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シュテルンベルクの花嫁  作者: 北村 清
第1章 母の故郷(ふるさと)
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昼食会PART 2(2)

それは、大きなミートボールのように見えました。普通ミートボールは一口で食べられるサイズですが、これはナイフとフォークで8分割くらいしなければ一口で食べられそうにありません。


「この料理は何?」

とエリザベート公女が聞かれました。


「『フロイライン・プラムパイ』さんが考案したレシピ『なんちゃってロースト肉』の変化系です。」

とレベッカ様が答えられます。


「『フロイライン・プラムパイ』って、新聞にしょっちゅう料理のレシピを公開している料理人よね。」

「そうです。『なんちゃってロースト肉』はオーブンが無ければ作れないので、オーブンが無い孤児院の子供達でも食べられるよう作り方を改良してみたんです。」

「どうやって作るの?」

「牛と豚の合い挽き肉に刻んだ玉ネギとニンジンとインゲン豆を入れて卵とパン粉を入れて塩と胡椒も入れて粘り気が出るまでよく混ぜて、丸くした後フライパンで両面にこんがり焼き目をつけてからソースで煮込みます。」


ぺらぺらと料理のレシピを話されます。お金も払わず聞いても良いの?と思いますが『丸くする』までの工程は既に新聞に掲載されていたのでしょう。ソースに関してはレシピを一切言われませんでした。


「孤児院に持って行く前に皆様の感想を聞いてみたいと思いまして。是非自由なご意見をお聞かせください。」

「王族が味見役かよ。」

とフィリックス公子が言われましたが、レベッカ様はスルーされました。


「すごくおいしいよ!」

と、最初にルートヴィッヒ殿下が言われました。だけどこの王子様。レベッカ様が出した物なら泥団子でも「素材の味が生きてていいよ」とか言いそうですけれど。


「柔らかくて食べやすいわ。私のように歯が弱っているものでも食べやすくて良いわね。きっと、アゴの力が弱い幼い子供でも食べやすいと思うわ。」

とカロリーネ大叔母様も褒められました。


「ソースに赤ワインの味が強いわね。子供向けにはもう少しお酒を減らして、トマトソースとかを増やした方が良いのではない?」

とエリザベート様が言われました。トマトの嫌いなニルスが微妙な顔をしていました。


皆の意見を真剣な顔でレベッカ様が聞いておられます。

私は敢えて口を出しませんでしたが、内心おいしさにびっくりしていました。

野菜が入っているから柔らかくて甘く、だけど食感や味が全く邪魔をしていません。


こんなおいしい物を、孤児院の子供が食べているの⁉︎

と言ってしまいそうになって、ぐっとこらえました。

だけど、おいしくない物をネーボムクの所で食べているだろうクオレやフェルミナ様の事を思うと少し哀しくなりました。


「どうしてパン粉とやらを入れるんだい?」

とルートヴィッヒ王子が不思議そうに聞かれました。


「ひき肉がバラバラにならないようつなぎの為です。米でも代用できるかな?と思って、炊いたお米を入れてみたりもしたのですけど代用できました。でも、今日はパン粉を使っています。」


無口で無愛想な姫君だと思っていましたが、料理の話になるととても饒舌じょうぜつです。それに今はとても自然な笑顔です。

「そうなんだ。これだけで肉も野菜も穀物もとれる。理想の食べ物だね。」

とルートヴィッヒ王子が嬉しそうに言われました。


「何故、玉ねぎやニンジンをを入れるんだ?栄養バランスの為か?」

と今度はフィリックス公子が聞かれました。


「かさ増しです。野菜を入れた分お肉の量を減らせるでしょう。勿論栄養バランスの為でもあります。」

「ふうん。」

とフィリックス公子は冷たい声で言われました。


「だったら僕の分は抜いて欲しかったな。味が邪魔だ。次に食べる時があったら抜いてくれ。」

「舌をですか?」


アルベル叔母様が、ゴホッ!とむせました。フィリックス公子がぽろっとナイフとフォークを落とされ、お皿にぶつかってカシャーン!という音を立てました。


「もう、姉様ったら!」

ヨーゼフ様が抗議の声をあげます。


「お肉を食べている時にやめてよね!」

エーレンフロイト侯爵とエリザベート様が同時にむせました。エーレンフロイト侯爵は慌てているようですが、エリザベート様はどうも笑っているようです。


「レベッカーー!」

ようやく、呼吸の整ったアルベル叔母様が顔を真っ赤にして怒られました。


「おまえ!まだ一応僕の方が身分は上なのだからな。」

フィリックス公子も静かに怒っています。


「文句ばっかり言っているおまえが悪い。」

とルートヴィッヒ殿下が言われました。

「あの女が、自由なご意見をと言ったのだろうが!」


そんな騒動があっても、誰も食欲が落ちないほど料理はおいしく、皆が完食して昼食は終わりました。



その後談話室に場所を移して、お茶を飲む事になりました。


ここでテーブルが完全に男性と女性に別れました。男なのに女性サイドの席に着いているのはニルスだけです。

ルートヴィッヒ殿下がちらちらとレベッカ様の事を気にしている視線を感じます。レベッカ様が勘の良い女性だったならその視線に気がついて、そっと席を立ってルートヴィッヒ殿下と合い挽き・・じゃなくて逢引きをするのでしょうけれど、悲しいかなレベッカ様は視線に気づく気配もありません。レベッカ様の視線は次々にテーブルに並ぶお菓子に釘付けです。


「まあ!このお菓子は初めて見るわ。」

とエリザベート様が驚きの声をあげました。


「はい。お客様にお出しするのは初めてのお菓子です。シュークリームって言います。そこにいるミリヤムが作ってくれたんです。」

と言ってレベッカ様は給仕をしてくれていた女の子を紹介してくれました。私と姉は彼女を見て「あっ!」と声をあげました。そこにいたのは、湖水地方で会ったあのパン屋の少女でした。


ミリヤムが私達を見て、にこっと微笑みます。だけど、高貴な方達がたくさんいる場所です。私達は目と目を交わし合っただけで声はお互い出しませんでした。

でも、彼女との再会は私に勇気をくれました。私達が彼女に会って、その彼女がエーレンフロイト家に奉公に行き私達の事を忘れずにいてくれた。その信じられない偶然の積み重ねで、今私達はここにいるのです。それは何と幸運な事なのでしょう。だから、きっと大丈夫。フェルミナ様の事も上手くいく!そう信じられました。


私はティーカップに口をつけました。朝食の時にした打ち合わせ通り。貴族らしく、まずは相手の話をゆっくり聞きそれから話題をフェルミナ様やティナーリア様の方に持って行く・・・。


どんな話題が一番に出るだろう?

私は耳に神経を集中させました。


「ニルス君は可愛いですねえ。」

とレベッカ様がニルスを見て言いました。


「でも、小さな子にお引越しは大変だったでしょう?家から離れるのは大人でもストレスなのに小さな子には尚の事だもの。ニルス君、ご飯はしっかり食べれている?知らないおうちで夜はちゃんと眠れてる?頭が痛いとかお腹が痛いって事はない?七歳前後で受けた心の傷が最大の生涯のトラウマになる。って聖女エリカ様も言われたっていうし。この年頃の子供は心配ですよね。ニルス君の事もですし。湖水地方にいるクオレ君やフェルミナ様は大丈夫でしょうかねえ?」


超ど直球に話題が向かって来ました。


なんちゃってロースト肉はミートローフ、変化形は煮込みハンバーグになります


レベッカとフィリックスは『喧嘩するほど仲が良い』とか『本当は心の中で気になっている』などではなく、本当に仲が悪いです

この二人は一回、裁判になる程もめています(^◇^;)


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