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シュテルンベルクの花嫁  作者: 北村 清
第2章 侯爵令嬢達と宝石の姫達
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ハーゲンベック領へ(2)

ハーゲンベック領の領都の門番達は、突然押し寄せて来た騎士の集団に怯えていました。


「我らはシュテルンベルク家門とエーレンフロイト家門の者だ。こちらにヒルデブラント侯爵令嬢とエーレンフロイト侯爵令嬢が訪ねて来ているとの情報が入ったので迎えに来た。開門せよ!」

コンラート様が大声で叫ばれます。


「ま、待て。いや、お待ちください!すぐに確認致します。」

門番が真っ青になって答えます。


「確認は不要だ。即刻開門せよ!御二人の身に何かがあれば、其方達が身をもって償う事になるのだ。わかっているのか!」

門番はますます顔を青くして、急いで門を開けました。コンラート様を先頭に騎士達は一斉に走り出しました。


門を通った先には広場があって何十人もの人がいました。帯剣して全速力で駆け抜けて行く集団を皆怯えた目で遠巻きに見つめています。


通りをしばらく走っていると、道の真ん中に倒れている人がいました。怪我でもしているのかと思いましたが、コンラート様が

「退け!」

と叫ぶと跳ね起きて走って逃げて行ってしまいました。いったい今のは何だったのでしょう?酒に酔ってでもいたのでしょうか?


そして私達は領館の門に到着しました。


「シュテルンベルク家門とエーレンフロイト家門の者だ。即刻開門せよ!」

「突然何のおつもりだ。ぶ、無礼であろう!」

「押し問答している暇はない。抵抗するなら切り捨てる。」

先程も言った通り数は力です。5人しかいない門番達では到底騎士の集団には敵いません。


命をかけて、命令と主人を守ろうという気概のある者はいなかったようで、すぐに門が開きました。

今までの道程で、侯爵令嬢達には追いつかなかったし、戻って来るのに出会わなかったので令嬢達はこの屋敷内にいるはずです。

令嬢達は、そしてミラルカ様は大丈夫だろうか?と緊張して来ました。


そして、あまり大丈夫ではありませんでした。


無数のひずめの先を辿って行くと女性の甲高い声が風にのって聞こえて来ました。


「この人殺し!」

「私が破滅する時はおまえも一緒よ!」


何とも不穏な発言です。


何が起きているのか?と皆が急いで馬を走らせます。


そして家畜小屋の側に来た時。

私達が見たのは、妊娠している女性を横抱きにしているレベッカ様と、二人を守るように周囲を囲んでいる兄達と、そしてそんな皆様にナタを振り上げて襲い掛かろうとしている男でした。

私が悲鳴を飲み込むのとコンラート様が何かを投げるのが同時でした。何かと思ったらまだ青いリンゴの実です。リンゴはナタを持っていた男の鼻に命中しました。


すごいコントロールです!


「コンラート。」

「コンラートお兄様!」


ジークルーネ様とレベッカ様が振り向かれました。


「お嬢様・・良かったあ、ご無事で。」

エーレンフロイト騎士団の方からそんな声が聞こえて来ました。


「二人共、迎えに来た。真珠宮妃様は、こちらの馬車にお乗せしてくれ。大学病院は、ノエル叔母様が手配をしてくださっている。」


レベッカ様が馬車に走り寄って来られました。私は馬車のドアを大きく開き、レベッカ様が座席にミラルカ様の体を横たえられました。


「ミラルカ様、大丈夫ですか⁉︎」

「あなたは?」

「リナ・フォン・エーデルフェルトと申します。父はブラウンツヴァイクラント人、母はヒンガリーラント人で、姉は琥珀姫様の乳母をしております。母方の従兄はヒンガリーラントの伯爵家の当主で医療大臣の任についております。」

「そう。すごいわね。」


そう言われて私は恥ずかしくなりました。『すごい』のは従兄や母や姉であって私は何者でもない身なのです。


「私に敬語は不要よ。私、そんな立派な人間じゃないわ。」

とミラルカ様は言われました。


「いいえ、ミラルカ様は立派です。一ヶ月以上も逆境をよくお忍びになりました。鉄格子にスープをかけて壊したのだと珊瑚姫様に聞いて感心致しました。ご自分を犠牲にして、珊瑚姫様とご友人を逃すなど、ミラルカ様は本当に素晴らしい方です!」


「・・ありがとう。」

ミラルカ様の頬に真珠のような涙が伝って行きました。


外ではハーゲンベック家の人間とコンラート様が言い合いをしているようです。


「小伯爵様。あなたはその女の真実を知らないのですわ。その女がいったい何をしたのか!」

「十分知っている。おまえが知らない事も知っている。」

「その女は!」

「撤収するぞ。」


そして馬車の側に来て言われました。


「王都へ戻ります。リナ様。道が悪くかなり揺れると思うので真珠宮妃様のお具合が悪くなったら遠慮なくおっしゃってください。」

「わかったわ。」

馬がいななき、馬車は動き出しました。



ミラルカ様は馬車の中で横になっておられます。私は寒くないようミラルカ様のお体にブランケットをかけました。何か食べ物を持って来ておけば良かった、と少し後悔しました。


「ウルスラは大丈夫ですか?」

とミラルカ様は聞いて来られました。


「大丈夫です。勇敢で強い御子様ですね。王都までこの道をずっと歩いて来られたのですもの。今はエーレンフロイト家の別邸にいて瑠璃姫様や琥珀姫様と一緒におられます。入浴したり食事をしたり、姉達がしっかりお世話をしているはずですわ。」

「歩くのは慣れているんです。昔、旅から旅の生活をしていた頃はどこまでも歩いていたから。」

ミラルカ様は遠い目をして言われました。


「・・陛下の事、何かご存知ですか?」

ミラルカ様はぽつっとそう聞かれました。


「・・いえ。行方不明のままです。ただ、ララ公女殿下はヒンガリーラントにいらっしゃるという話なので、何かご存知かもしれません。」

「そうですか。緑玉宮妃様は?」

「行方不明です。」

「紅玉宮妃様と黄玉宮妃様はどうなったのでしょう?」

「・・反乱軍に捕らえられ、御子様達共々殺された・・と聞いております。」

「留守居役として、夏の離宮に残られた青玉宮妃様の事は何か知っておられますか?」

「いいえ。青玉宮妃様も行方不明です。」

「・・・そう。」


話しているうちに、また行きと同じ場所で馬車の車輪がはまったようです。だけど騎士達が馬車を押してくれたのですぐに脱出する事ができました。


道が石畳の道に変わると揺れが少なくなり、ほっとしました。やがて、行きにも見たリンゴ園が見えて来ました。王都まであと少しです。


その時でした。


急に馬車が止まりました。先頭を走っていたジークルーネ様が立ち止まられたようです。


「私はここでお別れさせてもらう。」


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― 新着の感想 ―
ジークルーネが心配ですね まさかヒルデブラント一族を守るため悪の温床たる寄り子貴族を皆殺し心中する気でしょうか前世でも苛烈な自決を遂げた人ですし。レベッカとコンラートにはジークを守って欲しいです
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