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シュテルンベルクの花嫁  作者: 北村 清
第3章 シュテルンベルク領の領都

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領主の帰還(3)

「何だ、ジークルーネ。」

「嫌っている私の為に、公正な判断をしてくださる事は感謝します。ですが、正直そこまで厳しい判断をしてくださらなくてけっこうです。

私は敵の多い女ですから、害を為そうとしてくる者全員を死刑に処していたら、人類が絶滅するかもしれません。昨日、使者が届けた手紙の内容を見てから今までの間、彼女達は十分罰に対する恐怖を味わったはずです。ですから、彼女達も木こりも私の視界に入らないところで今後ひっそりと生きてくれるなら、別に命まで奪わなくとも結構です。」


「優しいのだな。」

「そうですよ。私は優しい女ですよ。ご存知なかったのですか?」

「どの口が言っているんだ。」

「鼻の下にあるこの口です。私は殺したい相手は自分で殺します。たとえ死刑執行人であろうとも他人に任せたくはありません。今私の目の前にいるこいつらは、この手でぶち殺したい程の相手ではありません。その価値もありません。」

「優しい女のセリフじゃないぞ。」

とリヒャルト様が苦笑されました。


「こいつらを生かしておいて何か価値があるのか?」

「シュテルンベルク領の内政に干渉されずにすみます。司法省に彼女達を突き出せば王都の貴族達にシュテルンベルク領内の内政の混乱を知られてしまいます。今、ヒンガリーラントでは大々的な権力構造の地殻変動が起きようとしています。そんな時に、ディッセンドルフ家、ハーゼンクレファー家、ブランケンシュタイン家、そして何より王家からの干渉を受ける可能性がある事は避けるべきです。『聖女エリカ』とて、強姦未遂犯に蹴りを喰らわしただけでトドメまでは刺しませんでした。状況に応じて融通をきかせる事は、シュテルンベルク家に伝わる長所のはずです。」

「だとさ。どう思う、コンラート?」

「罪に対する罰は、被害者に対する償いを兼ねるものですから、被害者自身が減刑を求めるならばそれは受け入れるべきだと思います。」

とコンラート様は言われました。


「叔母上はどう思われますか?」

「国が間違いなく荒れる事がわかっている今の状況で、シュテルンベルク家が荒れている事をおおやけにする事は確かに得策ではないと思います。時期が悪いのは確かですわ。」

「わかった。処刑は取り下げよう。しかし、ジークルーネの前に現れる事は二度と禁じる。よって、レスフィーナ、オリガ、キルファ、サビーネ、それに三人の木こり達はヒンガリーラント国外への追放を命じる。この七人の三親等内親族も同罪だ。」


それでも尚重い。と思った人達もいるでしょう。しかし、これ以上ゴネればやはり処刑に。という事になるかもしれません。


レスフィーナ達はうなだれて罰を受け入れました。


三親等内親族も同罪。という事は、シュテルンベルク家の中枢に関わる人達のうちかなりの数の人達が連座という事になります。祖母である侍女長のマデリーナ。司法のトップであったという父親。それに父親の姉妹であるというシュヴァルツワルド家の親方の妻などです。彼らは皆、国外に追放をされるのです。シュテルンベルク領は変わらざるを得なくなります。

しばらくは大変でしょう。

でも、これを機会に良い方に変わって行ってくれるなら。とそう願います。


コンラート様とジークルーネ様なら、そんな未来を見せてくれる。そう思えました。



そして一週間が経ちました。その間に追放される人達は皆追放されました。家令のロベルトは追放こそされませんでしたが、責任を問われ家令の職を解かれました。料理長もです。信用のできない騎士をジークルーネ様の護衛につけようとした騎士団長は減給三ヶ月の処分を受けました。


領内の仕事は今リヒャルト様とコンラート様がフル稼働で処理をしておられます。及ばずながら、母や私も手伝いをしています。ジークルーネ様は領内の木こりの親方達を次々に訪ね、親交を結んでいるようです。シュヴァルツワルド家のニドを叩きのめした、という話は領内に広く広まっていて、木こり達はジークルーネ様をおそれているそうですし、領民からは喝采を受けておられます。


そして一週間目。王都からいわゆる『有識者』達がやって来ました。彼らは政治や司法のプロフェッショナルで、いわゆる領地の再生を請け負うコンサルティング業者です。家令や侍女長がいなくなった穴を彼らに埋めてもらうのだそうです。そういう人達の存在を知らなかった私としては「いろいろな職業があるものだ」と、ただただ驚くばかりです。

料理人は、エーレンフロイト侯爵の推薦でエーレンフロイト家で働いていた料理人が来てくれました。彼が来て初日に作ってくれた料理はどれもこれもおいしくて、領館で働く人達の間で大好評でした。


「ようやく一息つけたな。」

お茶を飲みながらリヒャルト様は私にそう言われました。


今、書斎にいるのはリヒャルト様と私とそれぞれの護衛騎士達だけです。


私はリヒャルト様に聞いてみたかった事を尋ねてみました。

「リヒャルト様は本当にレスフィーナ達を処刑するつもりだったのですか?」

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