シュテルンベルクの花嫁 其の2
「ジークルーネ様の事を試しておられたのではないですか?」
と私は質問しました。
「試したなんて程の事ではないけどね。ただ、コンラートや私が悪役になってジークルーネがレスフィーナ達の事をかばえば、ジークルーネの好感度が上がるのではと考えたよ。」
「ジークルーネ様がかばわなかったら、ジークルーネ様をどうされるつもりだったのですか?」
「別にどうもしないよ。そもそも、侮辱され害されようとしたジークルーネが犯人を許さなければならない義務は無い。レスフィーナ達については、司法大臣のフランツに減刑をしてくれるよう依頼してはおいたし。彼女達も王都に護送される間処刑の恐怖に怯える事で十分な罰にはなったはずだ。」
リヒャルト様はそう言ってもう一口お茶を飲まれました。
「問題のある家臣達であったが領地の為に尽くしてくれていたのは事実だ。必要以上に残酷に対処する必要はない。だけど、コンラートとジークルーネに敬意を払えない者を領政の中心に据えておくわけにはいかない。今回の事は必要な事だったと思っている。」
「そうですね。」
「王都に戻ったら、コンラートとジークルーネの婚約式をしようと思っているんだ。」
とリヒャルト様は言われました。
『婚約式』というのは貴族同士が婚約をした時、友人知人を招いて豪勢に行うパーティーの事だそうです。通常は婚約してすぐ行うものですが、コンラート様とジークルーネ様の場合ジークルーネ様が生まれたと同時に婚約が成立したので、今まで正式な式を挙げていなかったのだそうです。
「そんなに派手でなくても良いので温かい式にしてやりたいと思っている。リナ。あなたがオイゲンやヨハンナと協力して式を取り仕切ってくれないだろうか?」
「そんな重要な事を任せて頂いて良いのですか?」
「あなたに任せたいんだ。」
優しい声に、胸がトクンと音をたてました。
護衛の存在を除けば、部屋の中に二人きりです。何となく甘い空気が漂っています。ジークルーネ様から聞いた話を思い出し、落ち着かない気持ちになって来ました。
リヒャルト様も、やたらティーカップを触りまくっています。
「シュテルンベルク家もだけど、国全体がこれから大きく揺れる事になると思うんだ。」
「そうですね。王太子が交代するのですもの。」
「そうなる前に一族全体で結束力を高めておきたいと思う。」
「・・はい。」
「私は叔母上やリナ達の事を守っていきたいと思っているし、リナ達もシュテルンベルク家を支えてくれたらと思うんだ。それで、その・・・。」
「・・・・。」
「リナ。どうか私と結婚してくれないだろうか?」
「・・・・。」
「返事は今すぐでなくてもかまわない。あまり時間をかけられても困るがでも君にも考える時間が必要だろうし、私は君よりだいぶ年上だし、コンラートという連れ子がいるし・・・。」
「リヒャルト様はそんなにも、王女殿下と結婚をしたくないのですか?」
ガッシャンッ!
とリヒャルト様がティーカップを床に落として割ってしまいました。
「なっ・・えっ⁉︎誰が?って・・ジークルーネかっ!」
「・・・・。」
「いや、違う!そうじゃなくて・・いや、まあそれもあるのだが、しかし、私は!」
リヒャルト様がアワアワとしておられます。
「別にいいのですよ。私も一度結婚してますから、結婚はゴールではなくスタートで、ロマンではなく生活だという事がわかっています。結婚は周囲が引くほど愛し合っている者がするもので、愛さえあればどんな障害も超えていける。なんて考えはとっくの昔にゴミ箱に捨てました。今更結婚に愛だの恋だのは求めておりません。信頼できる相手と安定した生活を送れるという事が第一です。リヒャルト様もそうなのではありませんか?」
「あー、うー、あー・・。」
「そしてその判断基準で言うと、王女殿下やレスフィーナさんよりも私の方が信頼できるし安定した生活を送れそうって事なんですよね。」
「いや・・その。」
「正直言って嬉しいです。人にもよるのでしょうが、私は『愛している』と言われるよりも『信頼できる』と言ってもらえる方が嬉しいですから。」
「リナ。私は君を信頼しているよ。君は誠実で弱い立場の人に優しく行動力があって正義感も強い。そもそもあのジークルーネとうまくやっているというだけで尊敬に値する。君は素晴らしい人だ。」
「ありがとうございます。」
私は心から言いました。
リヒャルト様はシュテルンベルク家の家長です。一族の人間である私に命令や強制ができる立場なのです。
なのに私の意思を尊重しようとしてくれる。
それがとても嬉しいと思いました。
「お話、お受けします。」
と私は答えました。
「リヒャルト様にも打算があるのでしょうが、私にも打算があります。私と私の家族を守って欲しいと思っていますし、フェルミナ様達の事も出来うる限り守って頂きたいと思っています。だけどそれを全てリヒャルト様に頼りきる事はしません。むしろ私自身が伯爵夫人になる事で自らの足元を固め自らの願いの為に行動したいのです。リヒャルト様。先に言っておきますが、私も従順なだけの女ではありませんよ。それでも良いのですか?」
「かまわない。ここまで来たら私も正直に言おう。私には今、何が何でも妻が必要で、そして僕の近くにいる独身女性の中で君が一番尊敬できて信頼できる人なんだ。だから、君に私と結婚して欲しい。」
「はい。どうか、よろしくお願い致します。」
私はそう言って深く頭を下げました。
冬の終わり、ブラウンツヴァイクラントを離れた時はまさかこういう事になるとは思っていませんでした。
私の運命は、また一つ大きな転換点を迎えたのです。
第3章終了です
次話から第4章になります
第4章で完結予定となっております
もう一波乱事件が起きますが、リナと作者に頑張れよー!と思って頂けましたらブクマや☆☆☆☆☆をポチポチっと押して背中を押して頂けますと非常に励みになります(^ ^)




