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シュテルンベルクの花嫁  作者: 北村 清
第1章 母の故郷(ふるさと)
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シュテルンベルク邸

「ねえ、今ってお母様の実家に向かっているのよね。アルベルティーナ叔母様の家でもカロリーネ大叔母様の家でもなくて。」

私は、ふと気がついてそう言いました。


「ええ、そうよ。」

「アルベルティーナ叔母様は結婚しておられるのよね?」

「ええ、結婚した時連絡が来たわ。」

「どんな方と結婚しておられるの?」

「エーレンフロイト侯爵という方よ。初代は国王陛下の弟だったという、歴史ある名門家ね。」


侯爵家っ!


という事は叔母様は侯爵夫人という事です。ならば確かにお金持ちでしょう。正直、圧倒されてしまいます。


「カロリーネ大叔母様は?」

「叔母様は、お父様の部下だった海軍の方と結婚されました。もうお亡くなりになっておられるけれど。」


大叔母様には子供がいなかった。と、確かお母様は以前言われました。子供のいない未亡人の立場とは、ヒンガリーラントではどのようなものなのでしょう?ブラウンツヴァイクラントでは、未亡人や離婚された女の立場はとても弱いです。だからこそ、親は娘が結婚する時花嫁持参金を持たせるのですし、救済の為に一夫多妻という制度があるのです。それでも、大抵の人が厳しい生活を送る事になり、だからアリゼの母親などは夫が死ぬとすぐ娘のアリゼを娼館に売ったのです。


馬車は広い石畳を進んで行きます。この王城特区の中にある館は皆、広大な豪邸であるらしく、美しい塀がどこまでも続いています。


ある地点で右折し、更に馬車は進んで行きました。


そして、とある門の前に馬車は辿り着きました。門の側に騎士が二人立って門番をしています。騎士が門を開け馬車は敷地内に入って行きました。


「うわあ。」

ずっと、借りて来た猫を更にまた貸ししたくらいおとなしくしていたニルスが言いました。

門から続く道の左右に、さくらんぼの木がたくさん生えていて、桜の並木道になっています。ざっと見ても二十本以上あるでしょう。そして、その全てにたわわにさくらんぼの実が実っています。


家の人は収穫しないのかしら?もったいない。とつい、さもしい事を考えてしまいました。


「初代伯爵夫人が、桜の木がとてもお好きだったらしいの。」

と母が言いました。


「花の季節は綺麗でしょうね。」

姉が、うっとりとした表情で言いました。


「ええ、すごいわよ。けむ・・・蝶もすごいけれど。」


今、毛虫と言いかけました?まあ、これだけ木があったらすごいでしょうね。


馬車は並木道を抜け、更に進んで行きます。


門から館までが遠い!


どれだけ広い庭なのでしょうか⁉︎


馬車は更に進んで行きます。途中、広い池がありそこには蓮の花が咲いていました。


やがて、屋敷が見えて来ました。大きい!という事に今更ながら驚きました。巨大な屋敷にはたくさんの大きな窓が付いていて、全てにガラスが入っています。ガラスは高級品です。それが、あれだけの数あるなど、ものすごい財力です。

そんな屋敷の入り口の前に、ずらりと使用人が並んでいるのが見えます。すごい数です。そして、これが全員というわけではないのでしょう。


馬車が止まり、私達は馬車の外に出ました。セラが手を差し伸べてくれます。ニルスの事は抱き上げて降ろしてくれました。


並んでいる使用人達の向こうに階段があり、二人の男女が立っていました。黒い髪、黒い瞳の背の高い男女で、年齢は二人共30代の後半でしょう。

その女性の方が私達の方に駆け寄って来ました。


「お姉様!」

女性の目は涙で潤んでいました。


「良かった。また無事にお会いできるなんて本当に良かったです!」


背の高い女性です。

母の身長は、女性としての標準だと思うのですが、母より10センチくらいは背が高そうです。


「ええ、私も。貴女に会えてとても嬉しいわ。」

「お姉様。変わっておられませんね。」

「何を言うの。すっかり白髪が増えてしまったわ。貴女は・・変わったわね。最後に会った時、貴女は12歳でしたもの。」


この会話の流れからして、この女性がお母様の妹のアルベルティーナ叔母様のようです。


想像と違った・・・。と思いました。

六人兄妹の年の離れた妹で侯爵夫人、と聞いていたので、もっと高慢そうな意識高そうな女性を想像していました。


でも、目の前の女性は親しみやすい、温かな雰囲気の女性でした。

見た目はキツそうな女性なのです。吊り上がった切れ長の黒い瞳は、無表情だったらかなりの威圧感を感じるでしょう。


でも、その黒い瞳を涙で潤ませて母の手を握っています。使用人達を前に大袈裟な演技をしているような、そんな風には見えません。

心から、姉である母との再会を喜んでいるように見えます。

だいたい、私達の事を玄関先にまで出て来て待っていてくださったのです。その思いやりに感動しました。


アルベルティーナ叔母様は私や姉の方を見て微笑まれました。


「お姉様の御子さんと御孫さんね。紹介して頂けるかしら。」

母が口を開こうとしましたが、その声をアルベルティーナ叔母様の隣の男性が遮りました。


「アルベル。叔母上達は長い旅をして来られてお疲れのはずだよ。中へ入って頂こう。自己紹介なら、中でもできるのだから。」

「あ!そうよね。ごめんなさい。私ったら・・・。」

アルベルティーナ叔母様が顔を赤くされました。


「リヒャルト・フォン・シュテルンベルクです。お久しぶりです、叔母上。おかえりなさい。」

男性が柔らかく微笑まれました。


「ありがとう。」

そう言って母は懐かしそうに、目の前の屋敷を眺めました。母にとっては、不仲だった父親、仲の良かった姉、行方不明になってしまった兄など、様々な人達との思い出がある屋敷なのでしょう。


「さあ、みんな。どうぞ。」

とリヒャルト卿が言い、私達は屋敷の中に入りました。


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