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シュテルンベルクの花嫁  作者: 北村 清
第3章 シュテルンベルク領の領都
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騒動(4)

「無駄って、どういう意味ですか?」


そう問い返して見ましたが、カミルさんも他の騎士達も黙り込みます。


「はは。」

とジークルーネ様が笑いました。


「騎士団の末端のあんたらが、苦労して木こり達を捕まえても、どうせ騎士団長達上層部がすぐ釈放してしまうんだろ。」

「騎士団長じゃない!」

とカミルさんは叫びました。


「ふうん。って事は、家令一派の方か。シュテルンベルク領では、騎士団長と家令の仲が悪いみたいな事をコンラートが言っていたものなあ。」

「・・・・。」


「シュヴァルツワルド家の『親方』の奥さんが、マデリーナ様の娘なんです。」

とアルスリーアがつぶやいた。


「マデリーナ様って、侍女長の?」

と私は聞き返しました。


「はい。だから・・侍女長様も家令のロベルト様もシュヴァルツワルド家の一員みたいなものなんです。お互いにお金や情報を行き来させて、侍女長達に逆らったらシュヴァルツワルド家の人が報復に来るし、その代わりに騒ぎを起こしても目こぼしをして。」

「家令の妹だからって、そんな事できるの?家令って、そこまでの権限があるの?」

「罪人を釈放するかどうかを決めるのは司法官です。司法官はマデリーナ様の息子だから。レスフィーナ様の父親でもあります。」

「それって、リヒャルト様が任命したの?」

「いえ、司法官とか財務官とかを決める権限は家令にあります。」

「自分の甥を司法のトップに据えて、不正をしているの?」

「リナ様。どうか、それ以上は。侍女長の耳に入ってシュヴァルツワルド家の人間が襲って来たら、私如きでは太刀打ちできません。申し訳ありません。本当に申し訳ありません。」

とアルスリーアは震えながら言いました。


「あいつらを捕まえて、公正な裁きを受けさせる事ができるなら俺達だって命懸けで戦うさ。だけど、それができないとわかっているなら怪我をするだけ損ってもんだ。」

とカミルさんも言いました。


「リヒャルト様は何て言っているの?」

「旦那様は領地の事なんか何にも考えちゃいねえよ。中央の権力争いに夢中になっている。何が大臣だ。何が13議会だ!領地の事は家令に丸投げして。さっぱり帰って来やしない。そのうえ、王族の女なんかと再婚するってんだから空いた口が塞がらねえよ。そんなに権力が大事かよ。先代もそうだった。それに比べて先先代は立派だったよ。中央の権力争いとは全く無縁な方だったそうだ。先代と今の旦那様が中央の権力争いばっかやってるから、家令のロベルトがのさばって、自分達やシュヴァルツワルド家がいないと、シュテルンベルク領が回らないように領地を造り変えてしまったんだ!」


これは、ものすごく根の深い問題のようです。


シュテルンベルク領の治安が悪化しているのは、家令一族とシュヴァルツワルド家のせいのようです。

しかし、政治の要職を家令一族が占有しているなら、全員を更迭するわけにいきません。そんな事をしたら領地の運営がストップします。

同じくシュヴァルツワルド家をどうにかしたら、シュテルンベルク領の林業が滞るのでしょう。暴動など起こされれば治安はますます悪化します。


「どうすればいいの・・・?」

「どうもしなくていいんじゃないですか。」

とジークルーネ様が言われました。


「伯爵様には『確認』してくれって言われただけで、『解決』してくれって言われたわけじゃないんでしょう。『解決』するのは、領主の仕事だよ。」

「それはそうだけど。」

「私やリナ様に求められているのは、正しい事は正しい、正しくない事は正しくないと感じる心があるか、って事だよ。それこそ、長い物には巻かれて甘い汁を吸ってやれ、弱い奴はいじめてやれー、領民は搾取してやれー、とか思ってそれを実行したら私もリナ様もシュテルンベルク家を追い出されると思うよ。」


「あんたが追い出される?若はあんたに夢中なんだろう?」

とカミルさんが言うとジークルーネ様は吹き出しました。


「すごいね。あんた。よくそんな心にもないことが真顔で言えるね。」

「心にもないって・・・。」

「コンラートの事男色家だと信じて、気持ち悪がってるんだろ。私の事も偽装結婚の偽装花嫁って思ってかわいそー、とか思っているんでしょ。」


「えっ?」

と私はつぶやいてしまいました。コンラート様が男色家?


「シュテルンベルク領の人達は素直だよねー。私が平民の男と駆け落ちしたと噂になったら疑わずに信じ、コンラートが私のお兄様とできているって噂なったらそれも信じ、プロバガンダに超弱いよね。それは本当は美点なんだけどね。欠点でもあるけれどね。でもね。噂を信じ込む前に、コンラートに『若は女性よりも男性が好きなんですか?』くらいはちゃんと聞いて確認するべきだったと思うよ。男色趣味は後継者問題に直結するから、廃嫡の理由になるからさ。コンラートの事。どうせ廃嫡されると信じ切って、それでないがしろにしていたんだろう?」


「そうなの⁉︎」

と聞いたら、騎士達は皆黙り込みました。誰も否定しません。


なんかまた、新たな問題が出て来たのですけれど・・・。

シュテルンベルク領の家令と騎士団長は仲が悪いらしい、という話は『侯爵令嬢レベッカの追想』の第六章『エーレンフロイト領の戦い』の29話で紹介しています

もし良ければ、覗きに来てください( ◠‿◠ )

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