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シュテルンベルクの花嫁  作者: 北村 清
第1章 母の故郷(ふるさと)
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青鷹の間(1)

私達がシュテルンベルク邸に来て三日が経過しました。


遂に明日、カロリーネ大叔母様が王都に到着されると連絡が届きました。そして、それに合わせて今日ずっと入院しておられたリヒャルト様の一人息子のコンラート様が退院される事になりました。

なので、屋敷内には明るい空気が漂っています。オイゲンもヨハンナもとても嬉しそうです。


私達はここに来て毎日、朝食と昼食は西館で家族でとり、夕食はリヒャルト様と一緒に本館でとっていました。なので、夕食の時にコンラート様にご挨拶できるだろう。と思っていました。


ところが。


「若君が戻って来られました。アルベルティーナ様の御長男ヨーゼフ様もご一緒です。・・それと、第二王子であられるルートヴィッヒ殿下と殿下の従兄弟であられるフィリックス公子がご一緒なのです。」

とオイゲンが報告に来ました。


「ルートヴィッヒ殿下が、ノエル様やエマ様リナ様それにニルス様と昼食をご一緒したいと希望しておられます。なので本館においで頂けますでしょうか?」


仰天しました。

ここはふらっと王族が現れて、昼食を一緒にとるような家だという事に衝撃を受けました。

私はブラウンツヴァイクラントの王子にさえ会った事はありません。まさかヒンガリーラントに来てヒンガリーラントの王子に会う事になるとは夢にも思っていませんでした。


「王子殿下がお越しになられるだなんて、こんな・・こんな事はよくある事なのですか?」

と姉もテンパっています。

オイゲンは首を横に振りました。


「当家でも初めての事で我々も動揺しております。若君が風邪を引かれた時、お見舞いにリンゴを持って訪ねて来てくださった事はあるのですが、昼食をご一緒されるというのは初めての事です。」


親しい友人同士ではあったみたいです。母が

「王子殿下がご一緒というのでしたら、この格好というわけにはいきませんね。正式な茶会服に着替えましょう。オイゲン。『青鷹の間』を開けようと思いますので立ち会ってくれるかしら?できればヨハンナと一緒に。」

と言いました。


「かしこまりました。」

とオイゲンはすぐに言ってくれました。


「エマ、リナ。『青鷹の間』に行きましょう。」

と言われて私は胸が高鳴りました。

『青鷹の間』は、シュテルンベルク家の財宝室で、聖女エリカやフリーデリーケが作ったタペストリーが収蔵されていると聞いています。

それを一目見られるかもしれない。と思うと胸がワクワクしました。


私達は本館に向かいました。オイゲンの案内で『青鷹の間』にたどり着きましたが、本館が広すぎて、正直一人では迷ってしまってたどり着けないと思いました。

というより、財宝室です。わざとわかりにくい場所になっているのでしょう。


ドアも特別な物ではなく非常にシンプルな普通のドアでした。見ただけではとても財宝室のドアとは思えないドアです。


「どうして『青鷹の間』というのですか?」

と私が聞くとオイゲンは言い辛そうに教えてくれました。


「以前にはここには、目が青い宝石でできている鷹の彫り物が彫ってあるドアがついておりました。ですが先代の伯爵であるエルハルト様が亡くなられた後、エルハルト様の奥様であられたパウリーネ様が新しく伯爵夫人となられたエレオノーラ様にこの部屋の鍵を渡すのを拒否されたのです。それでリヒャルト様がドアごと鍵を取り替えてしまわれたのです。」

「・・そうなのですか。」


『先代のエルハルト様』の事は度々耳にしていましたが、奥様の話は初めて聞きました。

そういえば夕食の席でリヒャルト様は色々な話をしてくださるのですが、御母上の話は聞いた事がありません。いったいどのような御方だったのでしょう?


『青鷹の間』のドアは二重扉になっていました。中はかなりの広さです。少し暗く感じるのは窓の数が少ないからです。入ってすぐの場所にはたくさんのドレスが並んでいました。

歴代の夫人方や御令嬢が着たドレスもあるのでしょうし、シュテルンベルク家のパーティーでワインをかけられたとか、ハサミで切り付けられた、などのトラブルがあった時、代わりのドレスを貸してあげる事ができるよう用意されているのでしょう。



「ヒンガリーラントの昼食会や茶会は襟のあるドレスを着て、ブローチをつける事がルールです。貴女達、自分の身長に合うドレスを選びなさい。」

と母に言われ私は悩んでしまいました。

ドレスはものすごい数あるのです。数枚しかなかったら悩む事もないのですが、量が多過ぎて全部を確認していたら昼食の時間に間に合いません。

こういう時は、自分の髪色や目の色と同じドレスを選べば失敗がないのですが私の髪と目の色は黒なのです。夫と一緒に出席した夜会などで白地に黒やグレーなどのモノトーンの服を着ると

「ああ、辛気臭い。見てるだけで暗い気持ちになるわ。」

と姑に言われたものでした。


姉は自分の髪色と同じ朱色のドレスを選びました。色被りは避けた方が良いので寒色系のドレスを選んだ方が良いでしょう。


「リナ様。こちらのドレスなどいかがでしょうか?」

とヨハンナが若草色のドレスを薦めてくれました。

「ちょっと・・胸が開きすぎではありませんか?」

「リナ様はお若いのですもの。これくらい普通ですわ。」


そりゃあまあ、ヨハンナに比べたら若いですけれど世間的には若くはないんですよ!


コンラート様もルートヴィッヒ殿下もフィリックス公子も20歳と聞いています。ヨーゼフ様に至っては14歳です。そんな若者達を相手に若づくりはしたくありません。


結局私はもう少し露出の低い青灰色のドレスを選びました。母自身は白と濃いグレーのドレスです。


「ブローチは今、どのようなものがヒンガリーラントで流行っているのかしら?」

と母がヨハンナに聞きます。


「今の流行はバイカラーの宝石を使ったものでございます。」

「では、バイカラーの宝石でできたブローチとあとシェルカメオを出してもらえる?」


私達が靴を選んでいる間に、ヨハンナが引き出しのたくさんついたチェストを次々と開けていきます。


やがて、ベルベットの布を敷いたトレイの上に20個ほどのブローチをのせて運んで来ました。どれも大きな石や貝がついた見事なデザインのブローチです。赤と緑のバイカラーのものはトルマリンかな?と思いますが、他の宝石はよくわかりません。ただ、これを全部売ったら、死ぬまで遊んで暮らせるんだろうな。という事はわかります。


「どれが、この服に合うと思います?」

とこれは決定をヨハンナに丸投げしました。ヨハンナが選んでくれたのは青と紫のバイカラーのサファイアでした。

姉は楽しそうに自分でブローチを選んでいます。私はキョロキョロと周囲を見回しました。


「初代伯爵夫人が作ったというタペストリーがここにはあるのですよね?」

「ええ、あちらの壁に飾ってあります。」

と母が指差したのは、ドレスの林の向こう側でした。ドレスが邪魔で壁が見えません。私は服を避けて歩きながら壁に近寄ってみました。


「まあ!」

そこにあったのはとても不思議なタペストリーでした。

ルートヴィッヒ王子がリンゴを持ってお見舞いに来た相手は本当はレベッカです

だけどレベッカは、とっくに自分の家に帰っていました。

レベッカが母親の実家を訪問して、レベッカ以外のほとんどの人が風邪をひいた話は『侯爵令嬢レベッカの追想』の五章で紹介しています。

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