ルミって名前なの。それでね、お姉様の名前はアミィって言うのよ。」

と元気にお答えになりました。


「利発なお子様ですねえ。」

と受付の女性に感心されました。迷子になったら泣くばかりで、自分の名前も保護者の名前も言えない子供が多くてこういう方法が採用されるようになったのだそうです。2本渡されたブレスレットは、フェルミナ様とティナーリア様がお付けになりました。


さあ、では出発です!


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