病人食(3)
診察結果は風邪でした。
リオンティーネ令嬢は過労もあったようです。フローラさんが体重に合わせた量の解熱剤を処方してくださいました。
フローラさんがお二人を見てくださっていた間、父親のエデラー医師が他の住人の健康診断をしてくださいました。皆、黙っていたけれど大なり小なり体の不調があったようです。膝が痛いとか腰が痛いとか人に言えない所が痛いとかいろいろあったようで、皆薬を出してもらえてとても喜んでいました。騎士の一人に虫歯がひどい人がいて、彼は大学病院内の歯医者に行く事になりました。
皆の健康診断をしている間にレベッカ様がおいでくださいました。スープを二種類とカスタードプティング、それにオレンジジュースを固めた寒天菓子を持って来てくださいました。
それだけでなく、大量の氷を持って来てくださいました。熱冷まし用でもありますし、これから氷菓を作るのだそうです。
「私が生クリームを泡立てるからミリヤムはメレンゲを固く泡立てて。カレナはレモンを搾ってくれる?」
レベッカ様がそう言うと
「私も何かします!」
とユリアーナさんとコルネリアさんが手をあげました。
「・・じゃあ、クッキーを小さく砕いてくれる?」
とレベッカ様が言われました。
細かい計量は既に済ませて来ていたようです。レベッカ様は氷を入れた桶に塩を入れ金属のボウルを入れました。ボウルは二つあり、片方に牛乳とコンデンスミルク、砕いたクッキーに生クリームを入れ、もう一つのボウルにレモン果汁と水と蜂蜜、それにメレンゲを入れます。そして思いっきり泡立て器でかき回されました。
氷菓はあっという間に出来上がりました。
試食してみる?と聞かれて食べてみたのですが、どちらも衝撃のおいしさでした。
フェルミナ様の所に持って行くと喜んでフェルミナ様も食べられました。
「お菓子を食べたらお薬も飲みましょうね。」
と姉が言うと
「お薬苦いの?苦いお薬は嫌だな。」
とフェルミナ様が言われます。
「・・ちょっと苦いですが、お薬を飲まないと元気になれませんよ。」
と毒見をした姉が言うと、たまたま側におられたレベッカ様が
「お薬が苦くなくなる方法を教えてあげる。」
と言われました。
そんな方法があるのかしら?
と思ってしまった私の前でレベッカ様が寒天菓子をぐしゃぐしゃっと混ぜられます。それを少しスプーンにとり粉薬をのせて更に寒天菓子を上にのせました。
「これで苦くなくお薬が飲めるよ。」
フェルミナ様が恐る恐るという感じでスプーンを口に入れられます。その後
「苦くない!」
と嬉しそうに言われました。
「私の弟のヘンリクも粉薬が苦手でね。でも、この方法だとお薬が飲めるんだ。」
とレベッカ様が言われました。
すごいです。こんな方法があるなんて!
大人でも粉薬が苦手な人は一定数います。その人達にだってこの方法はありがたいでしょう。
ヒンガリーラントが西大陸では最も医学が進んでいる国。と言われています。確かにその通りなのだと思わずにいられませんでした。バラエティー豊かな病人食や、子供でも飲みやすい薬の飲み方などブラウンツヴァイクラントでは知らなかった事ばかりです。
自分の従兄が、そんな国で医療大臣をしているのだという事に少し誇らしい気持ちになりました。
リオンティーネ令嬢の様子はどんなだろうと思い三階に上ると、廊下でカトライン様とジークルーネ令嬢が話をしている声が聞こえて来ました。
盗み聞きは良くないと思いましたが、カトライン様が泣いているご様子なのが気になってつい聞き耳をたててしまいました。
「私が弱い人間だから、だからリオーネに負担ばかりかけてるの。こんな自分が嫌。もっと強い人間になりたい・・。」
カトライン様がそう言って泣いておられます。
別にリオンティーネ令嬢はカトライン様のせいで病気になったわけではないと思います。もし誰かのせいであるとしたらそれは、反乱軍やロートブルクラントの人間達のせいです。
ジークルーネ令嬢は否定も肯定もせずに話を聞いておられます。カトライン様の心の澱を全部吐き出させてあげようとしているかのようです。そして最後に言われました。
「別に強くなくても良いのではないの?貴女は十分に優しい人だから。」
「でも。」
「聖女エリカが後世にまで名を残したのは、彼女が強い人だったからでなく優しい人だったからだよ。優しさは強さに勝る。私はそう心から思っているよ。」
・・私もそう思います。
私達を助けてくれているのは周囲の人達の優しさです。リヒャルト様もレベッカ様もフローラさんもエデラー医師も、みんなみんな優しい人達です。その優しさがあるから私達は生きていけるのです。
私も優しい人になりたい。いや、必ずなろう!そして困っている人や苦しんでいる人に躊躇わずに手を差し伸べられる人になろう。心の底からそう思いました。




