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シュテルンベルクの花嫁  作者: 北村 清
第3章 シュテルンベルク領の領都
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騒動(1)

そうして私達は城門の近くの店にやって来ました。この店は以前にもジークルーネ様が叔母であるアレクサンドラ様と来た事のある店なのだそうです。


「品は無いけど味は一流です。」

とジークルーネ様は言われました。確かに店の外まで酔っ払いの品の無い笑い声が響いています。


「あの・・この店は。」

アルが、入るのを躊躇うそぶりを見せました。


「この店は騎士団の人間もよく利用するんです。鉢合わせするかも。」

「治安が良くていいじゃない。さ、入ろ。」

と言ってジークルーネ様はズカズカと入って行きました。


お店は一階建のログハウスです。天井には太い丸太の梁が何本もかかっています。店の中には女給もいましたが、二階の無い建物なので追加料金を払ったら別室で性的サービスを、などと言う事はない健全な店なのでしょう。


私達四人はカウンターに座りました。


「腸詰の盛り合わせとチーズ。それと持ち帰り用にジャムのサンドイッチを。」

とジークルーネ様が注文されます。それと、シュテルンベルク領の特産のシードルを注文しました。


「兄ちゃん、前にもうちに来た事あったよな。」

と人の良さそうな店主が言います。ジークルーネ様は実は今、男装をしているのです。男性の服を着ているだけではありますが、その格好がとても似合っています。


「あの時も可愛いお姉ちゃんと熟女と一緒だったけど、今日も三人も美女を引き連れていいねえ。兄ちゃん、何の仕事をしている人なんだい。」

「護衛ですよ。こちらの方々は依頼人です。この辺りの地域も昨今物騒になって来ていますから。」

「そうなんだよなあ。騎士団の連中は役に立たねえし。困ったもんだよ。」

と言って店主はため息をつきました。騎士団が役に立たないとはどういう意味なのでしょうか?


男装したジークルーネ様は美少年なので、女性店員が喜んで話しかけて来ます。ジークルーネ様は銀貨を一枚女性に渡し

「ブラウンツヴァイクラントの情報が何かありませんか?」

と質問しました。


「そうねー。そういえば最近ね。ヴァイスネーヴェルラントに『蒼玉宮妃』様と王女様方が亡命して来たんだって。」

えっ⁉︎と思いました。それは重要な情報です。


「ヴァイスネーヴェルラントの王妃様を頼って来たみたい。ヴァイスネーヴェルラントの王妃様ってブラウンツヴァイクラントの王女様だったから。蒼玉宮妃の娘なわけじゃないけど、蒼玉宮妃って王様の従姉妹だから親戚ではあるのよね。もしかしてうちの領地通ったのかな?とかみんな噂してるよ。そうだったのならさあ、王女様を一目見てみたかったわあ。ブラウンツヴァイクラントの王様って面喰いだから、王子様とか王女様ってみんな美形なんだって。あ、そういえば王太子様も見つかったらしいよ。」


腸詰が喉に詰まりそうになりました。それは、大、大、大ニュースです!


「王太子様って、すっごいハンサムなんだって。見てみたいわあ。」

「どこで見つかったのですか?」

と言いつつ、ジークルーネ様がもう一枚銀貨を渡します。


「ゴールドワルドラントに逃げて来たそうよ。王太子様の死んだ母親はゴールドワルドラント人だから。だから、ゴールドワルドラントとブラウンツヴァイクラントの間で戦争が起こるんじゃないかってみんな噂してるわよ。あと、ロートブルクラントと。」

「物騒ですね。」

「でもさあ、戦争が起きたら出世できるって期待してる人も多いのよ。この街、元傭兵って人多いから。傭兵崩れ共が戦争に行っていなくなってくれたら、治安も良くなるしさ。戦争で街が破壊されたら、木材や大理石がいっぱい売れるし。」

「戦争は嫌な物だよ。」

と話を聞いていた店主が言いました。


「ヒンガリーラントがどこの国の味方をするかで、うちの領地だって巻き込まれるんだよ。もしも、ロートブルクラントに味方するって事になったら、きっとエーレンフロイト様が庇護しておられるという王女様方を殺せって事になってしまう。エーレンフロイト様がそれに素直に従ったらいいけれど、嫌だと言い出したら国がひっくり返るような騒ぎになっちまうはずだ。でもって、うちの領地はエーレンフロイト様のところと仲がいいからなあ。」


チーズを刺していたフォークを危うく落としてしまいそうになってしまいました。

そんな話が出ているのですか⁉︎


そうなったら、フェルミナ様やカトライン様。ティナーリア様やミラルカ様はどうなってしまうのでしょう?

恐ろしくて、体が震えました。


「戦争は確実に始まりそうなのですか?」

「兄ちゃん、まさか戦争に行く気かい?」

「戦争が始まれば、物資が不足して物の値段が跳ね上がります。商売で儲けるチャンスでしょう。商会の護衛の仕事も増えます。」

「はあ、兄ちゃんも戦争賛成派か。戦争なんてなあ、ほんとに嫌な物なのに。でも、まあまだ噂の段階だよ。ロートブルクラントの王様が兵士をたくさん集めているのは本当だけどな。」


私はうつむきました。

王都の別邸に閉じこもっていたら、わからなかった話です。こんな情報を集める為に、ジークルーネ様は外食をしに外に出たのだと気がつきました。


その時です。


店のドアが開き、数人の客が入って来ました。

「あっ!」

とアルスリーアがつぶやきました。


「あのメス熊めっ!」

悪態をつきながら、シュテルンベルク騎士団の騎士カミルと何人かの男達が店の中に入って来ました。


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