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シュテルンベルクの花嫁  作者: 北村 清
第2章 侯爵令嬢達と宝石の姫達
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からくり箱と手紙

「え⁉︎何で?」

とレベッカ様が聞かれました。


「ハーゲンベックに居場所がバレたからね。だからすぐにヒルデブラント一族内のアンチに私の居場所ややった事がバレるはずだ。そうなると命が危ないんで、また数年行方をくらませようと思う。」


そう言ってから、別邸にいるご自分の侍女の事をレベッカ様に頼まれました。

「マーゴットをこのまま別邸で働かせてあげてもらえないだろうか?もし無理というのなら、ブランケンシュタイン家に戻るようマーゴットに伝えて欲しい。ほんじゃあね。」

「わかった。じゃあ、またな。」

と言ってコンラート様がまた走り出そうとしました。


ちょっと待って!


私は馬車から飛び出しました。馬車のステップはわりと上の方にあります。私はひっくりこけそうになりました。コンラート様とレベッカ様が慌てて駆け寄られます。


「待って!ジークルーネ様!」

私は声をはりました。


「どうして、あなたが行方をくらませないとならないのですか⁉︎あなたは何も悪くはないではありませんか!それにカトライン様はどうされるのですか?あんなにあなたを慕っておられるのですよ。あなたがいなくなったらどれほど悲しまれるか!お願いです。どうか、行かないでください!」


ジークルーネ様は一瞬振り返り、寂しそうに微笑んだ後馬で走り出されました。王都への道とは垂直に伸びる脇道にです。私は走ろうとしましたが追いつけるわけもありません。


「どうして、どうしてこんな!ジークルーネ様は正しい事をしたのに。」

私はコンラート様に向かって叫びました。


コンラート様は言われました。


「このリンゴ園はアイヒベッカー家の持ち物です。」

「え?」

「いくら初夏とはいえ野宿をするには寒い季節ですし、毛布や食料の用意もありません。それに城壁外には野盗や野生動物も出ます。なので、まさかルネもその辺りの道で野宿はしないでしょう。アイヒベッカー侯爵夫人はベッキーの友人で、弱者に対する寛大さや奉仕活動で有名な方です。絶対、ルネはアイヒベッカー家のカントリーハウスに一泊泊めて、と言って転がり込むはずです。ルネは明日の朝までは確実にアイヒベッカー邸にいるでしょうから、我々はまず何より真珠宮妃様を病院にお運びし、その後ルネの今後についてノエル叔母様やエーレンフロイト侯爵夫人に相談するのが良いのではと思います。」


・・・。


私は赤面してしまいました。

貴族名鑑を見ながら貴族の名前を覚えてみても、私には誰と誰が仲が良いとか、誰と誰が同派閥という事はわかっていないのです。


でもコンラート様はわかっています。

レベッカ様が誰と友達なのか、ジークルーネ様はどういうふうに行動するか。

それをわかった上で、自分の私情を抑え真珠宮妃様の体調を気遣ってくださったのです。


なのに私ったら、いい大人なのに大騒ぎをして集団の足止めをして最低です。恥ずかしいです!


「ごめんなさい。」

と私は頭を下げました。


「謝らないでください、リナ様。リナ様はジークルーネ様を心配してくださったのでしょう。」

とレベッカ様は言われました。


「リナ様がああ言われたのはリナ様が優しいからだって私達わかっています。」

「別に私、優しくなんて・・。」

「優しいですよ。ねえお兄様、そう思われませんか?無愛想で乱暴者で血も繋がってなくて可愛くもない親戚に、あんなに親身になれるなんて。」

レベッカ様!コンラート様から怒りの波動が伝わって来ますよ!


コンラート様は返事をされずに、馬首をめぐらされました。


そしてまた私達一向は、王都へ向けて動き出しました。



大学病院に着いた頃には、西の空が茜色に染まっていました。


病院の入り口には担架が用意されていて、ミラルカ様は『林檎の間』という特別室にすぐさま運び込まれました。


母がミラルカ様に着いていてくれる事になったので、私は別邸にウルスラ様を迎えに行きました。私も母もいなくて別邸の皆の夕食はどうなっているのかな?と思いましたが、エーレンフロイト家から、カレナさんとエイラさんとリーシア様という方が来て夕食を作っていてくださいました。アルベルティーナ様が派遣してくださっていたようです。


私はウルスラ様とタミラさんを連れて大学病院へ戻りました。再会されたミラルカ様とウルスラ様は抱き合って泣いておられました。


ウルスラ様が今夜は病院に泊まる事になったので、私はタミラさんに後の事は任せて母と共に帰る事にしました。しかし、帰る前に寄る所があります。エーレンフロイト邸です。ジークルーネ様の事をアルベルティーナ様に相談しなくてはなりません。


エーレンフロイト邸に着くとコンラート様がおられて、レベッカ様とヨーゼフ様と一緒にお茶を飲んでおられました。

レベッカ様が私達にもお茶とサンドイッチを勧めてくださいます。


「今、ライルさんがシュテルンベルク伯爵を呼びに行っているから来るまで待っていてね」

とレベッカ様が言われました。


しばらくして、ライル兄様がリヒャルト様とオイゲンとヨハンナを連れて戻って来ました。

オイゲンが

「コンラート様。言われた物をお持ちしました。」

と言って木製の箱をコンラート様に渡しました。


「何、それ?」

とヨーゼフ様がコンラート様に質問されます。


「からくり箱だ。一定の手順を踏まないと蓋が開かないようになっている。」

そう言いながらコンラート様は箱の底や側面を触られました。するとカチリ、と音がして蓋が開きました。中には手紙が入っていました。


ドアが開いて談話室にアルベルティーナ様とエーレンフロイト侯爵が入って来ました。


そして、私、母、兄、コンラート様、リヒャルト様、レベッカ様、ヨーゼフ様、アルベルティーナ様、エーレンフロイト侯爵、オイゲンとヨハンナが顔を合わせました。

ついでに申しますとリヒャルト様の護衛のアヒムさんや、私の側にいつもいてくれるセラも室内にはいます。エーレンフロイト家の侍女や護衛騎士達もいます。


「ヒルデブラント侯爵令嬢の件で相談があるという事だったけれど。」

エーレンフロイト侯爵が口火を切られました。


「ヒルデブラント家は謎の多い一族だ。五年前の件も実のところ何があったのか僕達はよくわかっていない。それを教えてもらえるのだろうか?そうでなければ、どうしてあげれば良いのかも僕達にはよくわからない。」

「勿論です。そのつもりで、この手紙をオイゲンに持って来てもらいました。私の話を聞いたうえでジークルーネに力を貸すか、それとも距離をとるかご判断ください。」


そう言ってからコンラート様は話し始められました。

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