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シュテルンベルクの花嫁  作者: 北村 清
第1章 母の故郷(ふるさと)
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リスとウサギとアヒル

とんでもない量ですよ、お母様!


でも、戦慄わなないているのは私と姉だけです。後の人は皆平然としています。

上級貴族がこういう買い方をするのは珍しい事ではないのでしょう。


昨日一日で、上級貴族の在り方をだいぶ知ったつもりだったのに私はまだまだわかっていない。と、つくづく思いました。


母が帰化をすれば、未婚の私も母と同じシュテルンベルク姓を名乗る事になります。

私、この家の一員らしくなる事ができるかな?とものすごく不安になりました。


そして馬車は、シュテルンベルク邸に戻って来ました。


「タルトは、午後のお茶の時間に出してちょうだい。全種類を一つずつ出してくれる?残りのタルトは使用人と騎士達で食べてね。」

「ありがとうございます、ノエル様。皆が喜びます。」

とオイゲンが言いました。


あ・・なるほど。最初からこのつもりで大量に買ったんですね。


シュテルンベルク邸の使用人達は皆優しく、とても親切です。母は御礼のつもりでお土産を買って帰ったのでしょう。そして、このような振る舞いをするから、使用人の愛情や忠誠を更に主人は得られるのです。勉強になりました。


屋敷に戻るとニルスが満面の笑みで駆け寄って来ました。


「お母様。ウサギ、すっごく可愛かったんだよ!」

そう言ってウサギのように飛び跳ねながら私達に報告してくれます。


「五匹いたのだけどね。すごくモコモコでふわふわでモフモフなの。名前はね。まだ決まってないんだって。」

家畜は名前をつけると食べられなくなると言いますからね。


「だからね。僕が考えてつけてもいいって。五匹とも女の子なんだ。なんて名前がいいかなあ。」

どうやらオスから先に食べられてしまっていたようです。


楽しそうなニルスの姿に微笑ましいというよりも不安になりました。食卓にウサギ料理が出てきたら、ニルスがショックを受けるのではないでしょうか?


「ねえ、お母様も見に行こうよ。本当にすっごく可愛かったんだ。」

と言ってニルスが姉の腕を引っ張ります。


「その前にお昼ご飯を頂きましょう。」

と母が言いました。

「はーい。」

とニルスが元気に返事をします。


ウサギ料理だけは出て来ませんように。と神に祈りを捧げました。



シュテルンベルク家の昼食はサンドイッチだけ。と、昔から決まっているのだそうです。

ただしそのサンドイッチは地層のように厚みのある豪華な物でした。

ウサギ肉のサンドイッチは出て来ませんでした。出て来たお肉はベーコンです。ニルスは果物が丸ごと入った生クリームサンドに目が釘付けでした。


「こちらのマグロのコンフィをマヨネーズソースで和えたサンドイッチがコンラート様の一番お気に入りのサンドイッチなのですよ。」

とヨハンナが説明をしてくれます。

コンラート様、というのはリヒャルト様の一人息子です。少し前に、凶悪な事件に巻き込まれて大怪我をし、現在も入院中だと聞いています。


せっかくのおすすめなので、私達は全員マグロのサンドイッチを手に取りました。魚料理を食べた事が無かったので不安でしたが、一口食べてそのおいしさにびっくりしました。生臭さなど一切無く、肉より遥かに柔らかくて食べやすいのです。


「おいしい。」

「本当においしいわね!」

と私達は口々に語り合いました。


昼食が終わると、皆で裏庭にいるウサギを見に行く事にしました。メンバーは、母に私、姉にニルスにベルダ、ヨハンナにオイゲンそれと騎士のセラフィナです。

ウサギ達の為にヨハンナが、ニンジンのスティックを用意してくれました。


『裏庭』と一口に言っても、ものすごく広いです。たくさんの木々が生える林の中を歩いていると、茶色い生き物が目の前を駆け抜けて行きました。


「リスだ!・・可愛い。」

とニルスがつぶやきました。


「ここには、しいの木が30本植えられています。それで、たくさんのリスが住み着いているのですよ。」

とオイゲンが教えてくれました。


「ノエル様が可愛がっているシルフィがお腹を空かせる事になったらノエル様が悲しまれるとおっしゃって先代の伯爵であるエルハルト様がお植えになったのです。」

母に聞こえないように、私とお姉様にだけそう言ってくださいました。


優しいお兄様だったのだな。というのが伝わって来るエピソードです。

ふと不思議に思いました。

母が不仲だった相手はお祖父様です。そのお祖父様は25年前に亡くなっています。でも、エルハルト様が病気で亡くなったのは数年前だそうです。なのにどうして、お母様はエルハルト伯父様と交流を再開しなかったのでしょう?母はエルハルト伯父様の葬儀にさえ出席しなかったのです。


「あそこだよー。」

と言ってニルスが駆け出しました。林が開けた場所に柵があって動物が飼われているようです。

柵の中には丸太小屋や、滑り台などの遊び場があってかなりの広さです。そこにモフモフした毛玉達がいました。


私は少し驚いてしまいました。


私は田舎暮らしをしていた頃、野生の野ウサギを見た事があります。だけど、ここにいるのは別な生き物のように見えます。野ウサギとは比べ物にならないほど毛が長いのです。


柵はニルスの腰くらいの高さです。

ヨハンナがニルスにニンジンのスティックを一本渡すと、ニルスは柵の中に手を入れてニンジンを振りました。ウサギ達がニルスの側に駆け寄って来ます。モフモフな生き物達がお尻ふりふり寄って来る様は、本当にとっても可愛らしいです。一番最初に到着したウサギがニンジンにぱくっと噛みつきました。必死になって口をもぐもぐさせている様がまた、ものすごく可愛らしいです。ニルスはニンジンを持っていない方の手でウサギの背中を撫で始めました。


「皆様もどうぞ。」

と言って、ヨハンナが私と母と姉とベルダにニンジンのスティックをくれます。私達もそれぞれ、残りのウサギ達にスティックを差し出しました。ウサギ達がもぐもぐとニンジンを食べ始めます。


ううぅ。可愛い!


ニルスが持っていたニンジンを食べていたウサギがニンジンを食べ終わりました。そのタイミングでオイゲンがウサギを抱き抱えます。

「ニルス様。抱っこしてみますか?」

とオイゲンが聞くと

「うん!」

とニルスが言いました。


「可愛い!可愛い!」

とニルスはずっと言い続けています。


「シュテルンベルク領は、養兎業が盛んなのです。農家の副業としてエルハルト様が推奨されたのです。」

とオイゲンが言いました。


「農家の副業ですか?」

と私は聞きました。


「ええ。この長い毛を集めて織物を織るのです。シュテルンベルク領は羊や山羊を飼うのにはあまり向かない土地柄ですので。」

「そうだったのですか。やだ、私ったらウサギを飼っていると聞いててっきり食用かと。」

「・・・・。」

オイゲンやヨハンナが気まずそうな顔をして黙り込みます。


お母様が私に小声で言いました。

「羊や山羊だって農家の方々は食べるでしょう。」


・・・あ、やっぱりそういう用途もあるのですか。


「あ、あちらの池にアヒルがいるよ。」

とニルスが言いました。そのおかげで空気が変わりました。


「昔はニワトリしかいなかったけれど、今はアヒルも飼っているのね。」

と母が言いました。


「ええ。伝染病が流行していた頃、卵が手に入りにくくなったので飼いだしたのです。エーレンフロイト家で飼っていたアヒルを二羽譲って頂きました。」

とヨハンナが答えます。


「あの子達は名前があるの?」

とニルスが聞きました。


「ええ、レベッカ様がおつけになった名前があるんです。右の子がアフで左の子がラックというのですよ。」

「へー。」


どういう意味の名前なのか、お会いした時に聞いてみたいな。と思いました。


どういう意味の名前なのか、アヒルの名前の由来を聞かれたらきっとレベッカは困ってしまうでしょうね(^◇^;)


ノエルが父親の死後もエルハルトやアルベルに会いに来なかったのは、エルハルトの奥さんがものすごい鬼嫁だったからです

父親が死んだ時葬式に来たのはエルハルトに会う為ですが、エルハルトが死んだ時は意地悪な兄嫁が喪主だったので、葬式に出席しませんでした

シュテルンベルク邸は年配の使用人が多い、とリナが思うシーンがありましたが、シュテルンベルク家はエルハルトの妻のせいで一時期財政が傾いていました。その時、使用人を幾らか解雇したのですが、再就職がしやすい若い人を解雇し、再就職の難しいお年寄りを屋敷に残したので、シュテルンベルク家の使用人は平均年齢が高めなのです

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