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シュテルンベルクの花嫁  作者: 北村 清
第1章 母の故郷(ふるさと)
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乗船

紅茶を飲んでいると、ドアをノックする音がしました。レーリヒ卿が迎えに来られたのかと思って、私は慌ててぐびぐびと紅茶を飲みました。


しかし

「失礼します。」

と言って入って来たのは初老の護衛の方でした。


「奥様方の夕食と、明日の朝食と昼食を買って参りました。内容をお確かめください。」


内心「え⁉︎」と思いました。護衛の方がそんな使い走りのような事をしてくださったんですか?それって、自分達でしないといけない事だったのでは⁉︎


バスケットの中には、腸詰とサラダ菜を挟んだロールパンとハムとチーズを挟んだガレットが五つずつ入っていました。更にもう一つのバスケットにはクロワッサンとレーズンパンがぎっしりと入っています。


「お飲み物は水とレモネード、白ワインとシードルをご用意致しました。他に何か御入り用の物はありますでしょうか?」

「いいえ、十分よ。ありがとう。」

「では、失礼致します。」


大商会の護衛の人って品があるわね。と私は心の中で思いました。年の割に筋肉質で、大剣を持っていても全く粗野に見えない人なのです。


袋いっぱいのパンに、ニルスの目は釘付けです。

「たくさんあるから、少しお食べなさい。」

と言って、母がニルスにレーズンパンを渡しました。ニルスが、目を輝かせてパンを受け取りました。


母は私達にもパンを配ってくれました。パンは真っ白で、とても柔らかく甘い香りがしました。


「おいしいね!」

ニルスが笑顔でそう言います。この子の笑顔を久しぶりに見ました。それだけの事でとても嬉しい、幸せだと思いました。

レーリヒ卿や護衛の方に感謝しなくてはと思いました。


しばらくして、今度は女性の護衛の方が部屋へやって来ました。


「乗船時間になりましたので、移動をお願い致します。」

「わかりました。」

私達は立ち上がり、船へと向かいました。



乗船する人達はかなりの人数でした。老若男女、色々な人達がいます。階級も様々です。慎ましい服を着た、あまり裕福そうでない人達もいます。という事は、船代はそのような人達でも払えるくらいの金額なのでしょう。

乗船した人達は甲板から、ドアをくぐって大部屋に入って行きます。ガラス窓があるので甲板からでも部屋の中の様子が見えます。中には固そうな木のベンチがたくさんありました。

私と姉が、ドアの方へ向かうとレーリヒ卿が


「皆様のお部屋はこちらです。」

と後方を指さされました。


後方には船の中へと降る階段がありました。降りると、廊下があって、左右に二つ突き当たりに一つドアがありました。レーリヒ卿は突き当たりのドアを開けました。


「どうぞ、一等客室です。ご家族の皆様でお使いください。私共は、手前の二等客室を使いますので、御用命の際は声をおかけください。」

「ありがとう。」

と、母は言いました。


「王都には、明日の正午頃到着する予定です。では、失礼します。」

そう言って、レーリヒ卿は手前の部屋に入って行かれました。私はしばし、呆然としていました。目の前には、貴族の家の応接室のような、豪華な部屋があります。ソファーセットにローテーブルが部屋の中央にあって、窓の側にもソファーや安楽椅子があります。敷かれた絨毯は上質で、美しい壁紙が貼られた壁には大きな風景画が飾られていました。


「寝室や洗面所に不審な点がないかどうか確認致します。」

と、女性の護衛の方が言って、他の部屋の確認を始めました。

どうやらこの部屋には、目の前の居間以外に寝室が三つ、洗面所、ウォークインクローゼットがあるようです。ドアを全部開けて護衛の方が中を覗かれました。


「大丈夫です。どうぞ。」


・・あまり大丈夫ではないです。こんな豪華な部屋を使っても良いのでしょうか⁉︎


そもそも、船の中にこんな豪華な部屋がある。という事に驚きました。


『船』といえば、極地を目指す冒険家の回顧録に出てくるものくらいしか知らなかったのです。

たくさんの帆が張られた帆船か、貧しい労働者が手漕ぎをするガレー船しか知りませんでしたし、そういう船の寝室は狭くて汚く、ネズミ避けにベッドではなくハンモックで寝るものだと書いてあったのです。まさか、こんな高級ホテルのような部屋があるなんて思いもしませんでした。

そして、その部屋を男爵であるレーリヒ卿ではなく私達が使っても良いのでしょうか?この部屋の宿泊料はいったいいくらなのでしょうか⁉︎


疑問がぐるぐると頭を駆け巡ります。


そんな中、母は部屋の中に入って行きソファーに腰掛けました。

「あなた達も、そんな所に立っていないで座りなさい。」

と、母が言います。一番最初に順応したのはニルスでした。


「お祖母様。他の部屋も見て良いですか?」

「いいわよ。」


わーい。と言って、ニルスは駆け出します。ニルスは寝室を見て

「すごーい!」

と嬉しそうな声をあげました。

確かにすごいです。二つの部屋にはそれぞれ、大きくて清潔で頑丈そうなベッドが二つずつ置いてあります。純白のシーツはコインを落としたら跳ねそうなほど、ピンと張ってありました。サイドテーブルや椅子などの他の家具にも高級感があります。


もう一つの部屋は、他の二つの部屋の半分ほどの大きさです。そこに二段ベッドが二つ置いてありました。どうやら、ここは使用人用の部屋のようです。ですが、ニルスは二段ベッドに目を輝かせました。


「すごい!面白いベッドがある。僕、ここで寝たい!」


どう考えても、二つのツインルームに私と母と姉とニルスが寝て、この部屋にはベルダと女性の護衛の方が寝るべきだと思うのですけれど。

しかし、『面白いベッド』を見に来た母は

「いいわよ。でも、夜中にお手洗いに行く時、気をつけてハシゴを下りるのですよ。」

とニルスに言いました。


「この部屋は私とニルスとベルダの三人で使いましょう。エマとリナが一つの部屋で、もう一つの部屋は護衛の方の部屋ね。」

「よろしいのですか?」

と護衛の方が言われました。


「そうしてくださると孫が喜ぶわ。・・貴女の名前を教えてもらえるかしら。」

「申し遅れました。自分はセラフィナ・ヴィルトと申します。どうか、セラとお呼びください。よろしくお願い致します。」

そう言ってセラさんは、胸に手を当て頭を下げました。


よろしく、と言われても、彼女は商会の護衛ですから明日の昼までの付き合いですよね?と思います。


ヴォーっと、一際大きな音が響き渡りました。

そして船はゆっくりと、上流へ向けて動き出しました。

ついに王都行きの船に乗り込んだリナ達です


少しずつですがブクマや評価が増えていてとってもとっても嬉しいです

リナの事も作者の事も、これからもどうかよろしくお願いします(^ ^)

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