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シュテルンベルクの花嫁  作者: 北村 清
第1章 母の故郷(ふるさと)
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羽と睡蓮の騎士団

船は正午過ぎ、ヒンガリーラントの王都の城門をくぐりました。


船の窓から見える王都は美しく活気があります。

平和そうだなー、と、つい考えてしまいました。私の故郷はあんなに混乱しているのに、いったい何があんなにも運命を分けてしまっているのでしょう?

王様でしょうか?それとも政治家でしょうか?一人一人の国民性でしょうか?

考えてもわからない事です。


やがて、ゆっくりと動いていた船が止まりました。


私は、まだタングラムに夢中になっているニルスにパズルをセラに返すよう言いました。

ニルスはとても残念そうな表情をしています。そんなニルスにセラは微笑んで、パズルをプレゼントすると言ってくれました。

優しいセラとは、王都に着いたらお別れでしょう。短い付き合いでしたが、私は彼女の事が好きでした。これで、お別れなのかと思うと少し寂しくなります。

セラとアリストは、今まで纏っていなかったアイボリーのローブを纏っていました。

右肩に鳥の羽と睡蓮の花が刺繍されています。お揃いだなんて、本当に仲の良い親子なんだな、と思いました。


これからどうやって、アルベルティーナ叔母様の家に行くのだろう?と考えました。

馬車でしょうか?徒歩でしょうか?レーリヒ卿が案内してくれるのでしょうか?


昨日寝る前に私は姉と、アルベルティーナ叔母様について色々と話をしました。


「多分、お金持ちよね。」

というのが私と姉の結論です。


ここへ来るまで莫大なお金がかかっているからです。そのお金を出してくれているのは、レーリヒ卿ではなくきっと叔母様でしょう。

その事実に、嬉しいというより不安になります。会っても会話する事があるかしら?と思ってしまいます。


レーリヒ卿が私達の部屋のドアをノックして

「船を降りましょう。」

と声をかけてくださいました。


他の乗客達も次々と船を降りています。私達は彼らとは違うタラップから船を降りました。どうやら、客室の違いで降りる場所が違うみたいです。降りた後、私達は彼らとは違う建物に入りました。


「こちらへどうぞ。」

と船会社の方に案内をされます。案内された場所は豪華な応接室でした。中央に豪華なソファーセットがあります。私達は座るよう船会社の人に勧められました。『私達』というのは、私と母と姉とニルスとベルダです。レーリヒ卿はいませんが、アリストとセラはドアの前にまるで警備するよう立っています。


「何か御希望はございますか?」

と船会社の方に聞かれました。・・・何が求められているのでしょう?そもそも、どうしてここへ通されたのでしょう?


私と姉が顔を見合わせていると母が


「お湯を頂けるかしら?顔を洗って化粧を直したいの。」

と言いました。


「かしこまりました。」

と船会社の職員が言って一分も経たないうちに、お湯の入った木桶が五つ運ばれて来ました。フカフカなタオルまでついています。


「ありがとうございます。」

と私達は言いました。正直、すごく嬉しかったです。初対面の親戚に会う前に少しでも身綺麗にしておきたかったからです。

じゃぶじゃぶと顔を洗って拭いていると

「どうぞ。」

と、更に何かが出てきました。


びっくりしました。


化粧水と保湿クリームを差し出されたのです。


「・・私にまで良いのでしょうか?」

とベルダが、おののいています。


「船会社のご厚意よ。甘えさせて頂きましょう。でも、まず自分の肌に合うかどうか、手の甲に塗って確かめた方が良いわ。」

母の指示に従い、私達はまず手の甲に化粧水とクリームを塗りました。化粧水もクリームも、すっと馴染んで染み込みました。このクリームは、すっかり荒れてしまった手にも良さそうです。

それにしても、ここまでサービスしてくれるなんて、船に乗った事の無い私には衝撃です。


しかし、更に!

すごい物が出てきました。紫紅色、蘇芳、銀朱、そして桜色の口紅が出て来たのです!


「エマには銀朱、リナには桜色が似合うわ。ベルダは蘇芳で良いかしら?」

そう言って母自身は紫紅色の口紅を手に取りました。


「・・不思議な容器ね。」

と姉が言います。

「ハマグリという、海でとれる二枚貝の殻よ。ヒンガリーラントでは化粧品や薬を入れるのによく使われるわ。手鏡を貸して頂けるかしら?」

後半の母のセリフは、船会社の人にです。

「申し訳ありません!すぐお持ちします。」

と言って、本当にすぐに四枚の手鏡を持って来てくれました。こちらの方が申し訳ないです!


でも、久しぶりに紅をさすと、気持ちが上向きました。そんな私の横で母が口紅や保湿クリームを、自分の荷物の中にしまっています。


「・・これ、もらっていいの?」

「ええ。大丈夫なはずよ。だいたい、人の使いかけなんて、他の人は使えないでしょう。手鏡は返さないと駄目だけど。」


これだけ美しい紅は相当高額なはずだけど、本当にいいのかしら?と不安になります。

そんな私に母は言いました。


「じゃあ、そろそろ行きましょうか。」

誰かを待っている。とか、何かの用事があるとか、ではなかったの!


私は目をシロクロとさせてしまいました。姉も同様です。まあ、姉の瞳の色は黒い私と違ってヘイゼルですが。


「どうぞ。」

と言ってセラが、ドアを開けてくれます。

私達は外に出て。


腰が抜けるかと思いました。


広い廊下に十数人の人間が左右にずらりと並んで立っていました。全員帯剣し、右肩に鳥の羽と睡蓮の花が刺繍されたアイボリーのローブを着ています。


全員が同時に右手を左肩に当て頭を下げました。


一番手前にいた、一番年上に見える男性が言いました。

「王都支団長のブルーノ・ヴォーヴェライトです。ノエライティーナ様をお迎えに参りました。」


「お迎えありがとう。」

抑揚の無い声で母が言いました。


迎えがいるとわかっていて、のんきに顔を洗っていたの⁉︎


この時私は、唐突に天啓を受けました。


そうだ。アルベルティーナ叔母様はお金持ちだ。そんなお金持ちと結婚できたという事は実家も同レベルにお金持ちなんだ。

つまり、お母様の実家はお金持ちなんだ。


子供の頃から不思議だったんです。うちのお母様って、まるで大貴族の一員のように品があるよなあ、って。

不思議も何も、母は上流階級の育ちだったのです。


でも、それならそれで言っておいて欲しかった!


私は、どっと背中に汗をかきながら廊下を歩き始めました。

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