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シュテルンベルクの花嫁  作者: 北村 清
第2章 侯爵令嬢達と宝石の姫達
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コンラートの告白(1)

残酷表現があります

コンラート様が話し始められる前に。


「あの・・・僕らも聞いて構わないのでしょうか?もし、いない方が良いのなら?」

おずおずと兄が言いました。


「構いません。そもそも今から話す話をヒルデブラント家が隠そうとしたからハーゲンベックのような輩に付け込まれたのです。全ての人が最初から知っていれば、ジークルーネが身を隠す必要も無かったのですから。」

「そうですか・・・。なら同席させて頂きます。」

「今から話すのは、ヒルデブラント家で五年前何があったのか?という話です。まず、どうしてそれを私が知っているのかからお話しします。そうでなければ私の話に信憑性がないからです。一言で言うと『ジークレヒト』から五年前の真実を書いた手紙をもらったからです。その手紙がこれです。希望者には後から読んでもらってもけっこうです。」

コンラート様はそう言って、皆にからくり箱の中の手紙を見せられました。


「この手紙をもらったのは、ヒンガリーラントに天然痘が流行していた頃です。具体的に言うとヴァイスネーヴェルラントの穀物大臣アルネストロート伯爵夫人とギルベルト・イステルが天然痘が流行するエーレンフロイト領を訪れた時です。伝染病がこれからどういうふうになっていくかわからない。もしかしたら自分も感染して死ぬかもしれない。死んでしまう前に私に本当の事を伝えておきたい。そして妹の事を許して欲しい。そういう書き出しで始まった手紙をギルベルト・イステル経由で渡されました。」


そのギルベルトという人がどういう人なのかよくわからないのですが、質問は後からまとめてするべきでしょう。


「本当に明日世の中が、そして自分自身がどうなるかわからない状況でした。だからこそ、この手紙に書いてある事は真実だと私は信じています。」


コンラート様はそう言って話し始められました。



ヒルデブラント家がどういう家門なのかを、まずコンラート様は教えてくださいました。

それを話さないと、詳しい人間関係が私達家族三人にはわからないからです。



ヒルデブラント家は初代宰相を輩出した家門です。

そして300年以上の歴史の中で、七人の王女が降嫁し、三人の王妃を家門から出したのだそうです。


現在の当主の名前はクリストハルト卿。ジークルーネ様の父親です。しかし彼は先代侯爵の息子ではなく甥でした。

先代侯爵には娘が三人いました。長女がゲオルギーネ、次女がルドルフィーネ、三女がヴィルへルミネという名前なのだそうです。そして息子も一人いました。当然その息子が侯爵家の跡取りでした。しかしその息子は狐狩りをしていた最中に雷に打たれて死んでしまったそうです。

その為突然、クリストハルト卿がヒルデブラント家の跡取りとして担ぎ上げられたのです。


上級貴族としての振る舞いなど学ばずに生きてきたクリストハルト卿にとって、相談役である先代の娘達は頭の上がらない相手でした。クリストハルト卿の最初の妻が馬車の事故で急死すると、独身だった三女のヴィルへルミネ様が侯爵の後妻になり、侯爵と、そして先妻の子供であるジークレヒト様とジークルーネ様兄妹はますます三姉妹に頭が上がらなくなりました。


そして長きに渡り、三姉妹の長女であるゲオルギーネ様が一族の中で最も権力を持つという、歪な家門と侯爵家はなったのです。


当然ゲオルギーネ様が権力を持てば、ゲオルギーネ様の一人娘グレーティア様も権力を持つ事になります。


グレーティア様には侯爵家の誰も逆らえませんでした。侯爵も侯爵の子供達もです。

そしてグレーティア様は自分の持つ権力を振りかざして横暴に振る舞う暴君になりました。

使用人も親戚の人間達も自分にかしずかせ、奉仕させ、わがままを言い、怒鳴り散らし、自分の気分を害するものは容赦なく折檻しました。

そして、少しでも自分好みの男は寝室に引きずり込みました。


当時はゲオルギーネ様の家族が王城特区内の屋敷の本館に住み、後継者であるジークレヒト様は小さな離れでたった一人の従僕に世話されて暮らしていました。その従僕がギルベルト・イステルでした。何十人もの男達にかしずかれて暮らしていたグレーティア様はある日ギルベルトが類稀たぐいまれな美少年である事に気がつきます。グレーティア様はジークレヒト様からギルベルトを取り上げようとしました。


しかし、ギルベルトはそれを拒否しました。


グレーティア様は激昂しました。人生で一度とて我慢などした事のない令嬢です。ギルベルトを自分の前に引きずり出させ、癇癪を起こし鞭で打ちすえました。それでも、ギルベルトは自分の態度を謝罪も撤回もしませんでした。グレーティア様はギルベルトを地下牢に入れ、そこで死ぬまで鞭で打つよう命令しました。


それを知ったジークレヒト様は地下牢に駆けつけました。


しかし地下牢の入り口にはグレーティア様の側近達がいて中に入れてもらえません。


ジークレヒト様は「何でもするから中に入れてくれ」と言いました。


その側近の中に、ハーゲンベック子爵夫人の息子のユーフェミオがいたのです。彼は子爵夫人と前夫との間に生まれた息子でした。夫人はユーフェミオを連れて子爵と再婚しましたが、貧しいハーゲンベック領でユーフェミオに出世する道はありませんでした。なので、寄親であるヒルデブラント侯爵家に息子を奉公に出していたのです。


弱い立場のジークレヒト様に、ユーフェミオは邪悪な要求をしました。


自分と性関係を持つように。と言ったのです。


地下牢からは拷問にかけられているギルベルトの苦悶の声が聞こえて来ます。そんな中でジークレヒト様に交渉の余地はありませんでした。

ジークレヒト様は要求を受け入れたのです。


ユーフェミオは、他の側近達の前で笑いながらジークレヒト様を引きずり倒し服を剥ぎ取りました。



その数分後。ジークレヒト様とギルベルトを探していたジークルーネ様が地下牢の入り口に現れたのです。



その、あまりにもおぞましい情景を見てしまったジークルーネ様は、壁に立て掛けてあった斧でユーフェミオの頭を叩き割りました。


ギルベルトがエーレンフロイト領を訪ねて来るエピソードは『侯爵令嬢レベッカの追想』の第六章『エーレンフロイト領の戦い』の18話から21話で紹介しています

21話のラストでエーレンフロイト侯爵が「この時にはコンラートの気持ちがわからなかった。理解したのは何年も先の事だった」と追想していますが、その『何年も先の事』というのが、ずばり今です

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― 新着の感想 ―
ヤッてたのかぁ… しかもその後にレベッカ達にあの態度だったのかぁ… おぉぅ…(目を覆う)
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