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シュテルンベルクの花嫁  作者: 北村 清
第1章 母の故郷(ふるさと)
33/66

昼食を終えて(1)

「本質的には三つとも同じ事だと思うのです。我が家でしか食べられない料理が食べたい。我が家にまた来たい。ネーボムクの家は怖いから嫌。核心部を誤魔化しながら、何とか遠回しに自分の気持ちを伝えようと、もっと言うと助けを求めているように聞こえました。ニルスは『ネズミが怖いから』と言いましたが、本当に怯えているのはネズミに対してなのでしょうか?『大きなネズミ』というのは何かの隠語なのでしょうか?踏み込んで質問させて頂くなら、ネーボムクという人間は信頼できる相手なのでしょうか?」


さっき持った印象は正しいと思いました。ルートヴィッヒ殿下は無思慮だけど愛すべき人で、コンラート様とヨーゼフ様は優しく、思慮深く賢い人達なのです。

さっきのニルスの『三つのお願い』を聞いて、ヨーゼフ様はすぐに私達からニルスを引き離す為遊びに誘い、その間にコンラート様は話を聞きに来られたのです。


「世の中にはいろんな人間がいます。優しそうに見えて子供に酷薄に振る舞う者、社会的地位があり周囲に尊ばれているようで醜悪な趣味嗜好を隠している者です。悍ましい話ですが、子供を性的嗜好の対象にする大人もいます。ネーボムクは信頼に値する大人ですか?」

「信頼なんかできません!」

姉が鋭い声を出しました。ハンカチを握りしめた手が震えています。


「ヒンガリーラントの貴族の事を・・こんな悪く言うのは不快になられるかも知れないけれど・・でも。」

「構いません。何でもお話ししてください。そもそも私は一方の話だけを聞いて決めつけるような事はしませんから。」


・・どういう意味なのか一瞬考えてしまいました。


でも、考えてみればコンラート様と私達は今日が初対面です。それなのに

「あなた達の言う事を全て信じます。」

とか言われたら、その方がどうかと思います。

姉は感情がたかぶって声が出てこないらしく、代わりに母が話し始めました。


「ネーボムク夫婦は欲深い夫婦です。その欲を満たす為に残酷な振る舞いもできる人達です。おそらく強い立場の人には弱い態度をとるのでしょうが、自分より弱い立場の人には強く出る人達です。信頼のできない人達だと思っていましたので、子供達からは決して目を離さず、側から離れないようにしていました。子供達も夫婦を嫌い恐れていました。ただ、ネーボムク卿の屋敷にとても大きなネズミがいたのも事実です。」

「『約束』というのは、もう一人のお孫さんや義娘さんとされたのですか?それとも、ネーボムクとですか?」

「ティナーリア様とです。」

「そうですか。」

コンラート様はじっと考え込まれました。


「ネズミは病原菌を運んだりしますし、幼い子供にとって良い環境とは思えません。どう行動するのが最善なのか判断が難しいですが、一度レベッカに相談してみるのはどうでしょうか?レベッカは孤児院の院長達と親交があって、様々な情報を持っていますし行動力と経済力があります。もしレベッカが手に余ると言うようでしたら、私と父が必ず力になると約束します。」


「ありがとうございます。どうか、私達を助けてください。」

と言って姉は涙を溢しました。


こちらの様子を気にしていたのか、ニルスが姉が泣いている事に気がつきました。

「どうしたの、お母様?」

と言ってニルスが駆け寄って来ました。


「何でもないのよ。」

「でも・・・。」

「このタペストリーを作った、フリーデリーケ様という人の話を聞いていたの。」

と私はタペストリーを指差して、ニルスに嘘をつきました。


「フリーデリーケ嬢の人生に泣くようなポイントがあるだろうか?人生楽勝、順風満帆に呑気に生きてた人ってイメージがあるけれど。」

と言ってフィリックス様が首をひねられます。


「フィル、おまえなあ。戦争があった時代に国の為に犠牲になってくださった方だろうが。」

とルートヴィッヒ王子が言ってくださいます。しかしフィリックス様は


「そうかー。うちの母親と同じ種類の人に思えるんだけどなあ。」

と言われました。


「フィリックス様の御母堂は数百年に一人の天才と言われる数学者なのです。」

とオイゲンがこっそり教えてくれました。


「まあ、確かにフリーデリーケ嬢はヒンガリーラントを代表する天才なのは間違いないよな。だからその子孫のレベッカ姫も天才肌なんだよな。」

とルートヴィッヒ様が言われます。


「フリーデリーケは私達の先祖ではありません。私もベッキーも、フリーデリーケの兄の子孫なんです。」

「あんまり粘着質に執着していると婚約者に逃げられるぞ。」

「何でだよ、フィル!笑うな、ヨーゼフ‼︎婚約者を誇りに思っていて何が悪い⁉︎婚約者のいないおまえらや、婚約者が行方不明になっているコンラートに色々言われたくない!」


えっ?コンラート様の婚約者って行方不明なんですか⁉︎


私達のびっくりした顔に気が付かれたのでしょう。

ルートヴィッヒ王子は「ふっ」と笑い

「おまえの婚約者殿は、今どこにいるんだろうなあ。」

と言われました。


「私の婚約者なら、先日ヴァイスネーヴェルラントから戻って来て、エーレンフロイト家のセカンドハウスにいますが。」


ピタ!っとルートヴィッヒ王子の動きが止まりました。その後、グルン!っとヨーゼフ様の方を振り返られます。


「あー。らしいっすね。僕は会ってないけれど。姉様はお菓子山ほど持って会いに行ってましたけど。エリーゼ様と一緒に。」

「僕は聞いていないぞ!」

「何故、私の婚約者の情報を殿下に報告しなければならないんですか?」

コンラート様がものすごく冷たい声で答えられました。


その後、沈黙が流れます。


「あ・・あの、コンラート様の婚約者ってどんな方なんですか?」

と姉が聞きました。オイゲンにその話題は避けてくれ、って言われたのに!


「強い人ですよ。」

とコンラート様は言われました。

「心が剣のように強い人です。」


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