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シュテルンベルクの花嫁  作者: 北村 清
第1章 母の故郷(ふるさと)
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シュテルンベルクの花嫁

兄はアリゼを連れて病院に診察へ行く事になったので、兄とアリゼとクオレとは一度別れました。


私達は大型の馬車一台に全員で乗って、母の待つ場所へ向かう事になりました。


馬車に乗ってすぐ

「いったいいつヒンガリーラントに着いたの?お兄様と一緒に行動していたの?」

と姉がアデム義兄様に聞きました。


「ああ、僕達が義理の兄弟だという事で、僕らの班が瑠璃姫様の警護にまわされたんだ。着いたのは昨日だよ。君達とはちょうど入れ違いになったんだ。」

「瑠璃姫様・・カトライン様もご一緒なの?」

「ああ、そうだ。」


それを聞いてティナーリア様が、ほっとしたような顔をされました。


「今までどこにいたの?」

「国中を逃げ回って、その後国境を越えてロートブルクラントにいたんだ。」

「よく王都から逃げられたわね。」

「カトライン様は王宮に入る事を許されず、レーヴンバルト伯爵家の屋敷に滞在されていたんだ。今年社交界デビューされる王女殿下は二人いて、もう一人は『黄玉宮妃』様の娘だった。平民を母親に持つカトライン様と自分の娘が同じ待遇なのは許せない!と黄玉宮妃様が言われて、カトライン様をデビュー当日まで臣下の屋敷に留まらせたんだ。でも、結局はそれで命が助かったんだ。王宮は反乱軍に焼かれて捕らえられた黄玉宮妃様も黄玉姫も殺されたと聞いている。カトライン様も僕らも王宮内にいたら死んでいたと思う。」

「そうだったの。ところでレーヴンバルト伯爵ってどなた?カトライン様と関係のある御方なの?」

「伯爵夫人が王太子殿下の乳母だったんだよ。だからレーヴンバルト伯爵家は王太子派の貴族だ。三女のリオンティーネ令嬢がカトライン様の付添人シャペロンに選ばれたので、レーヴンバルト邸に入られたんだ。」


シャペロンというのは、社交界デビューする少女に付き添って世話や指導をしてくれる女性の事です。

カトライン様は『捨宮の姫』で社交界とは一切無縁に生きて来られました。母親も亡くなっておられますし、誰か世話をしてくれる年長者がいなければ、社交界デビューを成功させる事はできないでしょう。


やがて王都が陥落し王城が反乱軍に囲まれました。混乱する王都から、カトライン姫、カトライン姫の祖父母、ライル兄様を含むカトライン姫の祖父の部下、アデムと同僚の騎士が四人。リオンティーネ伯爵令嬢に、伯爵令嬢がカトライン様に付けた専属メイドのオリエの13人が一緒に逃げ出したそうです。


逃亡生活は苦難の連続だったようです。とにかくカトライン様の正体が知られるわけにはいきません。馬車を使うと上流の人間とバレるので最後はひたすら徒歩で移動したそうです。それでも伯爵令嬢もカトライン様も一言も文句を言わずひたすら歩き国境を越えました。


しかしロートブルクラントに着いてすぐ、ロートブルクラントがブラウンツヴァイクラントに宣戦布告をしました。そして、ロートブルクラント内にいたブラウンツヴァイクラント人を全員人質にしようとしました。人質を収監する収容所行きを拒めば即殺されてしまいます。アデム達は貧民街の安宿に潜伏していましたが、食料も手に入れられずもはや完全に詰んでいました。


そんな時、拾った新聞を読んで私達がヒンガリーラントにいる事を知ったのです。

新聞にはライルとアデムの情報を知っている人は、お近くのレーリヒ支店まで。と書いてありました。二人は藁にもすがる思いでロートブルクラントのレーリヒ支店を頼ったのです。


レーリヒ支店の支店長はすぐに脱出計画を立ててくれました。


まず、売れない画家達の絵を100枚ほど買い集めました。

ヒンガリーラントは、伝染病騒動の後何人もの平民が新しく貴族になりました。新しく貴族になった人達は貴族街に屋敷を建て、豪邸にたくさんの絵を飾ります。なので絵がたくさん売れるはずだという理屈です。


絵は数台の馬車に積み、アデム達騎士はその護衛をします。ライル兄様達はレーリヒ支店の店員のフリをしたそうです。


そしてレーリヒ支店の支店長は、何人かの若手画家に一緒にヒンガリーラントに行かないか?と声をかけました。

伝染病の影響が少なかったヒンガリーラントには潤沢に食料がある。画家も必要とされている。と言って、行くなら旅費を出してやる。住む場所も世話してやる。と言いました。


伝染病の傷跡が残るロートブルクラントは国が荒れていて、食料を手に入れるだけで苦労する状態で、絵など描いても売れるはずもありません。

そして何より戦争が始まれば男性は徴兵される恐れがあります。ですので、何人もの売れない画家達がヒンガリーラントに向かう事に同意しました。カトライン様とリオンティーネ令嬢はその画家達の集団の中に紛れ込んだのです。


そして何台もの馬車が連なる大所帯にレーリヒ支店一行はなりました。


一目見ただけで確認が大変そうな一団です。支店長は国境を守る職員達に賄賂を渡し身分の確認を免除してもらいました。


そうやって無事、ヒンガリーラント国内に入り込んだのです。


もっとも入り込んだ先はディッセンドルフ領です。エーレンフロイト派閥のレーリヒ家に対して非友好的な領地なので、そこを抜けて来るのも苦労したそうですが・・・。


私達の移動どころではない大金が動いた気配に私は蒼ざめました。

私達家族の為にそこまでしてくださったなんてと思い胸がいっぱいになりました。


100枚の絵が売れ残ったら、お母様にお願いして買おうと思いました。

ヒンガリーラントにやって来た画家達の生活の援助も手助けするべきでしょう。


カトライン様達は昨日はエーレンフロイト邸に泊まったそうです。そして、今日エーレンフロイト家のセカンドハウスに移りました。そこに今、私達は向かっています。



セカンドハウスは、緑深い森の側にありました。敷地内には大きな湖があり、小川も流れています。

建物はとても瀟洒しょうしゃで大きさは、ネーボムクの屋敷くらいでした。玄関をくぐるとまずそこは広いホールになっています。そこで母とニルスとレベッカ様が待っていてくれました。

レベッカ様はネーボムク夫婦と違い、難民であるティナーリア様とフェルミナ様に敬意を持って接してくださいました。


建物の一階は談話室や食堂、キッチンなどがあるみたいで、プライベートルームは二階と三階のようです。母が二階へと案内しようとした時です。一人の少女が二階から降りて来ました。


美しい少女でした。


実はレベッカ様の周りにはレベッカ様と同じ年頃の侍女と思われる少女達が何人かいます。その子達も美しいのですが、その子達とは何か一線を画す独特な雰囲気がある少女でした。

この少女は貴族だ。しかも歴史の浅い貴族家ではなく歴史ある家門の貴族だ。と思いました。彼女からはコンラート様や、昨日お会いしたエリザベート様のような時間によって熟成された血の輝きのようなものを感じたのです。


少女は紫色の瞳でこちらをじっと眺めていましたが、その後自然な微笑みを浮かべ非の打ち所がないカーテシーを披露されました。その動きが指の先に至るまでも優雅です。


「フェルミナ内親王殿下、ティナーリア妃殿下、エマ様、リナ様にお会いできて幸甚の至りでございます。ヒルデブラントの娘ジークルーネがご挨拶を申し上げます。」


ジークルーネ!


その名前に聞き覚えがありました

コンラート様の婚約者。やがてシュテルンベルクの花嫁となる少女の名前でした。

第1章終了です(^ ^)

ようやくリナ達もフェルミナ達も安心して暮らせる場所にたどり着きました

評価やリアクション、感想が頂けますと、とっても励みになります


次話より第2章になります

どうか2章もよろしくお願いします

読んでくださるお一人お一人に本当に感謝します


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