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シュテルンベルクの花嫁  作者: 北村 清
第1章 母の故郷(ふるさと)
39/69

再会

何せ、ずっと閉じ込められた生活をしていたので周囲にどんな目印や建物があるかわからないのです。前に母と街の中を通った時は話に夢中になっていて、道順を全く記憶していませんでした。


あの屋敷は貸別荘だったので『ネーボムク卿の屋敷』と人に尋ねてもわからないでしょう。元々の屋敷の持ち主が誰なのかは私達にはわかりません。


「セラ、道順を覚えてる?」

期待を込めて聞いてみましたが

「よく覚えていないです。」

と言われてしまいました。どうしたら良いのでしょう?街の人達に片っ端から聞いてみたら何か手がかりをつかめるかしら?と思いましたが、時間にはタイムリミットがあるのです。帰りの船に間に合うまでの時間に駅まで帰らねばなりません。


「アガパンサス通りにあるというパン屋さんをまず訪ねたらどうでしょうか?そこなら別荘の場所を知っているのではないでしょうか?」

とセラに言われました。


名案です!


ただ、以前に受けた仕打ちを思い出し暗い気持ちになりました。


「教えてもらえるかしら?難民が嫌いそうな人だったから。」

と姉も不安そうに言いました。


「もし何か無礼な事を言われたら、私が『店ごと全部頂くわ』と言って金貨を投げつけてやりますよ。」

とセラが言ってくれました。


セラが一緒にいてくれる事をとても心強く思いました。それと同時に「斬り殺してやりますよ」じゃなくて良かった。と思いました。

嫌な人ではあっても恩人であるミリヤムさんのご家族です。死ねばいい、とまでは思っていません。


話しているうちにトンネルを抜け、ヴェステンの門に到着しました。

私達は門の近くの雑貨屋の奥さんにアガパンサス通りの場所を聞き、パン屋を目指して街を進んで行きました。



幸運にもパン屋で店番をしていたのはミリヤムさんのお母様でした。

息子の応対を知っていたらしく私達の素性を知ると平謝りに謝られました。

なので、金貨を投げつけるような事にはなりませんでしたが、私達はお店のパンはごっそり買い込みました。クオレ達へのお土産と今日の夕食分です。

ネーボムク卿のいる貸別荘の場所を聞くと、懇切丁寧に教えてくれました。そして道を途中まで行くと私は道筋を思い出して来ました。


そして、ついに私達はクオレやアリゼ達のいる屋敷に戻って来ました。


屋敷の古びた門の側に門番がやる気なさそうに立っているのも出て行った時と同じです。たった一週間で私達の顔を忘れていたのか、随分と胡散臭げな表情で見られてしまいました。ネーボムク夫婦は出かけているので出直すように。とも言われました。変なトラブルや押問答をするのは御免被りたいと思い、私達は名前を名乗った後一週間前まではこの屋敷にいた事を告げて銀貨を数枚渡しました。そしたら躊躇わずに中に入れてくれました。門番としてはどうなのだろうか?と思ってしまいますが、今はそのプロ意識の無さが有難いです。


私達は屋敷の中に入りました。私達の声が聞こえていたのでしょう。フェルミナ様とクオレが玄関まで走って来ました。


「エマー!」

「リナ叔母様!」


フェルミナ様は姉に抱きつき火がついたように泣き始めました。クオレは一瞬躊躇っていましたが、私が抱きしめると思いっきり抱きついて声をあげて泣きました。


「も・・戻って来てくれたのね、エマァ!」

「勿論ですよ。10日以内に帰るとお約束したではありませんか?」

「ネーボムク卿が、エマ達は私達を置いて逃げたんだって。もう・・戻って来ないって・・・。私達は捨てられたんだって。」


あの男っ!


怒りを通り越して、殺意を覚えました。5歳の子供に何て事を言うのでしょう!


大人だって信頼していた相手に逃げられたり捨てられたりしたら傷付くんです。実際、私は無理矢理離婚させられて心がズタズタになりました。子供の小さな胸で、どれほど傷つき苦しんだのか。

ネーボムクに平手打ちを喰らわしてやりたい気分です。


「わたくしがフェルミナ様を捨てるなんてあり得ません!あの男は嘘つきなんです。どうしようもない悪党です!」

姉もぼろぼろと泣いていました。


「クオレ。」

私はクオレの涙をハンカチで拭ってやりながら聞きました。


「他の人達は無事?ティナーリア様やあなたのお母様は?」

「お母様はすごく具合が悪いの。いっぱいいっぱい吐いて、ご飯がね、食べられないの。」

「そうなの?」

「ティナーリア様がね、最後の一枚のドレスを渡してお薬を手に入れてくれたの。でも、良くならないの。」

そう言ってクオレはわあわあと泣きます。ネーボムク夫婦への憎しみが1ランク、ランクアップしました。


その頃になると大人達が、集まって来ました。


「エマ!それにリナも・・。戻って来てくれたの?」

そう言うティナーリア様はアリゼの服を着ていました。


「勿論です。ティナ様。そうだ、フェルミナ様。おいしいお菓子をお土産に持って帰って来たのですよ。」

「お菓子⁉︎本当?」

「ええ、ええ。さ、部屋に入って食べましょう。」

私達は今までエントランスで話し込んでいたのです。


私達はティナーリア様とフェルミナ様が使っている部屋に移動しました。アリゼは歩くのも辛そうなので、私とクオレが左右から体を支えます。妊婦とは思えないほどアリゼは痩せていました。


「リナ。お義母様とニルスは?」

とアリゼに聞かれました。


「王都で暮らす為の家の準備をしてくれているわ。」

「・・・王都?」

「そうよ。私達王都に行くの。」


アリゼにもクオレにも、お母様が伯爵家の出身だった事、王都で親戚達に会うつもりでここを出た事は言っていません。

なので、王都に行くなどというのは青天の霹靂でしょう。


「後からゆっくり全部説明するから。」


私達は部屋に入りました。

バスケットや買ったパンは全部セラに持ってもらっています。さすがのセラも少しよろけていました。


「さあ、どうぞ。」

と姉は言ってシフォンケーキとカメ型パンの入っていたバスケットを開けました。


「わあ、いい匂い。」

フェルミナ様が泣きながら笑いました。姉がケーキ用のナイフを使ってケーキを切り分けお皿にのせました。ナイフも皿もレベッカ様が入れていてくれた物です。既に私達は味見済みですが、一応姉が二人の前で毒見をしました。


「クオレはこっち。食べて。」

私はカメ型パンを渡しました。お腹が空いていたのでしょう。クオレはバクバクっとパンを食べてしまいました。喉に詰まるのでは?と心配になる勢いです。


「おいしい。」

「おいしー!」

子供達は笑顔で叫びました。ティナーリア様も

「不思議な食感でとてもおいしい。」

と言ってくださいました。


「皆さん。焼きたてパンもありますよ。」

とセラが言って、さっきミリヤムさんの実家で買ったパンを差し出しました。大人達が喜んで受け取ります。


「アリゼ様はこれもどうぞ。昨日河の駅で買ったスモモです。ちょっと・・いえ、かなり酸っぱいのですが。」

「嬉しいですわ。ありがとうございます。」

アリゼが食べる姿をクオレが嬉しそうに見ていました。


さて。パンは手づかみで食べられますが、唐揚げはさすがにそうはいきません。けれど、カトラリーの数が足りません。

ものすごく嫌ですが、ネーボムク卿の使用人に貸してもらうしかないでしょう。


その時です。


玄関の方からざわざわと音がして来ました。どうやら外出していたネーボムク夫婦が戻って来たようです。

前話の後書きで紹介させていただいた『ストルゲー・フォレスト殺人事件』ですが

推理・日間(全て)で3位

推理・日間(完結済み)で1位

をとらせて頂きました

ものすごく嬉しいです((o(^∇^)o))

読んでくださった方々にこの場を借りて厚く御礼申し上げます

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