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シュテルンベルクの花嫁  作者: 北村 清
第1章 母の故郷(ふるさと)
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後ろ盾

びっくりしました。


だけど、向こうから話題にしてくださったのです。貴族らしい曖昧な態度で話を誤魔化し、後になって頼み事をする。というのが正しい事とは思えません。

私と姉と母は視線を交わし合い、母が小さくうなずきました。


「気を使って頂きありがとうございます。シュテルンベルクの家では誰もが優しくしてくれますし、何の問題もありませんわ。でも、湖水地方に残して来たもう一人の孫や琥珀姫様の事を思うと胸が痛みます。」


「シュテルンベルク家の人達は誰もが優しい、って事はネーボムク準男爵と家臣は優しくないって意味ですか?」

レベッカ様は利発な方です。言外の意味を正しく理解してくださったようです。そして言いにくい事を、歯に衣着ずにはっきりと聞いてくださいます。母も正直に


「はい。」


と答えました。


「何があったの、ノエル?」

カロリーネ大叔母様が言われ、母は姉に視線を移しました。


できる限り感情的にならないようにしながら、姉が事情を説明しました。


「まあ、まあ。」

とカロリーネ大叔母様は言いながら聞いてくれますが、レベッカ様は全く表情を変えずに聞いておられます。

全てを聞き終わった後レベッカ様は「ふむ」と言い


「私にできる事はありますか?」

と言われました。


胸が熱くなりました。


今の私達に必要なのは同情されたり、もらい泣きされる事ではありません。具体的な援助なのです。

レベッカ様はすぐさまそれを提示してくれたのです。


「ネーボムク準男爵の元からフェルミナ様とティナーリア様を連れ出したいのです。でも、そうすればどのような圧力をかけられるかわかりません。なので私共の後ろ盾になって頂きたいのです。」

「それは構いません。ただ、王室からの命令で7親等内親族以外のブラウンツヴァイクラント人の貴族を、王城特区内の屋敷に住まわせてはならない事になっています。なので、フェルミナ内親王殿下と御母上をこの屋敷やシュテルンベルク邸で引き取る事はできないのです。となると、王都内のどこか治安の良い場所に住んで頂く事になりますが・・どこがいいかな?」

レベッカ様が考え込まれます。


「第二地区のセカンドハウスは?以前、わたくしが住んでいた。あの屋敷は貴女のお父様が幼い頃暮らしていた屋敷だから、建物内の角が全て丸くなっていたり、子供の身長に合わせた手すりがたくさんあったり、子供が安心して暮らせる設計になっているのよ。」

とカロリーネ大叔母様が言われました。が。

「あそこはダメです。」

レベッカ様がピシャっと言われました。


「隣接する森にクマが出たんです!」

「そのクマはシュテルンベルク騎士団が駆除したのでしょう?その後、他にクマがいないかちゃんと確認したと聞いていますよ。」


「・・・え⁉︎王都の中でクマが出たんですか?」

私は仰天してしまいました。

私が夫と暮らしていた田舎ではクマが出る事もありましたが、ブラウンツヴァイクラントの王都で出た事はさすがにありません。

そんなアーバンベアーがヒンガリーラントにはいるのですか⁉︎


というか、エーレンフロイト家のセカンドハウスの話を最近どこかで聞いたような気がするのですが、いつだったでしょうか?

・・・駄目です。思い出せません。


「住む場所はどこでもいいんです。小さい家でも。ネズミさえいなかったら。レベッカ様やカロリーネ大叔母様が後ろ盾になってくださるというのなら、私今すぐフェルミナ様を迎えに行って来ます。」

と姉が言います。


「私も行きます。お母様とニルスはどうする?」

と私は聞きました。


「私は王都に残って、フェルミナ様達をお迎えする家の準備をするわ。ニルスは私の手伝いをしてくれる?」

と母が聞くと

「はい。」

と元気な声でニルスは返事をしました。


「アリゼ伯母様とクオレもここへ来るの?」

とニルスが聞きます。

「ええ、そうよ。」

「良かった。」

とニルスは言いました。とても嬉しそうでした。


「今日は招待してくださってありがとうございました。でも、この場はこれにて失礼させてください。湖水地方に行く船について調べておいたのですが、午前と午後に一便ずつ出るのだそうです。今ならまだ午後の船に間に合います。それを逃せば次は明日の朝になります。なので申し訳ありません。」

「いいのよ。気をつけて行って来てね。」

とアルベル叔母様が言ってくださいました。


「セラ、二人について行ってくれる?」

と母が側に控えていたセラフィナに聞いてくれました。


「勿論です。命に変えてもお守り致します。」


私達は立ち上がりました。その時気がつきました。レベッカ様がいつの間にかいなくなっている事に。

帰る前にご挨拶がもう一度したかったのですが残念です。


私と姉は男性達のテーブルに近づき、リヒャルト様とコンラート様に事情を話し、エーレンフロイト侯爵やルートヴィッヒ殿下にも挨拶をしました。

それから玄関へと向かいました。


「待って!」

エントランスで声をかけられました。誰かと思ったらレベッカ様でした。


手に重そうなバスケットを持っておられます。背後にはミリヤムがいて彼女もバスケットを持っていました。


「途中、食べ物が買えなかった時の為にお弁当。と言ってもおかずは夕ご飯に出す予定だった、コロッケと唐揚げだけだけど。後は白パンとレモネード。持って行ってください。」

「ありがとうございます・・・。」

「ミリーの方のバスケットにはカメパンとシフォンケーキが入ってます。シュークリームを作るのに失敗した時の為にケーキを作っておいたの。こっちはクオレ君とフェルミナ様にぜひ食べさせてあげてください。」


その時思い出しました。

私達は、王都に焼き菓子を買いに行く。と言ってネーボムクの屋敷を出たのです。なのにお菓子を買って帰らなかったら、フェルミナ様をがっかりさせてしまうでしょう。


「ありがとうございます。本当にありがとうございます!」

「そんな事より道中気をつけて。外国人に悪い事をする奴もいたりするから。ついた先でも気をつけて。ネーボムクって男が暴れたりするかもしれないから。」

「はい。ありがとうございます。レベッカ様。ミリヤムさんも、ありがとう。」

「どうか、お気をつけて行かれてください。またお会いできるのを楽しみにしています。」

とミリヤムさんも言ってくれました。


私はレベッカ様が持っておられたバスケットを手に取りました。落としそうになりました。

重っ!

これをレベッカ様は軽々と持っておられたんですか!


「馬車まで私が運ぶよ。」

とレベッカ様が言ってくださいました。


「すみません。」


玄関ドアを開けると青い青い空がどこまでも広がっていました。故郷を捨てて家を出た時季節は冬でした。でももう、夏が近づいているのです。

私は空を見上げました。


この空の続く場所にアリゼやクオレやフェルミナ様がいる。

早く皆の所に戻りたいと。気持ちがはやりました。

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