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シュテルンベルクの花嫁  作者: 北村 清
第3章 シュテルンベルク領の領都
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騒動(2)

ジークルーネ様とアルがフードを深く被り直します。騎士団の人間は五人です。全員、男性です。


「卑怯な手を使いやがって。何が女の武器だよ!武器を隠し持っているって正直に言えよ!」

どうやらジークルーネ様の悪口を言っているみたいです。


「あはは、カミル聞いたよ。」

女給のお姉さんが笑いながらテーブル席の騎士達に、注文を取りに行きました。


「若君様の婚約者様に喧嘩売って、コテンパンに負けたって。惨めだねえ。」

「うるさい、ロッテ!卑怯な手にやられたんだ。そういう卑怯な女だから、若もあっさりたぶらかされるんだよ!あんな尻軽とあっさり寄りを戻すとかあり得ないだろ。若には、ほんと失望したよ。がっかりだ。」

「相手は侯爵家だろ。若君様も仕方がなかったんじゃないのかい?」

「それも含めてがっかりなんだよ。上級貴族に尻尾を振りやがって!」


酔ってもいないのにおしゃべりな男性です。ロッテさんが聞き上手なのかもしれませんが。

でも、ようするに。ロッテさんはこうやって情報を聞き出して、更に他の人に売ったりしているわけですね。


ようするに、彼らは『ジークルーネ令嬢が平民と駆け落ちした』という噂を信じ込んでいるのです。そして、そんな過去のあるジークルーネ様を妻にするつもりのコンラート様に勝手に失望しているようです。


そう考えると、顔だけは良い男をジークルーネ様の護衛騎士にしようとした悪意についても理解できます。きっと、顔の良い男をあてがえばジークルーネ様が男に手を出すとでも思ったのでしょう。ジークルーネ様に大恥をかかせつつ、コンラート様との仲も引き裂けるかもしれない。そう愚考したに違いありません。


ジークルーネ様が怒ったのは当たり前です。本当に全く、初代の先祖が泣いていますよ!


男性騎士達の悪態にセラフィナとアルスリーアさんは真っ青です。ジークルーネ様は無表情でシードルを飲んでいて何を考えているかわかりません。


これ以上の暴言が飛び出したらマズいと思ったのか、アルスリーアさんが立ちあがろうとしました。しかし

「ほっときな。」

とジークルーネ様が言われました。

アルスリーアさんが気まずそうにうつむきます。その時です。新たなる客が店の中に入って来ました。


思わず二度見してしまうほど筋肉ムキムキの男達でした。


騎士達も筋肉はすごいです。しかし、それ以上に筋肉がついています。そして筋肉のつき方が騎士達とは違います。首は丸太のように太く、胸は盛り上がり、腕は私の腰くらいの太さがあります。男達の数は三人です。この店が二軒目か三軒目なのでしょう。顔が真っ赤で、全身からアルコールの臭いを立ち上らせていました。


「あのバカ共、兄貴に逆らうなんざ、ほんとバカですねえ。」

「おう。この街でオレらに逆らうなんざ、世の中の常識のお勉強が足らねえんだよ。」

「骨の折れる感触が気持ちよかったっす。」

縁起でも無い事を口にしています。

ロッテと呼ばれていた女給が顔をしかめてカウンターの中に戻りました。


そんな彼女に

「おう!エール持って来い。樽ごとな!」

と兄貴と呼ばれていた男が言いました。体格に相応しい大声です。店の中には地元民っぽい人やら旅人風の人やら、たくさんの客がいたのですが、慌てて帰り支度を皆が始めました。


「何なの、あの人達?」

私がそう言うと店主が声をひそめて言いました。

「シュヴァルツワルド家の連中です。関わったらいけません。今日はもう帰られた方が・・・。」


「見ない顔がいるじゃねえか!」

と言って男の一人がこちらに寄って来ました。


「ひゅー!綺麗な姉ちゃん達じゃねえかよ。」

と言ってものすごく臭い息を吹きかけて来ます。吐きそうな気分です。男性騎士達は何をしているのかと思って見てみたら、貝のように沈黙してエールを飲んでいます。さっきまでの勢いはどうしたというのでしょう。


「こっちの兄ちゃんも綺麗な顔をしているなあ。男か女かわかんねえツラしてるじゃねえか。女を三人も侍らせていいご身分だなあ。よし!今日はこの兄ちゃんのおごりだ。おまえら、好きなだけ飲みな!」

「そりゃあ、いい。おい店主。一番高い酒持って来い!」


「やめてよ、お客さん達。」

震える声でしたが、ロッテさんがそう言ってくれました。しかし。


「うるせえ!逆らうんじゃねえ!」

と言って男の一人がロッテさんの髪を鷲掴みにしました。


「やめて!」

と私は反射的に叫びました。それと同時に男性騎士達の方を助けを求めるつもりで見ました。騎士達もこちらを見ています。私と目が合って呆然とした顔をしていました。


「うるさいなあ。」

気怠けだるげな声がしました。


「酒は静かに飲めよ。」

その言葉と同時に。ロッテさんの髪をまだつかんでいる男の顔に、ジークルーネ様がシードルをぶっかけました。

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