表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シュテルンベルクの花嫁  作者: 北村 清
第2章 侯爵令嬢達と宝石の姫達
46/66

病人食(2)

翌日の朝食は私と兄が別邸に届けに行きました。


別邸に一歩足を踏み入れると姉が真っ青になって走って来ました。


「フェルミナ様の熱が高いの!」

それは一大事です!

「風邪かしら?それとも何か他に症状がある?発疹とか?」

「ううん。今は熱だけ。どうしよう。往診を頼むにも信頼できるお医者様がわからないし、大きな病院へ行った方が良いのかな。シュテルンベルク伯爵に相談するべきかしら?」

「まず、レーヴンバルト令嬢に相談してみたら?彼女は頼りになる人だよ。逃亡していた間でも、彼女がリーダーシップをとってくれたんだ。」

と兄が言いました。


「そうか、そうよね。わかった。」

と姉が言い、私達三人は三階へ登りました。姉はメイドのオリエに取り次ぎを頼み、兄は教授の部屋を訪ねに行きました。

そうしたら。


「大変です!リオーネ様も熱を出しておられます!」

と叫びながらオリエが戻って来ました。


オリエの大声に、カトライン様が部屋から出てきました。

更にジークルーネ令嬢が


「どうしたんだ?」

と言いつつ廊下を歩いて来ました。


オリエが事情を説明します。カトライン様は真っ青になって手で顔を覆ってしまいましたが、ジークルーネ令嬢は落ち着いて「ふむ」と言われました。


「薬はひととおり持っているよ。だけど人には誰でも自分が受ける医療を自分で選ぶ権利がある。インフォームドコンセントというやつだ。リオンティーネ嬢の意識があるならご自分でどうするか決断してもらおう。フェルミナ様の方はさすがに五歳だし、親に決めてもらおうか。」

「薬があるなら少し譲っていただけないでしょうか?その後の事はレーヴンバルト様と合わせます。どうか、薬を。代金は払いますので。」

と姉がジークルーネ令嬢に言いました。


「OK。マーゴット。薬箱持って来て。」

ジークルーネ令嬢が、実家から連れて来ている自分の侍女に言いました。マーゴットさんがきびすを返し姉は彼女について行きます。ジークルーネ令嬢はリオンティーネ令嬢の部屋に入って行きました。


私はネーボムクの屋敷での事を思い出していました。フェルミナ様とニルスが高熱を出した事があったのです。その事を告げるとネーボムク夫人は

「おお、嫌だ!ブラウンツヴァイクラントから変な病気を持ち込んだんじゃないでしょうね⁉︎勝手に歩き回って病気を撒き散らさないでよ。」

と言われました。そして熱が下がるまで、病人には一切近寄ろうとはされませんでした。


それに比べてジークルーネ令嬢は行動がテキパキしていますし、病人に近づくのをためらわれません。

「可哀想。」

とか

「お辛いでしょうね。」

という類いのセリフは一言も言われませんが、優しい方だと思いました。そして、とても頼りになります。


リオンティーネ令嬢は往診を頼み、男性と女性の主治医がいるというエーレンフロイト家に頼む事になりました。私は馬車に乗り込みエーレンフロイト家に向かいました。フェルミナ様とリオンティーネ令嬢が同時に発熱したという事は、ネーボムクの所で何かの病気に感染したとかではないでしょう。風邪だったら良いけれど。不安な気持ちで私はエーレンフロイト家に向かいました。



エーレンフロイト家の門の前に着いた時、今更ですが入れてもらえるかしら?と不安になりました。もし、入れてもらえなければ、シュテルンベルク家に帰るしかないでしょう。しかし、エーレンフロイト家の門番は私の顔を見ると躊躇う事なく中に入れてくれました。

玄関の前で馬車を降りると、そこでばったりレベッカ様に会いました。レベッカ様はアヒルとウズラにエサをやりに行くのが毎日の日課なのだそうです。手に持ったカゴには山のように卵が入っていました。


事情を話すと

「それは大変だ!」

とすぐ言ってくださいました。


「ユリア。エデラー先生とフローラを呼んで来て?」

と侍女にすぐさま指示を出します。


「エデラー先生達も、この時間はまだ朝ごはん食べてるかも。中で待つ?それとも、先に別邸に帰る?熱が高いとか、熱性痙攣が出たとかなら、ジーク様に薬をもらうという手もあるよ。ジーク様の実家のヒルデブラント家は薬学で有名な名門家だから、あの人の持っている薬は当てになると思うよ。」


どうしようか?と一瞬悩みましたが、悩む必要はありませんでした。手に薬箱を抱え口にはバターロールを加えた女の子がユリアさんと一緒に走って来たのです。


「へっへーひぇ、ほーひんひゃへはっへ?」

「別邸で病人が出たのか?と聞いています。」

レベッカ様が通訳してくれました。よくわかりましたね!


「ひゅひゅひひまひょー。」

これは何となくわかりました。すぐ行きましょう。と言ってくれています。


「フローラぁ。聴診器と白衣忘れてるぞー。」

と言いつつ中年の男性が走って来ました。


「おっと、いけねえ。」

と言ってバターロールを飲み込んだフローラさんとやらがぺろっと舌を出しました。

でも、迅速に行動してくれるみなさんの事がとても嬉しかったです。


「私もお見舞いの品を持ってすぐ駆けつけますから。」

と言った後レベッカ様は

「とりあえずこれを!」

と言ってアヒルの卵がぎっしり入ったカゴを渡してくれました。一瞬悩みましたが、ありがたくいただく事にしました。そして私はエデラー医師とフローラさんと一緒に馬車に乗り込みました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ