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シュテルンベルクの花嫁  作者: 北村 清
第1章 母の故郷(ふるさと)
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パズル

蒸気船が動き出してすぐ。


「お母様。船の中を見て回ってもいいですか?」

とニルスが飛び跳ねながら聞いてきました。男の子だし、大きな物や機械に興味津々なのでしょう。だけど一人で行かせて、河に転がり落ちたりしたら大変な事になります。というか、そんな事になったら多分死ぬでしょう。


「いいけど、お母様も一緒に行くわ。」

と姉が言います。

咄嗟に

「私も。」

と言葉が出てきました。


実は私も興味津々なのです。どうして、こんな大きな物が水に浮かんでいるのか?どういう構造になっているのか?勿論、乗客が見られる所は限られているでしょうが、少しでも見てみたいです。


セラが、廊下に続くドアを開け

「父さん。」

と言いました。


「エマ様とリナ様とニルス様が、船の中を見て回りたいとおっしゃっているわ。」

「うむ。わかった。護衛を務めさせて頂きます。」


色々な疑問が頭を駆け巡りました。


この護衛の二人は親子だったのか。とか、廊下に立って護衛をしてくれていたのか。とか、セラがここに残って父親が私達について来たら誰がレーリヒ卿の護衛をするのか?とか、です。


しかし

「わーい。」

と言ったニルスが廊下に飛び出して行き、聞く事ができませんでした。


「ニルス、お母様と手を繋ぎましょ!」

と姉が慌てて言います。


「あの・・別に護衛なんて大丈夫ですよ。」

と私は言いました。が。


「駄目です!明らかにガラの悪い連中がいましたもの。お嬢様方に何かあったら。」

とセラが言いました。

結局、同行してもらう事になりました。

姉とニルスが並んでいるので、私と護衛の方がその後ろに並ぶ形になりました。


「リナ・フォン・エーデルフェルトです。あの・・ありがとうございます。」

「アリスト・ガーランドと申します。よろしくお願い致します。」

「セラさんと親子なのですか?名字が違うようですが。」

「あんな、跳ねっ返りでも嫁にもらってくれた物好きがおりましてね。」

「あ・・そうですよね。年齢的に。当然ですよね。」

「いえ。妻も私も『奇跡!』と思っております。」


真顔でそう言われたので、思わず笑ってしまいました。仲の良い父娘なのでしょう。もし、今でもお父様が生きていてくださったら。ふと、そう考えてしまいました。


階段を上がり甲板に出ると、流れて行く景色を見ている人が何人か甲板に立っていました。船は美しい緑の中を進んで行きます。


その中に20歳前後の男性の集団がいました。結構な強風が吹きつけていて寒いのに、これから内科の検診を受けるのですか?と聞きたくなるほどシャツの前ボタンを開けています。耳には迷信深い村でシャーマンでもしているのだろうか?と疑問に思うほどリングのピアスをつけていました。刺青を腕や顔に入れていますが、ああいう人達がヒンガリーラントにおける『普通』の若者なのだとしたらヒンガリーラント人とは分かりあえそうにありません。


ニルスを見ている姉は気がついていないようですが、その男達は磁石に吸い寄せられる砂鉄のように姉に寄って行きます。しかし、アリストさんが殺気を放ちながら睨みつけると男達はすすすー、と離れて行きました。


「少し前の事ですが、王都で外国から観光で訪れた少女が若い男共に拐かされるという事件があったのです。外国人が相手なら訴えられない。泣き寝入りするに決まっていると思い込む馬鹿が時々いるのですよ。どうか、お気をつけ下さい。」

とアリストさんが言いました。

「私、外国人って一目で分かりますか?」

「そうですね。前髪を伸ばす女性はヒンガリーラントでは珍しいですから。それにろくでもない者に限って動物のように勘が鋭いものなのです。」


そうだとしても、私達のようなおばさんに声をかけなくても。と思いますが、船の乗客に10代の女の子はほぼいないようです。外国人なら尚更です。


「くしゅん。」

とニルスがくしゃみをしました。風がかなり冷たいのです。


「大丈夫、ニルス?」

と私が言った声は


「てめえ、人の女に手ぇ出そうとしてるんじゃねえよーっ!」

という大声にかき消されました。


「はあっ!何言ってやがる。そんな年増のブスに興味ねえよ!」

「何だとてめえ・・・。」

「・・・・。」


ニルスにはとても聞かせられない、汚い言葉の応酬が行われます。

筋肉ダルマのような男性と、上等な服を着た10代と思われる男性が怒鳴り合っています。筋肉質な男性の横にはものすごく布の少ない服を着た女性が立っていました。あの女性、寒くないのでしょうか?


「部屋へ戻りましょう。」

とアリストさんに言われました。私と姉は素直に指示に従いました。


部屋に戻ると、母はソファーに座って飛び出す絵本を眺めていました。セラさんは、その側に立っています。ベルダは少し船酔い状態になっているらしく、寝室で横になっているそうです。

私と姉は、さっき見た光景を母に話し始めました。ニルスは窓から、外の景色を見ていましたが、すぐに飽きてしまったのか部屋をぐるぐると歩き始めました。


「ニルス様。パズルをして遊びませんか?」

と、セラがニルスに声をかけました。


「パズル?」

「はい。わたくしの故郷は、木工工芸が盛んな領地で、木でできたおもちゃがいろいろと作られているのですよ。」

そう言ってセラは自分の荷物の中から、小さな布袋を三つ取り出しました。


「『タングラム』というパズルです。この木の板で色々な形を作るのです。」


木の板は一瞬、正方形に見えましたが、たくさんの三角形や四角形の形の板が並べられて正方形になっているのでした。その木の板とは別にセラは羊皮紙を取り出して広げました。羊皮紙には20個ほどの複雑な図形が描いてあります。


「この様々な形の板を並べて、紙に描いてある図形を作り出すという遊びです。」


簡単そうな遊びだと思いました。パズルは三個あります。なので、私と姉も挑戦してみる事にしました。

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