これからの日々
「私の言っている事は国際法に則している。弁護士の友人に難民との結婚について詳しく確認をとったのだ。私は少しでも早くリナと結婚したかった。だけど、面倒な状況を避ける為ブラウンツヴァイクラントの王太子が『新政府』を樹立するのを待っていたんだ。」
「だけど、だけどリナがローレンツと結婚していた事は事実なのよ。二人は夫婦なのよ!結婚は、そんな法律がどうとかいう冷たいものじゃなくて、もっと神聖な・・・。」
「お互いが離婚届にサインするほど冷え切った関係だったんだろう?」
「だけど、リナ!」
突然セオデライヒ夫人が私の服にしがみついて来ました。
「ローレンツのところに戻ると言ってちょうだい!そうでないと、あの子・・あの子!わたくしを捨てるって言っているのよ。わたくしがあなたを追い出したからこうなったんだって。だからわたくしにどうにかしろって!」
私は軽い頭痛を覚えました。
元夫の性根は相変わらず変わっていないようです。私と自分の復縁も、今後の生活の保障についても全て母親に丸投げして自分は指一本動かさない。面倒な事や不快な事は全部ママにお任せ。という態度です。祖国を失った事は悲しいですが、そのおかげであの男と手が切れたのは正直言ってものすごく嬉しいです。
「あの子に見捨てられたら、わたくしは生きてはいけないわ。それでもおまえは良心が痛まないというの?わたくしが死ぬような事になったら、おまえのせいなのよ!」
「それは貴女と息子の間の問題です。リナには関係がありません。」
とお母様が言ってくださいました。全くもって同感です。この人には、ローレンツと結婚していた間散々虐げられてきたのです。助けてあげねばならない義理などありません。
それでも、もし。ローレンツが一家の主人としてここに来てくれたのだったら。そして、私にした仕打ちを真摯に謝罪してくれたなら、よりを戻す事は絶対に無いけれど、生活の立て直しくらいは協力してあげたかもしれません。だけど、この人達は全く変わっていないし反省もしていません。もはや視界の隅に映る事すら不快です。もう二度と会いたくないし、名前も聞きたくありません。
「オイゲン。この方達に帰ってもらってください。」
と私はオイゲンに頼みました。
「承知しました。」
「リナ様!」
急に今まで黙っていたエディーナが、胸の前で両手を合わせ媚びるような視線を向けて来ました。
「子供達だけでもどうか助けてくださいませんか?今の状況ではこの子達を満足に育ててやれないのです。リナ様の元で育った方がこの子達も幸せです。ですからどうか、この子達をこの家に置いてやってください。」
・・・・。
満足に育てていけない、と言っているわりに色艶の良い子供達です。別に痩せてやつれているわけでも、何か病気を患っているようにも見えません。
私とて、この子らが珊瑚姫様くらい痩せてぼろぼろの服をまとっていたら、何とかして助けてあげたいと思ったはずです。でも、私の助けが必要な子供達には全然見えません。
エディーナの表情に、この子らを足がかりにシュテルンベルク家に入り込みたい。という本音が透けて見えます。
「子供を育てていけないというのなら、孤児院に預ければいい。」
とリヒャルト様が言われました。
「どこの孤児院も貴族や大商人が援助していて、子供達は最低限の生活ができるようになっている。当家でも幾つかの孤児院を援助している。援助はあなた達個人にではなく孤児院にする。だから孤児院を頼ると良い。」
「わたくし達は貴族です。貴族の子を孤児院なんかに入れるなんて!」
セオデライヒ夫人が顔を引きつらせて言いました。
「さっきも言ったようにおまえ達はもう貴族ではない。今この王都には苦境に立たされている子供達が数え切れないほどいる。私はその子供らに公平に接したいと思っている。血のつながりがあるわけでもない子供を特別扱いはしない。」
「王女達の事は庇護して贅沢をさせているじゃないの⁉︎血のつながりも無いのに!」
セオデライヒ夫人の言い分に腹がたちますが、言っている事は正当です。
ブラウンツヴァイクラントという国が無くなった以上、王女殿下方は王族でも何でもない一介の無国籍民なのです。そんな彼女達の生活の援助を私達はしています。それは公平ではない!と言われてしまえばその通りでしょう。
「王女殿下方は、ゴールドワルドラントの国王の後ろ盾で新政府を樹立したマクシミリアン王子の妹だ。マクシミリアン王子から我が国の国王宛てに直筆の手紙が来て、国内が安定するまでヒンガリーラント国内で妹達の保護をお願いしたいと依頼されているんだ。国王陛下はそれを受け入れられた。私は王国の大臣の一人として国王陛下の命令に従っている。」
えっ⁉︎
それ、初耳なのですけれど。
というか『新政府』云々の話が初耳ではあったのですけれど。
「王女殿下とおまえ達の違いは、頼りになる異性の親族がいるかいないかだ。オイゲン。騎士団に命じて客人を門の外に引きずり出せ。」
「かしこまりました。」
騎士達がリヒャルト様の命令を忠実に実行します。セオデライヒ夫人もエディーナも、とても淑女が言うセリフではない、というセリフを叫んでいましたが、屈強な騎士達の前でなす術などなく連れて行かれてしまいました。
「大丈夫、リナ?」
とリヒャルト様が心配そうな声で聞いてくださいました。
正直言って疲れました。
でも、問題が片付いて良かったです。ローレンツなんかとよりを戻さずに済んで良かったです。リヒャルト様の婚約者で居続ける事ができて良かったです。私は泣きそうになってしまいました。
「来てくださってありがとうございます、リヒャルト様。私を助けてくださって、ありがとうございます。」
「助けるのは当然だよ。僕達は家族なんだ。私だってリナに助けてもらっている。」
「リヒト様、ありがとうございます。大好きです。」
私の目から涙がこぼれ落ちました。
リヒャルト様と婚約して、そして結婚すれば私はきっといろいろな苦労をするでしょう。王家が何か干渉してくるかもしれませんし、腹芸のできないコンラート様が誰かと揉めるかもしれませんし、ジークルーネ様は絶対騒動を今後も起こしそうな気がしますし。
でも私は幸せだと思いました。リヒャルト様に守られて、一人の人間として尊重されて。そしてこの幸せを何としても守りたい、と思いました。
ヒンガリーラントに来て良かった。と心から思いました。
祖国を失った時、もう人生で良い事なんか何も起こらない。人生は詰んでしまったと思っていました。だけど、生きる事を諦めないで良かった。
状況は変わるし、人は生き直せる。そう思いました。母や兄や姉やコンラート様やジークルーネ様やオイゲンやセラフィナ達、そしてリヒャルト様がそう思わせてくれたのです。
「大好きです。リヒト様。」
そう言って私はリヒト様に抱きつきました。リヒト様が優しく抱きしめてくれます。
涙が止まりませんでした。でも今は泣いていたいです。
そして涙が止まったら、『新政府』やら『王太子殿下の直筆の手紙』などについてリヒャルト様に問いただそう。と思いました
そして時が経ち、婚約式の日になりました
私は、母やヨハンナと一緒に最終チェックをして回っています。
余談ですが、私は前髪を切りました。ブラウンツヴァイクラントに戻る事はない、これからはヒンガリーラント人として生きていく!と決意したからです。
今日が、そしてこれからの日々がずっと、ずっと幸福なものになりますように。そう願い、私は真っ直ぐ前を向きました。
窓の外にはとても綺麗な青空がどこまでも、どこまでも広がっていました。
最終回になります
無事、完結させる事が出来たのは読んでくださった皆様一人一人のおかげです
心から感謝します
最後に、もしできる事なら、皆様の好きな数だけお星様を押して頂けたら、とってもとっても励みになります
どうか、よろしくお願いします^_^




