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シュテルンベルクの花嫁  作者: 北村 清
第3章 シュテルンベルク領の領都
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間違い探しの旅

私は船の上で、流れて行く景色を眺めていました。

頬に当たる初夏の風が心地よいです。


私は今、王都最大の河フェルゼ河を上流へと向かっています。この河の遥か先にシュテルンベルク領があるのです。


シュテルンベルク領は、ヒンガリーラントの最も南東に位置する領地でヴァイスネーヴェルラントという国と国境を接しています。

つまり、発展した王都から遠く離れた辺境の田舎の領地という事ですが、この河のおかげで利便性が非常に良い土地だとも言えます。移動も楽ですし、たくさんの交易品を船で運ぶ事ができるからです。そのような土地に初代は王家から領地を拝領したのです。


シュテルンベルク領への旅を一緒にしているのはお母様、ニルス、クオレ、護衛騎士のセラ、そしてジークルーネ様です。

親族との間で問題を抱えているジークルーネ様の事を保護する為、ジークルーネ様の事を私達家族はシュテルンベルク領にお連れする事になったのです。

クオレは当初両親と離れたがらなかったのですが、母とニルスが一緒に行こうと強く誘ってクオレも行く事になりました。まだ体調が本調子ではないアリゼが、その方がゆっくり休めるからです。アリゼの側には兄がいますし、メイドのベルダにも付いてもらっています。


景色を見ながら私は母にシュテルンベルク領について質問してみました。


「風光明媚な美しい土地ですよ。標高の高い場所にあるので雪が多く、冬の寒さは厳しいけれど今の季節はとても過ごしやすいわ。ただし、風景と同じほど人の心が美しいとは思わないようにね。」

「どういう意味?」

「リヒャルト様が言われたのよ。領地は少なからず問題を抱えているとね。私達にそれを確認して欲しいとおっしゃっていました。」

「どんな問題があるの?」

「それは言われませんでした。要するに私達も試されているのよ。『問題』を問題だと認識できるかどうか。善悪正邪の感覚が違う人とは共に歩んではいけませんからね。私達がどう答えを出すかどうかで、今後の私達の立場も変わって来ると思いますよ。」


そう言われて私は一気に緊張しました。今回の旅は気楽な慰安旅行などではないのです。私は『問題』に気がつけるでしょうか?つけなかったらどうなってしまうのでしょう?


途端に王都が懐かしくなってしまいました。

だけど弱気になっては駄目!と気力を奮い起こします。私が不安な顔をしていたら子供達が不安がるだろうし、ジークルーネ様はもっと不安な気持ちでいるはずです。私は大人なのだから!

そう思って前をまっすぐ見つめました。


そしてこの旅はまた、私の運命を変えるものとなったのです。




三日間の船旅を経て、私達はシュテルンベルク領の領都に辿り着きました。


シュテルンベルク領は『星の山』という意味に相応しい、とても美しい領地でした。美しい森や小川があり、畑では芋や蕎麦の花が満開です。道行く人達も笑顔で街には活気があります。


『問題がある領地』と聞いて、ハーゲンベック領のようなところを想像していたのですが、ハーゲンベック領とは全く違っています。

どこに問題があるのか見ただけでは全くわかりません。

もしかして私『問題』が『問題』だと自覚できていないのかしら?と不安になりました。

私の善悪の感覚は何かおかしいのでしょうか?


いえ、まだ領都に着いたばかりです。これから問題が何か明るみに出るのかもしれません。


気が休まらない。と思いました。


間違い探しのゲームでもしているような感覚です。ここにいる間、ずっとそうなのかしら。そう思うと少しだけげんなりしました。母に『問題のある領地』だと聞いていなかったら、純粋に旅を楽しめたろうになあ。と思って私は小さくため息をついたのでした。



シュテルンベルク領の領館は、ハーゲンベック領の領館の30倍くらいの大きさがありました。館は『お屋敷』というより『城砦』のようです。もし戦争が始まったら、領都民を全て領館内に収容できるような造りになっているのです。領館は二重の城壁に囲まれていますし、館の外部に面した窓はとても小さくできています。その代わり中庭が広く、中庭に面した窓は明るく大きいのです。


領館に入ってすぐ、家令と侍女長の出迎えを受けました。家令の名前はロベルト、侍女長の名前はマデリーナといいます。

王都の屋敷の執事と侍女長は夫婦ですが、領地の家令と侍女長は兄妹なのだそうです。そして二人は先先代の伯爵、つまりカロリーネ大叔母様の兄上と従兄弟同士なのだそうです。ですから、私とも血の繋がった親戚という事になります。


黒髪のロベルト卿は目尻の下がった柔和そうな男性で、妹のマデリーナ夫人の方がハキハキとした印象です。少し話をしてみての感想ですが、やはり妹の方が気が強くまるで兄と妹というより、姉と弟のようでした。だけど二人の態度に特別問題があるようには見えません。

私達の事を誠心誠意、歓迎してくれていました。


紹介された侍女達も美しく礼儀正しい女性達でした。母と私とジークルーネ様に一人ずつ付いたのですが、三人の中では最年長に見えるレスフィーナさんがリーダー格のようです。彼女は22歳で、マデリーナ夫人の孫になるのだそうです。残りの二人は10代との事でした。


侍女達はとてもフレンドリーでした。王都の流行や、コンラート様の怪我の様子などを聞いて来られます。私が語れる事はそう多くありませんでしたが、それでも真剣な面持ちで侍女達は私の話を聞いてくれました。


部屋に案内されて着替えをしてすぐ、騎士団の面々と引き合わされました。私にはセラが護衛騎士として付きますが、母とニルスとクオレとジークルーネ様にそれぞれ現地の騎士が護衛騎士として付くのです。

初対面の相手ばかりで、為人がわからないので、騎士団長がそれぞれの護衛騎士を選んでくれていました。

母とニルスとクオレの護衛騎士になったのは、全員セラと同世代の女性騎士です。そしてジークルーネ様の護衛騎士になったのは、20代前半の男性騎士でした。彼の名前はイティエルと言いました。


私はえっ⁉︎と思いました。

イティエル卿は、ものすごく顔の良い男性だったのです。

言っておきますが、シュテルンベルク騎士団が美形揃いの騎士団なわけではありません。どちらかと言うと・・・いえ、まあ、それはともかくとして、イティエル卿は騎士達の中でも異彩を放つ美貌の男性でした。さらりとした金髪に切れ長の目をしていて、笑顔にはものすごく男の色気があります。こんな美男子を、跡取りの婚約者の女性に普通付けますか?


これはちょっと『問題』ですよ!

私の中で騎士団長に対しての『胡散臭さポイント』が数ポイント上昇しました。


イティエル卿はジークルーネ様の前で跪き、一瞬うっとりするような美しい声で自己紹介をなさいました。

それを見つめる他の騎士達が、何だかニヤニヤ笑っている気がします。


ジークルーネ様は無表情でイティエル卿に言われました。


「護衛はいりません。私は信頼できない人間に背後を任せるほどまぬけではありません。そもそも自分より弱い護衛など論外です。下がりなさい。」


リナ達はジークルーネの説得に成功し、シュテルンベルク領へ向かう事になりました

だけど、さっそく波乱の気配です(^◇^;)

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よろしくお願いします!

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