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シュテルンベルクの花嫁  作者: 北村 清
第1章 母の故郷(ふるさと)
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青鷹の間(2)

そのタペストリーは漆黒の布に布が縫い付けてありました。縫い付けられている布は、黄色や白やオレンジ色で全てが小さな丸い形なのです。そのタペストリーを少し離れた場所から見ると夜景のように見えました。


「エリカ様の作品『街の灯』です。」

とオイゲンが言いました。


やはり、これは夜景を描いたもののようです。アイディアに私は驚きました。普通、飾る為に作られるタペストリーはできる限り美しい布を使います。それを、これでもか!というくらい縫い付けた物が良いタペストリーとされているのです。

しかし、このタペストリーは真っ黒い布にポツポツと小さな布が縫い付けられているだけです。


だけど、胸が締め付けられるような目の離せない作品でした。


これは小さな街の平和な夜を描いたものです。全体の九割が黒いタペストリーなのに、暖色系の光がとても暖かいです。こんな平和なふるさとを、私は永遠に失ってしまったのです。

失って初めて気がつきました。それは何てかけがえのないものだったのでしょう。


「すごく素敵なタペストリーです。」

「このタペストリーは賛否両論、評価が分かれるのです。リナ様はこれを素敵だと言ってくださるのですね。」

「このタペストリーに否定的な方もいるのですか?」

「パウリーネ様などは、どこがいいのか全然わからない。まるで5歳児の作品だ。自分の作るものの方がよっぽど綺麗だ。と言っておられました。」

オイゲンには珍しい少し冷たい声でした。


「この作品の素晴らしさは技術ではなくアイディアだと思いますけれど。こういうデザインを思いついたというのが何よりすごいと思います。」

それから、ふっと思いました。


「フリーデリーケ様はどう思っていたのでしょうか?」

「フリーデリーケ様は今際の際に『私はついに、街の灯を超える作品を作り出す事はできなかった』と言われたそうです。」


それは流石に謙遜のし過ぎでしょう。

彼女が比類なき天才であった事は凡人の私でもわかります。


「フリーデリーケ様の作品もここにはしまってあるのですよね。見せて頂くことは可能でしょうか?」


「それはまた今度ね。王子殿下やコンラートさんを待たせるわけにはいきませんよ。」

と母に言われました。その通りです。フリーデリーケの作品が見られなかったのは残念ですが、いつかまた見る機会はあるでしょう。


私達が着替える事にしたので、オイゲンは部屋を出て行きました。部屋の中にいるのは私と母と姉とヨハンナ達複数の侍女だけです。


「エマ、リナ。髪を下ろしなさい。」

と母に言われびっくりしました。私も姉も、それに母も髪をアップにしてまとめています。ブラウンツヴァイクラントでは、朝起きてすぐに髪をまとめ、寝る前に下ろします。成人した女性の髪を下ろした姿を見るのは近しい使用人と夫だけなのです。


「私の為に髪をほどいてください。」

というのは、独身の女性が言われたらプロポーズ、人妻が言われたら不倫のお誘いの言葉なのです。


「ヒンガリーラントでは、太陽が出ている時間帯は髪をアップにしないのが公式の場でのマナーです。自分よりも身分が高い相手がいる昼食会や茶会では髪をまとめていてはいけないのです。」

「え?どうして?」

「聖女エリカが『一日中髪をアップにしていると、頭が禿げる』と言って、禁止させたからです。」


・・・・。

うちのご先祖様のせいですか!


まあ、確かにそれは事実ですけれど。だからブラウンツヴァイクラントでは年配の女性は付け髪を付けるのが普通です。むしろ、夜会などでは、どれだけ豪華な付け髪を付けているかを競い合うのです。


「思うところあると思いますが、郷に入っては郷に従えです。親族だけが集まる気のおけない集いではないのです。」

「・・・はい。」


「では、髪を解かせて頂きますね。」

と、ヨハンナがにこにこ微笑みながら言いました。


「どんな髪型がよろしいですか?お若いのだから、どんな髪型でも似合いますわ。髪飾りはどれにいたしましょう?ああ、腕が鳴りますわ。」


私は正直恥ずかしいです!

それに、どんな髪型も何もまとめ髪以外の髪型をした事がないからわからないです。どんな髪型が、このような状況における普通なのでしょう?


「え・・と。お任せします。」


国によってこんなにも『常識』が違うのだと、私はちょっぴり先祖を恨めしく思いました。


エリカ様が作ったタペストリーは、丸シールアートを大きくしたような作品です


次話にてやっと、やっと!コンラートが出て来ます

レベッカの弟のヨーゼフと婚約者のルートヴィッヒも登場します

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