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シュテルンベルクの花嫁  作者: 北村 清
第3章 シュテルンベルク領の領都

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田舎の論理(2)

「レスフィーナは、リヒャルト様の愛人だったの?」

と私は質問し、言葉選びを間違ったと思いました。リヒャルト様は独身です。『恋人』という言葉を使うべきだったでしょう。

つい、モヤっとした気持ちになって、品の無い言葉を使ってしまいました。


「いえ、そんな雰囲気は無かったけれど。でも、ヒルデブラント侯子と親密なコンラート様はいずれ廃嫡されると言っていて。そうしたら、新たな後継ぎがいるから必ず自分が選ばれるって。今思えば、根拠のないセリフなんですけど、でも皆信じていました。というより、この屋敷内でレスフィーナ様の言葉を否定する事は許されませんから。」

「でも確かカミルが、リヒャルト様には王族との婚姻の話があるって?」

「今年になって急にそんな噂が流れたんです。レスフィーナ様は焦っていました。でも、それならコンラート様と結婚するって言い出して。だから、ジークルーネ様を敵視していたんです。ジークルーネ様はシュテルンベルク家に相応しくないって言って回っていました。」

「それを決める権利はレスフィーナにはないでしょうに。」


だけど、それがあるとレスフィーナ自身は信じていたのです。認知が歪んでいます。


姑と同じだわ。

と私は思いました。


彼女も使用人や領地の平民を見下し、驕り高ぶっていました。たまにしか領地に現れない子爵夫人の事も侮っていました。王族や他の高位貴族の前に立つ可能性はありません。彼女は自分が生きている狭い世界の中では最強だったのです。


「私も、地下牢行きでしょうか?」

とアルスリーアは質問しました。


「あなたは悪事を実際に行なったわけではないわ。知ってはいたのでしょうけれど、堂々とサビーネ達がオムレツを作っていたのなら『知ってはいた』という人は多いのでしょう。その人達全てを牢に放り込むわけにはいかないわ。」

「私、もうレスフィーナ様に、いえレスフィーナには従いません。心を込めてジークルーネ様にお仕えします。本当です!」

「それが本気なら、ジークルーネ様をしっかりと守ってあげて。これ以上彼女が傷つかないように。」

「はい!」

「下がっていいわ。」

と私はアルスリーアに言いました。


アルスリーアが出て行った後。


「ここは相変わらずですね。」

とセラが言いました。


「リヒャルト様が独身なのは、結婚相手が見つからないから。と本気で信じているんですよ。だから私が結婚してあげるの。って思っているんです。コンラート様の事だって。お側で見ていればどれだけ立派な方かは、はっきりわかります。先日のハーゲンベック領での事といい、弱者には優しく悪には厳しく、そんな若君なのです。なのに、自分達の信じたい事だけを信じている。典型的な『井の中の蛙』達です。」

「ここだけじゃないわ。どこもそうよ。」


姑もそうでした。

王都に出れば爵位持ちの貴族や王族がいるという事を知識としては知っていても、理解はしていなかったのです。


そして、そんな貴族達や王族の上に国王がいる。


そしてその国王も最も上の存在ではなく、更なる上位者としてゴールドワルドラントの国王やヴァイスネーヴェルラントの王太后がいます。


自分の立ち位置をわきまえる事は、人にとって最も高尚で最も困難な事の一つなのでしょう。


コンコンとドアをノックする音が聞こえて来ました。


「話し合いは終わった?」

と言ってジークルーネ様が入室して来ました。


「わかってらしたんですか?」

「耳が良いもんで。」

とジークルーネ様が冗談を言われます。ジークルーネ様が優れているのはむしろ、洞察力と勘でしょう。そんなジークルーネ様に腐った物を食べさせようなんて無理に決まっています。ジークルーネ様はそんな注意力散漫な方ではありません。


「アルスリーアをこのまま護衛騎士にしておきますか?」

と私は尋ねました。

「代わりに別な人が来るのも煩わしいからね。アルは賢い子だよ。レスフィーナより私の方が強いと理解したら、ちゃんとこっちに寄って来る。口の固さや忠誠心も申し分ない。他の騎士団員の方が厄介だよ。イティエルとかをどうやって懐柔しようか、策が全く思いつかない。」

「ジークルーネ様がお心を悩ます必要はありません。騎士に忠誠心が無いとしたらそれは騎士の方の問題です。主君に使えるのが嫌なら木こりに転職すれば良いのです!」

セラが冷たく言いました。セラはハーゲンベック領の事件以来、すっかりジークルーネ様に心酔しているようです。



私がレスフィーナを警戒していたのは勘が働いたから。ではありません。リヒャルト様に警告されていたからです。


親族会議で、ジークルーネ様をどこに引き取るか?という話をした時、母がシュテルンベルク領を提案すると

「う・・うーん。それは。侍女長も孫娘もちょっと問題あるタイプだからな。ジークルーネを放り込むと大騒動になる予感が・・・。」

とリヒャルト様は言われたのです。


「父上。あの連中は『かなり』問題がありますよ。」

とコンラート様が訂正されます。


「あら、なら尚更良いではないの。雨降って地固まる、というじゃない。シュテルンベルクの結束を固める為にも、ジークルーネ様に騒動を起こしに行って頂きましょう。」

「しかし、叔母上・・。」

「騒動の中で、その侍女長と孫娘がシュテルンベルクの一員として相応しいのかも、ジークルーネ様の心の底もわかると思いますよ。問題は結婚する前に解決しておいた方が良いではありませんか。」


『結婚する前』かあ。

私はその言葉について深く考えてみました。


「聞きたい事があるのだけどいいかしら?」

と私はジークルーネ様に尋ねました。


「私で答えられる事でしたら。」

「リヒャルト様って、王室の方と婚約するの?」


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