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シュテルンベルクの花嫁  作者: 北村 清
第4章 婚約式に向けて

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予期せぬ来訪者

連絡を入れて来たのは、私の姑でした。


いえ、元姑です。


もう「お義母様」と呼ぶ義理もありませんので、セオデライヒ夫人と呼びましょう。セオデライヒ夫人が、私に連絡を寄越して来たのです。


何故、私の居場所がバレたのかは簡単な話です。従妹のレベッカ様が兄達を探していた時、ブラウンツヴァイクラントとその周辺国の新聞に私達家族の記事を載せました。それを読めば、母や私がヒンガリーラントにいるという事がすぐにわかりますし、ヒンガリーラントに着けば、母がシュテルンベルク家の人間で、ヒンガリーラントに帰化する。という記事があらゆる新聞に載っているのです。


正直、会いたくありませんし会う義理もありません。だけど「大事な話がある」と今更言われた事が不気味ではあります。

良い話だとは思いません。

でもそれを無視していると、新聞社やらララ公女様の所へ行って有る事無い事不満をぶちまけるかもしれません。コンラート様とジークルーネ様の婚約式を前に悪質なスキャンダルを吹聴されるのは困ります。


なので会うだけ会ってみる事にしました。


話し合いには、母と兄に同席してもらう事にしました。リヒャルト様も

「私も同席しようか?」

と言ってくださったのですが、忙しいリヒャルト様の御手を煩わすのは心苦しかったので断りました。

というか、もしもリヒャルト様が同席されると、後々セオデライヒ夫人が

「私とシュテルンベルク伯爵は親しい間柄なのよ。」

とホラを吹いてまわりそうな予感がします。そういう事をしそうな人なのです。


セオデライヒ夫人は、難民収容施設にいるのだそうです。私がそちらを訪ねようと思ったのですが、シュテルンベルク邸で会いたいと強硬に言い張られました。

その方が安心だ。とリヒャルト様にも言われました。

難民収容施設は周囲にどういう人がいるかわかりませんが、この屋敷なら屋敷内にいる全員が私の味方です。

ジークルーネ様など嬉しそうに

「もしもの時の為に、隣の家からワニを借りて来てあげようか?」

と言われました。


「お隣の家にはワニがいるのですか?」

「いるんだよ。隣のブライテンライター侯爵夫人は爬虫類愛好家で珍しい爬虫類をたくさん飼っていらっしゃるんだなー。侯爵夫人とコンラートは仲良しでね。もしも夫人が飼っていらっしゃるゾウガメよりも先に夫人が亡くなったら、ゾウガメを引き取って世話をするという約束をコンラートはしているんだ。」


以前、ゾウガメがシュテルンベルク家の庭に迷い込んで来た事があったらしく、数日間ゾウガメの世話をしたコンラート様はすっかりカメに情が移ったのだそうです。

しかし、カメはともかくワニが必要になる『もしもの時』って、いったいどういう時なのでしょう?怖くて聞けませんでした。


嫌な事はさっさと済ませてしまった方が良いので、私は二日後にセオデライヒ夫人と会う事にしました。


ローレンツも一緒なのかしら?と思うと少し胸がざわざわしました。もうとっくに愛想が尽きた相手ですが、私はほんの少しだけ謝罪してくれる事を期待していたのです。


そして勿論、期待は裏切られました。



二日後。セオデライヒ夫人はシュテルンベルク家が迎えに寄越した馬車に乗ってシュテルンベルク邸にやって来ました。


どういう過程を経てヒンガリーラントまでやって来たのかは不明ですが、夫人はあまりやつれた様子も無く、豪華な絹のドレスとストールを見にまとっていました。一緒に連れて来たのは夫の第二夫人だったエディーナとその二人の子供達です。エディーナの方はだいぶ痩せていました。


私が席に座るよう勧める前にセオデライヒ夫人はソファーに腰掛けました。そして

「久しぶりね。」

と怒気を孕んだ声で言いました。


先に私に声をかけたという事は、自分の方が私よりも身分が上だと思っているという事です。貴族社会では目上の者から先に声をかける、と決まっているからです


「いったい何の御用でしょうか?」

と私は愛想のない声で言いました。


「本当にあなたは陰険な女ね。ヒンガリーラントの伯爵家と、それもあのシュテルンベルク家と縁続きだという事を黙っているだなんて。育ちのさもしさが知れるというものだわ。」

「・・・・。」


もしかしたら謝ってもらえるのでは、とか、花嫁持参金を少しでも返してもらえるのでは、と期待していたのですがそれはどうやら無さそうです。

来訪の目的はおそらく金の無心でしょう。

ただ、それにしては態度が横柄ではないでしょうか?願い事があるのなら少しくらい下手に出るべきではないでしょうか。


オイゲンがお茶とクッキーを持って来てくれました。「食べて良い」と言う前に、子供達がクッキーをつかみ音をたてて貪り食います。相変わらず躾がなっていないようだと思いました。


「地味なカップね。」

とセオデライヒ夫人が言いました。


「部屋の内装も安っぽい。どうしてもっとお金をかけていないの?先祖が作ったという金貨何百枚もするタペストリーとかあるのでしょう。」

「な・ん・の、御用ですか⁉︎」


私は言葉を一つ一つ区切って質問しました。


「私やローレンツが住む部屋はもっと内装や家具を豪華にしてちょうだい。」

「はっ?」

私は大きな声で聞き返しました。


「何を言っているのですか、夫人?あなたと私はもう関係が無いでしょう?」

「おまえこそ何を言っているの?おまえはセオデライヒ家の嫁でしょう。おまえにはローレンツと私に尽くす義務があるわ。」

「私とローレンツはもう離婚しています。あなたが私を追い出したんじゃないですか!」

「そうね。すっかり騙されていたわ。こんな異国の大貴族との繋がりをわざと黙っているなんて。本当に卑劣な嫁だこと。それを正直に言えば家の片隅にでも置いてやったというのに。腹立たしいけれど、でも仕方ない許してやるわ。ローレンツが許してやると言っているのですもの。離婚の話は無かった事にしてやるわ。」


「セオデライヒ夫人。」

兄が怒りで声を震わせながら口を開きました。


「今更、そんな理屈が通ると思っているのですか?状況が変わった途端よくそこまで手のひらが返せるものですね。非常に不快です!」

そう言ってドアを指差しました。


「あなたやあなたの息子の許しなんか必要無い。リナにはあなた達に対して何の義務も無い。さっさと出て行ってくれ!」

「まあ、なんて乱暴な物言いかしら。お母様の教育が忍ばれるわね。」

「いいから出て行ってくれ!」

「黙りなさい!私はリナの母親なのよ。そんな口の利き方が許されると思っているの!」


「リナの母親はわたくし一人です。セオデライヒ夫人。」

母が毅然とした声で言いました。しかし、夫人は「ふん」と言って鼻を鳴らしました。


「私もリナの母親なのよ。だって・・・。」

そう言ってセオデライヒ夫人はにやりと笑いました。


「離婚届を役所に提出していないもの。」

「・・・えっ?」

と思わず声が出てしまいました。


夫人はエディーナに視線を移しました。子供達同様、クッキーをがつがつと食べていたエディーナがカバンの中から紙を一枚出しました。


私は血の気が引きました。


それは私とローレンツのサインが書かれた離婚届だったのです。

いつも読んでくださりありがとうございます


先日、北村初の短編をアップしました

コメディーです

もし良かったら是非覗きに来てください。『とある勇者の異世界戦記』という勇者召喚ものです


こちらの作品もあと少しで完結です

応援是非是非よろしくお願いします(^◇^)

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