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シュテルンベルクの花嫁  作者: 北村 清
第3章 シュテルンベルク領の領都

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夕食

正直に言います。

夕食はまずかったです。


茹ですぎた野菜に、塩の味しかしないスープ。同じく茹ですぎのショートパスタ。それに何よりもメインの肉料理が。


たぶん、このお肉は一回茹でて焼いてあるのだと思います。だから脂も旨味も全部抜けてぱっさぱさなのです。味付けもハーブだけで塩が効いていません。そしてものすごく血生臭いのです。


そしてそのお肉は『ウサギ肉』でした。


「家畜肉ではなく、猟師が獲ってきた野生のものです。だから、しっかり血の味がしてうまいでしょう。」

と料理長は言いました。どうやら血生臭い料理法なのはわざとのようです。


ニルスはウサギ肉と聞いてギョッとしたようで、一口も食べませんでした。

クオレは料理長に気を使ったのか一口食べましたが、あまりの生臭さに涙目になってしまい決死の表情で飲み込んでいました。


「このような料理にもおもむきはあるけれど、あまり幼い子供向きではないわね。もっと臭みを抜いた料理を出してもらえるかしら?」

と母が言ったのですが


「ノエライティーナ様の御父上は家畜肉は血の味がしない、と言って一切食べられませんでした。旦那様は血の滴るような狩猟肉を好まれ

たのですから、その血を引く坊っちゃま方も同じものをお食べになるべきです。」

と老料理長に言われてしまいました。


亡くなった人が好む料理ではなく私達が好む料理を出して欲しいのですけれど。


これも『問題』だわ。と思いました。


正直私も二口以上食べる気になりません。こんな料理が毎日出て来たら栄養失調になってしまいます。


母もほとんど食べていませんし、ジークルーネ様もショートパスタや芋を少し食べただけで肉料理は切りもしていませんでした。

私はため息をつきつつパンを口に放り込みました。このパンがまた固いの何のって・・・。


「ずいぶんと固いパンですね。」

と思わず言ってしまいました。


「旦那様は固いパンでなければ食べた気がしないとおっしゃっていました。全くもって同感です。最近のパンは柔らかすぎるのです。そんな物ばかり食べているから最近の若い者は・・・。」

そうして、老料理長の『昔は良かった』系の話が始まりました。まずい夕食がますますまずくなっていきます。


地獄のようなディナータイムが終わった時、私のお腹は三割程しか満たされていませんでした。



部屋に戻るとセラに

「大丈夫ですか?リナ様。」

と心配されてしまいました。


「まずいでしょう。料理長の料理。皆が苦情を言っているのですけれど、絶対自分の味付けを変えようとしないんです。最近ではどんどんと頑固になって、文句を言うと料理道具を投げて来たりするものですから。」

「リヒャルト様やコンラート様は何て言っているの?」

「あのお二人は、お腹がいっぱいになればそれでいい。という主義の方々なので。それに領地にはほとんど戻って来られませんから。」

「そう・・。」

「私も久しぶりに食べて、ますますまずくなっているのにびっくりしました。ここで暮らす同僚達に同情します。」

全くもって同感です。正直言って、今すぐ王都に帰りたいです。


領都にはロベルトやマデリーナ、騎士団長、そして料理長と年をとった使用人が多いです。

年をとっているイコール『老害』と考えるのは偏見でしょう。王都の屋敷で働くオイゲンとヨハンナは高齢だけど素敵な人達です。


ただ、領地にいる高齢者達は、先代や先先代の領主を懐かしむあまり、リヒャルト様やコンラート様に対する忠誠心が薄いのでは、と思いました。上司がそのような態度なら、当然部下にもその態度が伝染するでしょう。あまり領地に戻って来ないリヒャルト様達にも問題があるのかもしれませんけれど。


そう思っていた時。

コンコン、とドアをノックする音が聞こえて来ました。


「どうぞ。」

と声をかけると、ジークルーネ様が顔を出されました。


「ちょっと外出して来ます。一応、伝えておこうと思いまして。」

「どこへ行くの?」

「お腹が空いているので、外食に行きます。」

「待って!私も行きたい。」

そう言うと、ジークルーネ様は少し戸惑った顔をされました。


「いいですけど、この街はあまり治安が良くありませんよ。」

そう言って、平民に見えるような服を着る事を勧められました。高価なアクセサリーもつけないよう言われます。


私は服を着替え、フード付きのローブをまといました。

母に外出すると伝言を残し私とセラは、ジークルーネ様とアルと四人で外に出ました。夜風が気持ちよく、私の心は弾みました。

しかし、この後私は領地が抱える『大問題』に直面するのです。


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