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シュテルンベルクの花嫁  作者: 北村 清
第3章 シュテルンベルク領の領都
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騒動(5)

私は騎士達の顔を順に見つめ、それからジークルーネ様を見つめました。


ジークルーネ様は真面目な顔をして騎士達に言いました。


「忠誠を誓う事は恋愛に似ていると思う。顔が良くて頭が良くて性格が良くて清潔感があって、と好きになる条件を箇条書きにして全部が満たされていないと好きになれない、という人もいる。結婚する相手を周囲に決められて、自分の好みをその人に合わせる人もいる。どちらが善でどちらが悪とは言えないけれど、もしもあなた達の忠誠心が後者ではなく前者であるなら、あなた達は騎士で居続けるよりも傭兵や木こりになった方がいいと思う。」


ジークルーネ様は厳しい事を言われます。でも本当の事です。主君に忠誠を誓えない騎士に何の価値があるでしょう。

そして人生をやり直すなら、若いうちの方が良いのです。


「・・あなたは、かつて平民の男と駆け落ちをした事があるんですか?」

カミルさんがジークルーネ様の目を見て質問しました。


「無い。」

とジークルーネ様は答えました。


「信じる、信じないは自由だけどね。」

「いえ、信じます。」

とカミルさんは言いました。


「失礼な態度や言動をとってしまい申し訳ありませんでした。」

そう言って頭を下げます。他の騎士達も次々に頭を下げました。

初めて会った時に見せていた、侮るような表情は消えていました。

勿論これで全てが解決というわけにはいかないでしょう。人の心はそんな単純なものではありません。それでも、彼らは歩み寄ろう、理解しよう、信じよう、という心持ちに幾らかなってくれたようです。信頼を積み重ねていくのはこれからなのです。


「ジークルーネ様と二人きりで話したい事があるの。二人にしてもらえるかしら。」

と私は騎士達に頼みました。

騎士達がもう一度礼をしてから部屋を出て行きます。セラも

「廊下に控えています。」

と言って出て行きました。


「家令の一派も困ったものね。」

と私が言うと

「そちらの言い分も聞いてみない事には何とも言えませんよ。」

とジークルーネ様は言いました。


「・・もしかしてだけど。」

私はずっと聞いてみたかった事を聞いてみました。

「夕食の時出てきたカトラリー、ナイフの刃が潰されていたんじゃない?」

「・・・・。」

「私も姑にやられた事があるのよ。」


あれは結婚して初めて、寄親の子爵様のご家族を食事に招いた時の事でした。

私に出されたカトラリーの刃が全部潰されていたんです。なので、私は料理を全く切る事ができず、結果何も食べる事ができませんでした。

姑は後になって

「領地の伝統料理が口に合わないみたい。」

と周囲に言いふらしたそうです。


ジークルーネ様は夕食の肉料理を一口も食べられませんでした。

確かに肉料理はまずかったのですが、まずいかどうかに気がつくのは一口食べた後の事です。料理を切りもしないというのは明らかにおかしいです。


「嫁姑問題で苦労なさったんですねえ。」

とジークルーネ様は苦笑されました。


「確かに、切れ味が異常に悪いナイフでした。」

「人前では笑顔で歓迎していたのに陰険ね。」


カトラリーの準備をしたのはレスフィーナ達です。気に食わない相手に嫌がらせをする為に、普段から役に立たないカトラリーを準備しておくというその周到さに胸が悪くなりました。

そんな人達だからこそ、私はカミルさんの話を信じたのです。


「放っておくの?」

「もう少し様子を観察してみます。」

ジークルーネ様はそう言って笑いました。




そして翌朝です。


早朝にまず一つの騒ぎが起こりました。

シュヴァルツワルド家の『親方』という人が訪ねて来たのです。親方は昨日騒ぎを起こした三人を連れて来ました。


三人の姿は無残なものでした。

既にひどい私刑にかけられた後のようです。三人は半殺し状態で縄で縛られていました。


「侯爵令嬢であられるヒルデブラント様と、御領主の従姉妹姫様に、とってはならぬ無礼を働いたと聞きました。極刑にされて当然の愚行です。どうぞ、好きなようにお裁きください。」


と言って、騎士団に突き出して来たそうです。


騒然としていた騎士団もですが、それ以上に、過剰にへりくだりジークルーネ様に敬意を払う親方を、忌々しいものを見る目で見ていたレスフィーナの様子が印象的でした。


「空気を読む能力は、騎士団や館の使用人達より鋭敏なようだね。」

とジークルーネ様は親方を評して言いました。

シュヴァルツワルド家は傍若無人で粗暴な集団のようですが、そのトップはきちんと超えてはならないラインをはっきりわきまえている人のようです。

そして速攻で自浄能力を証明してみせたのです。


彼らを善なる存在だとは思いませんが、組織としては一流なのだと感じずにはいられません。だからこそシュテルンベルク領に大きく根を張る最大の『一家』になったのでしょう。


さて、彼らに比べて館の使用人達の方はどうでしょうか?


そして、その朝の朝食の時間が始まりました。

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