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シュテルンベルクの花嫁  作者: 北村 清
第4章 婚約式に向けて

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現実

その書類を私は真っ青になって見つめました。


その紙は間違いなく『あの日』私に突きつけられたもので、そこには私の署名が書かれています。

まさか離婚届を役所に提出していなかったなんて!


離婚届をきちんと提出したのか、どうか?確認をしておかなかった私が確かに愚かだったのです。だけど、こんな事想像できるでしょうか?


私は目の前が真っ暗になるような気持ちでした。

私は今尚、あのゲス男の妻なのです。だからリヒャルト様と結婚をする事はできません。ブラウンツヴァイクラントでもヒンガリーラントでも『一妻多夫』は認められていないからです。


私との結婚の話が流れてしまったらリヒャルト様は、王女殿下と結婚しなくてはならなくなるでしょう。

そうなったらコンラート様はどうなってしまうのでしょう?私達の結婚を心から祝福してくれた使用人達はどうなるのでしょう?


コンラート様とジークルーネ様の婚約式の準備はどうすればいいのでしょう?


あまりの事態に、絶望に押しつぶされそうになってまともに息ができませんでした。

私の目の前で嬉しそうにニヤニヤと笑いながらセオデライヒ夫人はお茶を飲んでいます。第二夫人と子供達はお菓子を貪り食べています。彼女達は間違いなく私の身内なのです。私には彼女達を扶養する義務があるのです。


「リナ。」

と言って母が手を握りしめてくれました。兄は書類を手にとって、穴があきそうなほど書類を見つめています。



その時でした。


ノックもなくドアが開きました。私はゆっくりと顔を上げました。入って来た人物は私の側にひざまずき

「リナ。」

と言って手をとってくれました。


「大丈夫か?ひどい顔色だ。」

「リヒト様。・・私。」

それ以上言葉が出て来ませんでした。




「心配で、様子を見に来たんだ。オイゲン、何があった?」


オイゲンよりも先にセオデライヒ夫人が口を開きました。


「シュテルンベルク伯爵様。お会いできて光栄ですわ。わたくしリナの母親の・・・。」

「黙れ、慮外者。発言の許可は出していない。」


リヒャルト様の声とは思えないほど冷たい声でした。セオデライヒ夫人は悔しそうに扇子を持った手を震わせています。


オイゲンが要点を掴んだ説明をリヒャルト様に話しました。説明が進むにつれ、セオデライヒ夫人の顔に勝ち誇った色が浮かびます。夫人の側でエディーナは、ぽけーっとした表情でリヒャルト様の顔に見惚れていました。


リヒャルト様が小さくため息をつきました。


「リナ。気にする事はない。そもそもこんな紙切れに何の意味もありはしない。」


意味がわからず、私はリヒャルト様の顔を見つめました。


「何を言っているの⁉︎この書類はわたくしの息子とリナがまだ夫婦だという事を証明する書類なのよ!」

セオデライヒ夫人が歯を見せて叫びます。


「夫婦だと証明?これは離婚届ではないか?夫婦双方が、夫婦関係を解消する事に納得している、という証明書だろう。」

「それをまだ役所に提出していなかったから、リナはまだ息子の妻でわたくしの娘なのです!」

「馬鹿馬鹿しい。夫人。よく目を見開いて見てみろ。この書類の一番下に何のハンコが押されているのかを。」


そう言われて私も母も兄も、書類の一番下を見つめました。書類の右下には『民政省』の印が押されています。この書類が民政省の発効した、正式な書類であるという証です。


「そのハンコが何だというの?」

セオデライヒ夫人がイライラとした声で言いました。


「これは『民政省』のハンコだろう。ブラウンツヴァイクラントでは戸籍を管理するのは民政省の役割だ。そして民政省は国家に属する組織だ。だけどもう、ブラウンツヴァイクラントという国家はどこにも無いんだ。故に、国家がその価値を保証するもの。貨幣や国債が価値を失った。不動産や国に与えられていた名誉称号や身分もだ。そんな中で『婚姻制度』だけが価値を保証されているわけがないだろう。」

「ど・・どういう事?」


「西大陸での結婚の取り決めは、各国それぞれの民法によって保証されている。国を跨いだ宗教組織や、世界共通の魔法の力、などが保証しているわけではない。リナの場合、ブラウンツヴァイクラントという国家がおまえの息子と夫婦関係にあると立場や権利を保証していたんだ。それはわかるな。」

「・・・・。」

「だけどブラウンツヴァイクラントという国は無くなった。ブラウンツヴァイクラントは君主制の国だ。国王を中心に国が成り立っていた。だけど国王は行方不明だ。その後継である王太子は外国に亡命し体制を立て直そうとしている。だけど王太子の身で先頭に立ち国政に手腕を振るう事は国王に対する反逆と見做される。だから王太子は『新政府』を新たに立ち上げた。ブラウンツヴァイクラントとは全く違う自分がトップに立てる国を作り出したんだ。これにより、ブラウンツヴァイクラントという国は完全に無くなり、ブラウンツヴァイクラントという国が保証していたものが全て価値を失ったのだ。」

「・・・・。」

「そして、それは『結婚』という制度もだ。ヒンガリーラントの王都の市民権を買ったリナはヒンガリーラント国民で、伯爵家の一族の貴族の娘だ。だが、おまえとおまえの息子は何者でもない無国籍の流民に過ぎない。ブラウンツヴァイクラントが無くなった今となってはリナとおまえ達の間に何のつながりもない!」



セオデライヒ夫人はものすごくショックを受けているようです。

でも、私もショックを受けていました。

私は祖国で革命が起こった事、難民となってしまったという事がどういう事なのか本当の意味でわかっていなかったのです。


これが革命なのです。

国を失い難民になるという事なのです。


それは何と恐ろしく、悲しい現実なのでしょう。


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