表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シュテルンベルクの花嫁  作者: 北村 清
第1章 母の故郷(ふるさと)
38/66

レートブルクの街へ

午後からの湖水地方行きの船は三時に出航します。その船に乗るのに私達はギリギリ間に合いました。


ただ、一等客室は既に埋まっていました。明日の船ならば、一等客室が空いていると言われましたが、明日まで待つ事はできません。なのでこの度は二等客室に泊まる事にしました。二等客室は一つの部屋で中には四つのベッドがあり、他にソファーとローテーブルがあります。私と姉とセラ以外にもう一人、一等客室に宿泊している実業家の秘書という人が同室になりました。


船が動き出すと、私は緊張から解かれて深くソファーに腰かけました。いろいろな事があった今日一日、とても気が張っていたのだと気がつきました。


だけどついに。やっとクオレやアリゼやフェルミナ様を迎えに行けるのです。アリゼはともかくクオレとはまだ出会って半年にもなりません。フェルミナ様やティナーリア様と過ごした時間はそれ以下です。だけど、辛い逃亡生活を共にした事で、皆に強い親愛の情を感じていました。

私でさえそうなのですから、姉の喜びはそれ以上でしょう。


「もっと早く進めばいいのに。」

クオレ達に早く会いたくて私はつぶやいてしまいました。


だけどこんなにも心が弾むのも、早く進めば良いと感じるのも、全てが上手くいったからです。

王都での後ろ盾も見つけました。お金の事で不安を感じる事もありません。私達が持つバスケットの中には、約束した焼き菓子が入っています。

何もかもが上手くいったのは、運が良かったからでも私達が奮闘したからでもありません。たくさんの親切な人達が私達に手を差し伸べてくれたからです。

その人達一人一人の顔を思い出し、私は心の中で感謝を捧げました。


「食べ物と一緒に、こんな物も渡されましたよ。お子様方へのプレゼントだそうです。」

セラがそう言って渡してくれた木の箱の中にはジグゾーパズルのピースが入っていました。


私と姉は暇つぶしの為にパズルを組み立ててみました。昨日ニルスがやっていた物よりもピース数が少なく数十分で完成しました。いろんな野菜の絵が描いてあってその下に名前が文字で書いてあるパズルです。出来上がった物はまた崩して箱の中にしまいました。こうしておけば、明日子供達が遊ぶ事ができます。



「お腹空いて来たわね。」

夕方になり陽が沈む時間になって来て、姉がそう言いました。「そうね」と言って私はバスケットを開けました。『唐揚げ』は明日でもおいしく食べられますが『コロッケ』は食感が悪くなってしまうので今日中に食べて欲しいと言われていました。

私と姉とセラは、バスケットの中に入っていたお皿とカトラリーを使ってコロッケを食べました。


コロッケはまだ十分香ばしく、バターの優しい甘味がしてものすごくおいしい芋料理でした。

正直言って私は芋が嫌いです。

田舎では貴族でさえあっても主食が芋で、嫁ぎ先でもう人生の定量を超えたくらい茹でた芋を食べて来たからです。


そんな私でもぱくぱくと食べる事ができるほどおいしい芋料理だったのです。


私達はコロッケだけ食べて唐揚げの方は残しておきました。柔らかくておいしい肉料理をクオレ達の為にとっておいてあげたかったからです。


客室には私達以外の客もいるので込み入った話もできず、私達は夜早めに寝る事にしました。

寝ている間も船は進んで行きます。

早く無事に着きますように。祈りながら私は眠りにつきました。



夜の間に雨が降り翌日の朝の川は朝霧が立ち込めていました。そのせいで夏の始めなのに季節が逆戻りしたような寒さです。


「寒いので朝ごはんは温かいものを食べましょう。」

セラに誘われ、私と姉は河の駅に降り立ちました。周辺にはたくさんの屋台が出ていました。


「おお!これが噂の草ネズミの丸焼き。」

どこで噂になっているのか知りませんが、とある屋台にセラは目が釘付けになっています。買うのかと不安を覚えましたが、その屋台の前は通り過ぎました。

次にセラが立ち止まったのは、イナゴを炒っている屋台です。イナゴはブラウンツヴァイクラントでは別に普通の食材です。ただ、お腹に溜まる料理ではありませんので酒のツマミ扱いの食材です。更にセラはスモモを売っている屋台をじーっと見つめていました。


「ここはどうでしょう?」

とセラに勧められたのはアヒルと豆のスープを売っている屋台でした。


シュテルンベルク家で飼われているアフとラックを思い出し、一瞬躊躇しましたがあのアヒルはあのアヒル、このアヒルはこのアヒルです。

迷っている間に船が出発したら大変な事になるのでこのスープをいただく事にしました。追加料金を払うと水掻きがつくと言われましたが、別にそこまでコラーゲンを欲していないので断りました。


脂の浮いたスープは冷えた体には温かく、セラに誘ってもらえて良かったと思いました。

それと同時に、こんな寒い朝クオレやフェルミナ様は温かいものがとれているかしら?と考えました。温かいお茶の一杯でも出してくれていたら、私はネーボムクの事が許せる。と思いました。


食事が終わってすぐ、私達は船に戻りました。船は安全の為、霧が晴れるまで出発しないようです。お願い、早く晴れて!

その祈りが天に届いたのか、雲間から光が差し始めました。そして船は再び動き出しその日の昼過ぎに目的の河の駅に到着しました。


河の駅に着いてすぐにしたのは帰りの船の客室の予約です。

今から四時間後、王都行きの船がここへやって来ます。その一等客室を仮予約しておきました。


それから馬車のレンタルです。十人近い人数がいるのですから馬車は二台レンタルしました。お金がかかりますが、お金に糸目をつけているわけにはいきません。


それからレートブルクの街を目指したのですが、ここに来て大変な事に気がつきました!


私達、その街の中のどこにネーボムクが借りている貸別荘があるのかがわかりません!


突然ですが宣伝させてください


『ストルゲー・フォレスト殺人事件』という話をアップしました

貧乏伯爵家の令嬢と令息がお見合い会場で事件に巻き込まれるというミステリー作品です

既に完結しています

是非是非よろしかったらそちらの作品も覗きに来て頂けますと、とってもとっても嬉しいです(^◇^)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ