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シュテルンベルクの花嫁  作者: 北村 清
第1章 母の故郷(ふるさと)
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王城特区の中へ

「お母様。」

まず、何から聞こうかと私は悩みました。


そんな私は今ものすごく、豪華な馬車に乗っています。

座席はベルベットで、とても柔らかく座り心地が良いですし、内装にはたくさんの装飾が施されています。座席に置かれたクッションは絹製で、これでもか!というほどの金糸と銀糸が縫い込まれています。そして馬車の中は広くて、まるで圧迫感がありません。


「何かしら、リナ?」

「お母様の名前は、ノエルではなかったのですか?」

「ノエルは、お母様やお姉様が呼んでくださっていた愛称です。戸籍上の名前はノエライティーナです。」

「・・初めて知りました。」

「自分の名前があまり好きではなかったの。父は男の子しか欲しがってはいなかったので、ノエライトという男の子の名前しか出生前に考えていなかったそうです。でも、生まれて来た私が女だったので、母がノエライティーナという名をつけたのです。」


という事は、アルベルティーナ叔母様も男だったなら、アルベルトという名前だったのかしら?と思いました。


母は自分の母親が死んだ後、結婚する姉について家を出て行き家族との縁を切ったと言っていました。実の父親とはうまくいっていなかったのだろう、という事は予測できます。


「お母様は、というかお母様のお父様は貴族だったのですよね。もしかして爵位を持つ貴族なのですか?」

「ええ、生家は伯爵家です。」


伯爵!


別れた夫の親戚は子爵でした。つまり、夫の本家より上です。


「この馬車を取り囲んでいる人達は騎士ですよね。騎士団を持っている家なのですか?」

と姉が聞きました。


「ええ、そうです。」

「じゃあ、アリストとセラはお母様の実家の騎士団の騎士なのですか?」

「そうです。」


レーリヒ卿の護衛ではなかったんだ。私達の迎えだったようです。


「私がレーリヒ卿を信頼し、王都に連れて行って欲しいと頼んだのは妹からの手紙にレーリヒ卿が信頼できると書いてあったからではありません。アリストがいたからです。アリストは長兄のエルハルトお兄様の護衛騎士でした。」

「そうだったの⁉︎お母様。」

私はびっくりしました。


「だったら、そう教えてくれたら良かったのに。私、レーリヒ卿を本当に信頼していいのか?人身売買組織に売られたらどうしよう?ってずっと不安だったのよ。」


ちなみにレーリヒ卿はもういません。

「それでは、失礼致します。御用命の折には是非、商業区のレーリヒ支店へお越し下さい。」

と言って、帰って行ったのです。


「美男子過ぎて胡散臭かったものね。」

と姉も言いました。そうなんです。レーリヒ卿は無駄に美しい人でした。そのせいで、ロマンス系詐欺師にしか見えなかったんです。

でも一介の善良な商人だったのなら、もっと愛想良くすれば良かった。もっと顔を鑑賞しておけば良かった。と思いました。


「騎士団がいるって、すごい!カッコいい‼︎」

とニルスが言いました。しかし、母は


「田舎者の証ですよ。辺境に領地のある、外国と国境を接している領地だけが騎士団を私有できるのです。」

と言いました。

「領地が辺境にあるの?」

と私は聞きました。

「国の最も南東にあります。」


最も南東にある領地。何かで聞いたような気がします。


「あ!セラのふるさと。確か、シュテルンベルク。」

私は息を飲みました。


「シュテルンベルクというのが、お母様の名字だったのですか?」

「ええ、そうです。」

「初代伯爵夫人が聖女様という・・・。」

「国の長さと同じ歴史を持つ家門です。いろんな先祖がいましたよ。」


思わずくらりと来ました。

私の想像を遥かに超える名門家だったようです。


そういえばお母様。紅茶に入れるのにたくさんの蜂蜜の中からわざわざ、シュテルンベルク家の蕎麦の蜂蜜を選んでいました。


「父は誇り高く、傲慢な人でした。兄は穏やかな人でしたけれど。二人共亡くなって、今の当主は兄の一人息子ですがどのような為人ひととなりなのかはわかりません。親戚だからといって馴れ馴れしい態度をとってはなりませんよ。」

母に釘を刺されました。


「ティナーリア様やフェルミナ様の事で助けを求めたいという気持ちがあなた達には当然あると思います。でも、伯爵家の当主にしてみれば、周囲からの陳情は日常的な事なのです。親戚や寄子達から様々な請願が寄せられて、その九割が断られています。そして一度断られてしまえば、同じ頼みは二度はできません。だから、慎重になりなさい。自分の願いを叶えたいのなら、注意深く行動しなくてはなりません。」


「具体的に、どうすればいいのですか?」

真剣な表情で姉が聞きました。


「現在のシュテルンベルク家の当主は、何年か前に奥様を亡くして独身だと聞いています。独身の貴族が国王の側妃であるティナーリア様を援助する事は双方にとって醜聞になる為、表立っての支援はほぼ不可能でしょう。支援して頂く為にはカロリーネ叔母様に間に入って頂くしかないと思います。カロリーネ叔母様が説得できるかが鍵になると思います。人を説得するには時間がかかるもの。焦らずに時間をかけましょう。トンネルを利用できたおかげで、時間には余裕ができましたから。」

「わかりました。」

神妙な表情で姉がうなずきました。


突然、馬車が止まりました。

窓から覗いてみると、前方に巨大な城壁が聳え立っています。

馬車のドアが開き、セラが話しかけて来ました。


「失礼します。王城特区の城門を通る時は王室の馬車以外、全て中を検める事になっているのです。」


外に出た方が良いのかと思いましたが、その必要はないようです。兵士が中を覗いて人数の確認をしました。身分証などを提示する必要もなく、馬車はすぐに中に入れました。


「あまり厳重な警備ではないのね。」

「きっと、私達が顔を洗っている間に、私達が通る事を連絡しておいてくれたのですよ。」

と母が言いました。


王城特区の中は、今までより道が広く美しく整備されていました。ある意味、こんな所に屋敷があるって本当に名家なのだと改めて感じさせられました。従兄とはいえ、そのような家の当主に会うという事にひどく緊張してきました。

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