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シュテルンベルクの花嫁  作者: 北村 清
第2章 侯爵令嬢達と宝石の姫達
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エーレンフロイト家の別邸(2)

食堂には、さっぱりとした表情で石鹸の香りをさせているアガーテとローレが既にいました。レベッカ様は厨房の方にいるらしく楽しそうな笑い声が聞こえて来ます。


食堂に料理をのせた皿はなく、代わりに漆塗りの正方形の箱があります。

母が箱の蓋を開けると、フェルミナ様が「うわぁ!」と声をあげられました。

「可愛い!」


箱の中は絵本の世界のようでした。


ゆで卵にパプリカで作ったトサカをつけているニワトリ。煮込みハンバーグの上に切ったハムとチーズを乗せて作ってあるクマの顔。バラの形のハムやキュウリ。クマの顔の形に食パンを切って具を挟んでいるサンドイッチ。

びっくりするほど可愛らしい料理達です。

ティナーリア様も姉も目が釘付けになっていますし、私も目が釘付けになりました。


「レベッカ様の手作りなのですよ。」

と母が言いました。それからアガーテ達に

「あなた達の分は厨房に置いてあるわ。フェルミナ様達の給仕は私がするのでご家族と一緒にお食べなさい。」

と言いました。


アガーテは何か言おうとしましたが、その前にお腹がくう、と鳴りました。アガーテは真っ赤になり

「よろしくお願いします。」

と言って厨房へ行きました。直後アガーテとローレの

「可愛いー!」

「ほんと可愛い!」

という、甲高い声が聞こえて来ました。


「フェルミナ様。どれをお取りしましょうか?」

と母が聞きます。

「ジャムサンド。」

とフェルミナ様は即答されました。


「フェルミナ様。お体の為にもここはお肉や卵をぜひ。」

と姉が勧めます。でもフェルミナ様は

「お肉も卵も臭いから嫌!」

と言われました。


元々お肉が嫌いなのか?それともネーボムクのところで生臭い干し肉ばかり食べさせたれたからそう言うのか?どちらだろうと私は考えました。


「エマ。せっかくレベッカ様が作ってくださった料理なのだから、今日は栄養バランスなど考えずに楽しく食べましょう。サクランボのジャムとオレンジのマーマレード、それにピーナッツのクリームがありますよ。」

と母が言いました。

「ピーナッツって何?」

フェルミナ様が首をかしげられます。

「とてもおいしい木の実ですよ。すりつぶしてお砂糖を混ぜたら柔らかいクリームのようになるんです。」

「なら、それにする。」

とフェルミナ様が言われたので、母はサンドイッチを一つ箱の中から出しました。姉が一口毒見をします。


「すごくおいしい!」

とフェルミナ様は一口食べて大喜びされました。


「本当はね。ピーナッツは木の実ではなく豆なんです。だからタンパク質が豊富なのよ。」

と母が私と姉にこそっと教えてくれました。なるほど。それでフルーツのジャムではなくこちらを勧めたのですね。


ティナーリア様はハムでできたバラを希望されました。私がトングを使って皿に移しましたが、グシャっとならないよう気を使いました。


「ふわふわパンケーキが焼けましたよー。」

と言って厨房からレベッカ様とミリヤムが現れました。二人共手にそれはおいしそうなパンケーキののった皿を持っています。


「タマゴとミルクたっぷりの栄養満点パンケーキ。ぜひどうぞ。本日は特別サービスでミリヤムが何でも好きな絵をカラメルで描いてくれますよー。フェルミナ様。フェルミナ様は何の動物が一番お好きですか?」

とレベッカ様が聞かれました。


「小鳥が好き。」

とフェルミナ様は言われました。フェルミナ様は琥珀宮に住んでおられた頃、カナリアと文鳥を飼っていた。と以前聞いた事があります。


「OKです。小鳥ですね。」

と言うレベッカ様の後方でミリヤムが蒼ざめています。


「あ・あの、小鳥って雀でもいいんでしょうか?それとも高貴な方が言われる小鳥は、何かこう高貴な小鳥なのでしょうか?」

小声でレベッカ様に聞いています。


「雀でいいんじゃない。」

「フェルミナ、雀も大好きよ。」

とフェルミナ様が言われます。5歳なのに、ネーボムクの一千倍思いやりのあるお姫様です。ほっとした様子で、ミリヤムが雀の絵を描き始めました。


「ティナーリア様は何がお好きですか?」

とレベッカ様が聞かれます。


「私は一番、馬が好きなの。」

とティナーリア様が言われました。


「へー。」

と驚いたような声をあげたのはフェルミナ様です。

「そうなんだ、お母様。」

「お母様がフェルミナを生む前に暮らしていたおうちは大きな牧場でね。たくさんたくさん馬を飼っていたの。お母様もその馬達のお世話のお手伝いをしていたのよ。」


お手伝い、というか使用人の一人としてこき使われていた。と姉には聞いています。ティナーリア様は、両親亡き後引き取ってくれた親戚について多くを語ろうとはなさりませんが、この度の亡命騒動で親戚を頼ろうとは一切されなかったところに人間関係の一端を見る事ができます。

独身時代辛い生活をしておられたのなら、身近にいた動物の存在は癒やしだった事でしょう。ミリヤムが絞り出し袋を上手に使って、脚の短いデフォルメされた仔馬をパンケーキの上に描きました。


「可愛いね、お母様。」

「ええ、とても可愛いわね。ありがとう、ミリヤムさん。」

ティナーリア様に御礼を言われ、ミリヤムは真っ赤になって照れていました。


良かった。

と思いました。ネーボムクの屋敷から無事抜け出すことができて。お兄様達とも無事再会できて。


私、幸せだわ。と思いました。離婚した日から一番今日が幸せでした。



夜が来て寝る時間になりました。

ティナーリア様と手をつないで廊下を歩いていたフェルミナ様が不安そうに言われました。


「今日は別々のお部屋で寝るの?」


ネーボムクのお屋敷ではフェルミナ様とティナーリア様は同じ部屋を使っておられました。ベッドも一つしかなかったので同じベッドで眠っておられました。

それがフェルミナ様はけっこう嬉しかったようです。


「初めて来たお屋敷だし、なれるまではお母様の部屋で一緒に寝ましょうか。」

とティナーリア様が言われると、フェルミナ様の顔がぱあぁ!っと輝きました。


「じゃあね、お部屋に戻って馬さんのぬいぐるみ持って来る。」

そう言ってフェルミナ様は自分の部屋に駆けて行かれました。


「・・今は甘やかしてやりたいの。」

ぼそっとティナーリア様が私や母に向かって言われました。


「ええ、それがよろしいと思いますわ。」

母の声が夜も煌々と明るい廊下に優しく響きました。



夜になりレベッカ様とミリヤムは帰って行かれました。


「私もアリゼやクオレが気になるから、今夜は帰るわ。また明日の朝、朝ごはんを持って来るけれど、リナはどうする?一緒に帰る?ここに残る?」

と母に聞かれました。ちなみに、フェルミナ様の乳母である姉は当然ここに残ります。


私もアリゼ達の事は心配です。でも側にいてあげてもできる事は何もありません。昨日からずっと一緒にいたので充分話もしました。


「フェルミナ様達の側にお姉様と一緒に控えているわ。」

「そう。じゃあ、また明日の朝ね。」

そう言って母が帰り支度を始めます。ニルスは母と一緒に帰るようです。


「ニルス、帰るの?お母さんもお父さんもここにいるしここに残ったら?」

「ううん、僕はお祖母様と一緒にいる。お母様にお祖母様をよろしく頼むわね。って言われているもの。それにクオレに会いたいし。」


この一週間の間、ニルスは母親に普通に甘えているように見えましたが、母親と祖母どちらが大事か?と聞かれたら祖母の方が大事なようです。フェルミナ様の乳母をしていた姉は家にほとんどおらず、ニルスをずっと育てて来たのはお母様です。なので当然の事なのかもしれません。


私は帰って行く母とニルスを姉と一緒に玄関から見送りました。そしてその日の夜は静かに更けて行きました。



翌日、私が目を覚ますと母はもう来ていました。大量のパンと新鮮な果物を持って来てくれています。


しばらくするとティナーリア様とまだ眠たそうなフェルミナ様が食堂へ降りて来られました。


「お姉しゃまは?」

とあくびをかみ殺しながらフェルミナ様が言われました。


「カトライン様はご自分の部屋で朝食をとられるようですよ。さ、フェルミナ様。こちらにお座りください。」

「はーい。」


今日はとても良い天気のようで明るい日差しが食堂の中にも降り注いでいます。


「お母様。朝ごはん食べたら、ノエルが乗って来た馬車のお馬さん見に行こうよ。」

とフェルミナ様が言われました。昨日のティナーリア様の「馬が好き」という発言を覚えておられたようです。


しかし、母がにっこりと笑ってフェルミナ様に言われました。

「駄目です。フェルミナ様。午前中はお勉強ですよ。」

レベッカの用意したお弁当は、キャラ弁です

漆塗りの重箱に入っています


皆様方が押してくださるブクマ、評価、リアクションに背中を押して頂いております

ありがとうございます

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